会長挨拶
加藤誠也
第98回日本結核・非結核性抗酸菌症学会
学術講演会の開催にあたって
会長  加藤 誠也
(公益財団法人結核予防会結核研究所)
 日本結核病学会は大正12年(1923年)に北里柴三郎先生らを中心に設立され、同年第1回総会・学術講演会が開催されました。第98回学術講演会は学会創立100周年記念大会として開催されることとなりました。この記念すべき学術講演会の会長を拝命したことは大変光栄なことであり、ご高配を賜りました関係の皆様に心より感謝申し上げます。
 学会創立当時、結核は毎年10万人以上の死亡原因であり、「国民病」として恐れられていました。1950年にストレプトマイシンが導入され、1951年に結核予防法が制定・施行され、官民挙げての対策が功を奏して患者数が減少するようになりました。1960年代から70年代にかけて年平均10%の罹患率の低下を達成しました。80年代には罹患率減少の鈍化、さらに90年代の後半には逆転上昇を経験したため、「結核緊急事態宣言」が発せられましたが、2000年以降は再び減少傾向を維持し、2021年の年報報告で罹患率は人口10万対9.2になりました。このことは、これまでの目標であった「低まん延化」が達成され、次の目標である「根絶」を目指す段階に入ったことを意味します。
 世界の2020年の罹患者数は990万人、死亡者数は150万人以上と推計されています。WHOが展開しているEnd TB Strategyにおいて、2035年までの目標として設定した罹患率人口10万対10を達成するためには2025年以降罹患率の低下を年率約17%に加速化させる必要があり、そのための革新的な技術開発が進められています。また、結核に代わるように増加している非結核性抗酸菌症に関しても基礎分野・予防・診断・治療に多くの研究課題が残されています。以上のような状況から本学会のテーマを「歴史を振り返り、結核の根絶に向けて~抗酸菌を巡る研究は面白い~」としました。
 この学会では、次のような考え方に基づいてプログラムを企画します。①先人が尽力された画期的な研究や対策を振り返り、現代の高まん延国の対策に役立てる、②今後の対策のために、高齢者や外国出生者を含めたハイリスク者への医療・対策を検討する、③診断・治療・対策の新技術と開発に必要な基礎研究の議論をする、④欧米のみならず近年進展が著しいアジアの国々を含めた国際的な医療・体制・研究を俯瞰する、⑤非結核性抗酸菌症の医療・対策や基礎的な研究について十分な議論を行う、⑥エキスパート委員会企画として、幅広い参加者を対象として基礎的な知見含めて学ぶ機会を提供する。⑦新型コロナウイルス感染症による結核の疫学や医療体制に対する影響とその対応を議論する。
 これらを通して、我が国の結核及び非結核性抗酸菌症の現状を学び、将来の対策・医療に貢献する研究の方向を考え、若手の研究者の励みとなるような学術講演会を目指したいと考えております。多くの皆様のご参加を心よりお待ちいたしております。