結核菌の薬剤感受性試験、特に試験濃度改変と比率法導入への提案

 

平成9年9月

日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会

はじめに
 現在わが国で行われている結核菌の薬剤感受性(“耐性”)検査は1%小川培地を基礎培地とし、これに2濃度(または3濃度)の各試験薬剤を含ませた培地を用いた固定濃度法が用いられている1)-3)が、多くの諸外国では1濃度の各試験薬剤を含ませたLowenstein-Jensen 培地やMiddlebrook 寒天培地を用いた比率法( proportion method )4)-7)が用いられている。
 結核病学会薬剤耐性検査検討委員会の今回の討議は、1%小川培地を用いる普通法(試験管法)による結核菌の薬剤感受性試験に限ったものであり、特に薬剤の試験濃度と現行法の改正点を中心になされた。

1.試験の名称
 薬剤“耐性”試験の呼び名は結核菌に限って用いられており、他の微生物では薬剤”感受性”試験の呼び名が用いられている。結核菌についても紛らわしさを避け、用語の統一を図ることと、この濃度で菌の発育がみられない場合は効果的であるという意味から、薬剤感受性試験と呼ぶよう提案することとした。

表 結核菌の薬剤
感受性試験濃度


2.試験濃度
 現在わが国で用いられている1薬剤につき低濃度と高濃度の2〜3濃度試験法について、その意味、検査室業務量、経済性、国際性などの見地から、1濃度であるというのが大方の意見であったが、一部の委員からは主要薬剤については2濃度にすべきであるとの意見が出され、INHのみは2濃度、その他の薬剤は1濃度とすることで意見の一致を見た。
 現状では単剤による臨床試験を行うことは不可能である。したがって、諸外国で用いられている試験濃度、血中・組織内到達濃度、試験管内感受性と臨床効果との相関性についての過去の報告を参考にして試験濃度について討議した。その結果、委員会としては表に示す濃度を用いることを提案することとした。INHについては試験薬剤濃度を2濃度(0.2,1μg/ml)とし、0.2μg/mlを基準値とするが、多剤耐性結核では1μg/mlの成績を参考とする。PZAについてはまだ研究データが不十分であることから試験法の提案を見送り、今後の検討に待つことになった。


3.菌液の調製と培地への接種
(1)試験菌

 通常、小川培地上の初代分離菌について試験するが、その際培養4週までの出来るだけ若い菌を用いる。古い培養菌には死菌が多く含まれ、正しい成績を得ることが出来ないので、このときは卵培地(例:1%小川培地)または液体培地(例:Middlebrook 7H9 )で継代培養した菌を用いる。
(2)菌液の調製法
 氷冷したガラスホモジナイザーかガラスビーズ入り試験管と蒸留水を用いて菌液を作る。調製菌浮遊液は約5分間静置して大きな菌塊が沈むのを待った後、その上清を注意深く中試験管に移し、濁度を McFarland No.1( OD= 0.2)に調整したものを接種菌原液とする。
 〔注意事項〕
@菌液調製時はエロゾール発生の危険が大きいため十分な注意を払う。
Aガラスビーズを用いて菌を分散させる場合には過剰な振盪による菌の破壊を避ける。
B容器や蒸留水は氷冷したものを用い、菌の再凝集を可及的に防ぐ。
3)培地への接種
 冷蒸留水で菌原液の100倍および10,000倍希釈液を作る。薬剤含有培地には100倍希釈液の0.1mlを接種する。対照として薬剤を含まない培地(薬剤含有培地と同時に調製したもの)を2本用意し、1本には100倍希釈液、他の1本には10,000倍希釈液の各0.1mlを接種する。


4.培養期間
 培養4週間以内で100倍希釈菌液接種対照培地上の菌の発育が十分(+++〜++++)にみられた時点で判定する。発育が遅く、4週以降に判定可能となった場合には、その成績は参考程度にとどめ、直ちに再試験をする。これは、培養期間の延長に伴うさらなる薬剤の力価の低下が考えられるからである。


5.結果の判定
 薬剤含有培地上の集落数が10,000倍希釈菌液接種対照培地上の集落数よりも多ければ耐性菌の割合が1%以上と判定し、また10倍以上であれば10%以上と判定し、この両者を記載する。耐性菌の割合が1%以上になれば治療経過中に間もなく大多数の菌が耐性菌で占められるようになるとの考えから、耐性菌の割合が1%未満を感受性(S)、1%以上を耐性(R)と判定する。多剤耐性菌の場合には10%の成績を参考にする。


6.普通法と簡便法
 委員会としては簡便法については十分な討議が行われなかったが、別途検討することが必要であろう。簡便法では培地量に比して大量の菌を接種するため所定の判定日数を越えると感受性菌を耐性菌と誤って判定すことがある。簡便法を用いている施設では精度管理のため、感受性成績が既知の試験菌数株を凍結保存しておき、それらについて少なくとも半年毎に普通法と簡便法で試験して各自の試験の精度を管理すべきである。


文 献
1)工藤祐是、斎藤 肇、高橋 宏:薬剤感受性試験、結核菌.「微生物検査必携 細菌・真菌検査」、第3版、厚生省監修、財団法人日本公衆衛生協会、東京、1987, F118- F125.
2)阿部千代治:薬剤感受性試験.「抗酸菌の検査」、第1版、財団法人結核予防会、東京、1993, 59-70.
3)網谷良一、久世文幸:薬剤感受性検査法.「抗酸菌検査法 遺伝子技術による迅速診断」、第1版、斎藤 肇、阿部千代治監修、医歯薬出版、東京、1997, 101-117.
4)Canetti G, Froman S, Grosset J, et al.: Mycobacteria : laboratory methods for testing drug sensitivity and resistance. Bull World Health Organization. 1963; 29: 565-578.
5)Canetti G, Fox W, Khomenko A, et al.: Advances in techniques of testing mycobacterial drug sensitivity and the use of sensitivity tests in tuberculosis programmes. Bull World Health Organization. 1969; 41: 21-43.
6)Kent PT and Kubica GP : Antituberculosis chemotherapy and drug susceptibility testing. In : Public health mycobacteriology. A guide for the level V laboratory, Us Department of Health and Human Services, Public Health Service, Centers for Disease Control, Atlanta, 1985, 159-184.
7)Heifets LB : Drug susceptibility tests in the management of chemotherapy of tuberculosis. In : Drug susceptibility in the chemotherapy of mycobacterial infections, Heifets LB ed. CRC Press, Boca Raton, 1991, 89-121.

 

日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会

委 員 長 斎藤 肇
 委  員 阿部 千代治、 一山  智、 鎌田 有珠、
重藤 えり子、 四元 秀毅、 鈴木 克洋、
高本 正祇、  渡辺  彰、 和田 光一、
臨時委員 河原  信、  久世 文幸、 山岸 文雄

(出典:結核.Vol.72, No.10: 597-598. 1997)

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