W.全身の結核

 結核症は、肺内に病巣を形成する肺結核だけではない。肺内病巣から結核菌が管内性、血行性、リンパ行性に播種して、全身に結核病巣を形成する。肺結核以外の結核症を肺外結核とも呼んでいる。肺門リンパ節結核、頸部リンパ節結核、胸膜炎・膿胸、気管・気管支結核、粟粒結核、結核性髄膜炎、脳結核、骨・関節結核、腎・膀胱(尿路)結核、性器結核、腸結核などが主なものである(スライド30:全身の結核)

1.肺門リンパ節結核

 初期変化群のうち肺門リンパ節が拇指頭大くらいまでに腫大、乾酪化し、リンパの流れにそって縦隔のリンパ節が次々と罹患し、リンパ節周囲炎のために相互に癒着する。乾酪壊死をおこしたリンパ節が気管・気管支に破れて肺に新しい病変を起こすことがある。X線検査に加え、気管支鏡下生検、縦隔鏡下生検などでも診断される。大多数は乳幼児期から、思春期に発生するが、最近では青壮年に起こることもあり、サルコイドーシス、悪性リンパ腫、リンパ性白血病、肺癌のリンパ節転移などとの鑑別が重要である。HIV感染合併肺結核は高率に肺門リンパ節腫大を伴い、HIV感染を疑う一つのポイントにもなっている。

2.頸部リンパ節結核

 初感染後、肺門リンパ節、縦隔リンパ節からリンパ行性、血行性に、あるいは扁桃などから侵人した結核菌がリンパ行性に播種して発生する。
 初期には1個または数個の頸部リンパ節が孤立性に腫脹するが(初期腫脹型)、リンパ節周囲炎が起こると、周囲との癒着のため可動性が乏しくなり、腺塊を形成し、自発痛、圧痛を伴うようになる(浸潤型)。これらの腺塊はやがて弾力性を失い硬くなるが(硬化型)、リンパ節の中心壊死が起こり膿瘍化し、ときに強い疼痛を来し、浅在型の場合は発赤を示す(膿瘍型)こともあり、膿瘍が自潰したり、小切開の後に潰瘍を作ったり、瘻孔を形成したりする(潰瘍瘻孔型)こともある。胸部X線で結核病巣がみられない症例も存在するので注意が必要である。
 診断は多くはリンパ節生検による。治療は化学療法が主体であるが、膿瘍型、潰瘍瘻孔型では外科療法と化学療法との併用が必要となる。

3.胸膜炎

 結核性胸膜炎には特発性(原発性)胸膜炎と続発性(随伴性)胸膜炎がある。
 特発性胸膜炎はツベルクリン反応陽転後間もなく発症する。初感染原発巣から直接またはリンパ行性に波及して起こる。若年者で突然、発熱と胸痛を伴って胸水の貯留をみる場合はほとんどがこの型である。胸痛は胸水の貯留とともに軽減する。
 続発性胸膜炎は慢性肺結核病巣から炎症が波及して起こるもので、X線で肺野に結核性陰影が認められる。稀に全身の血行性播種による胸膜炎が起こることがあり、この場合は両側性のことが多い。
 胸膜炎の診断はまずX線所見によるが、患側を下にした側臥位像では、少量の胸水でも明瞭に描出される。最近ではCTや超音波による診断も行われる。胸腔穿刺によって液体を証明すれば胸水貯留は確実である。
 結核性胸水は通常黄色調の滲出液で、細胞成分は通常リンパ球を主とする。赤沈は著しく促進し、活動度の指標となる。胸水中の糖量の低下、ADA(adenosine deaminase)の増加を示すことが多い。胸水からの結核菌の証明は核酸増幅法を用いても低率で、むしろ胸膜生検や生検組織の培養が、胸水中の細胞診とともに有力な鑑別診断となる。
 治療は肺結核と同様である。多くは1〜3ヵ月で胸水は消失するが、胸膜癒着や胸膜肥厚、限局性の胸水貯留が残って呼吸機能の障害を起こし、稀に膿胸に移行することがある。胸水が大量に貯留したり、吸収が遅延する患者には排液を行う。全身症状が強いときや胸膜癒着を防ぐ意味で、副腎皮質ステロイド薬を併用することがある。

4.結核性膿胸

 肺結核の経過中に胸腔内あるいは肺手術後の胸膜腔内に貯留した液が、肉眼的に膿性あるいは膿様性となったものである。肺手術後、胸膜炎後、人工気胸後などに発生することが多い。
 無症状で胸膜肥厚様の陰影を示すにすぎないこともあるが(滞在性膿胸)、気管支瘻や肺瘻が生じると急に発熱、咳、痰の増加がみられ、X線像では液面像が出現する。このような肺穿孔までの期間は、時に数十年に及ぶこともある。稀に胸壁に瘻孔を作る。また持続する膿胸に悪性リンパ腫の発生が見られることが報告されている。
 治療は化学療法だけでは困難で、外科的治療を必要とする例が多い。穿刺、排膿管または胸壁の一部開放による排膿、剥皮術、胸膜肺切除術あるいは膿胸腔縮小術を順次または同時に行って、膿胸腔を閉鎖する(スライド31:結核性膿胸)

5.気管・気管支結核

 肺病巣から喀出された菌が、気管・気管支粘膜上皮から直接気管支壁に侵入し、潰瘍や肉芽を形成するもので、気管支の狭窄、末梢気管支の拡張を起こすことがある。また、傍気管リンパ節の結核性病変が気管支に波及、穿孔することがある。頑固な咳、痰、血痰、喘鳴、時に呼吸困難があり、病変が声門部や咽頭に及べば、嗄声や嚥下痛も起こる。
 胸部X線写真では肺野に活動性病変がみられることが多いが、陳旧性病巣のみの場合やまったく正常のこともあるので注意が必要である。狭窄が進行すれば無気肺を生ずる。
 診断は気管支鏡下で病変を確認し、同部より結核菌を証明することによる(スライド32:気管支結核)

6.粟粒結核

 粟粒結核とは通常初感染に引き続いておこることが多いが、一般に多量の結核菌が血流内に入ることによっておこる重篤な疾患で、血行性播種性結核症であり、少なくとも2つ以上の臓器に粟粒大あるいはこれに近い大きさの結節性散布巣を有するものと定義されている。主に小児や若年者にみられるが、近年では初感染から長期間を経過して発病する症例が増加し、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の投写、あるいは透析療法、肝、血液疾患、糖尿病合併などによって免疫能が低下している場合に認められる。特に最近ではAIDS(後天性免疫不全症候群 aquired immunodeficiency syndrome)にみられる合併症としても注目されている。
 発熱は高率にみられ、全身倦怠、衰弱、食欲不振も多い。その他、咳漱、胸痛、息切れ、頭痛、腹痛などがみられる。胸部X線検査では全肺野均等に粟粒状陰影(直径1mm前後)が認められ(スライド33:粟粒結核)、胸部CT像が診断に有用である(スライド34:粟粒結核(CT像))。高熱にもかかわらず2〜4週まで異常所見のみられない例もある。また、ツベルクリン反応の陰性例も多く、喀痰中結核菌塗抹陽性率も低いので診断困難なことが多い。経気管支肺生検(transbronchial lung biopsy, TBLB)は、胸部X線で小粒状陰影を呈する他疾患との鑑別診断上有用であり、喀痰の結核菌塗抹陰性例がTBLB後の検査で陽性になる例もある。眼底検査、肝・腎・骨髄生検も診断に役立つ。本症の約30%は髄膜炎を合併する。
 治療は強カな化学療法を行う。全身症状が強いときは副腎皮質ステロイド薬を使用することがある。

7.結核性髄膜炎

 結核菌の髄膜への血行性播種、あるいは脳底部に主として生じる孤立性の肉芽腫性結核結節から二次的に髄膜への進展によっておこる。したがって、病変は脳底部の髄膜に著明にみられる。最近では、脳腫瘍との鑑別が必要な孤立性の結核結節のみで発見される脳結核も散見される。
 髄膜炎の多くは乳幼児で、初感染に引き続いて起こることが多いが、最近では compromised host の成人例も増加している。頭痛、発熱、嘔気、嘔吐、倦怠などがみられ、光や音に敏感になる。項部強直、対光反射遅延、動眼神経麻痺、意識障害などがみられる。髄液は水様透明、ときにやや混濁し、髄液圧は上昇する。蛋白質の増加、糖・クロールの減少がみられ、リンパ球を主とする細胞数の増加が認められる。グロブリン反応やトリプトファン反応が陽性となる。ADA(Adenosine deaminase)は有意に増加する。
 診断は髄液中結核菌の証明によるが、陽性の頻度は高いとはいえず、結核菌陰性の場合はADAの測定や核酸増幅法が有用である。CT画像上は脳室拡大像、梗塞像、脳底部異常造影効果が結核性髄膜炎の三大所見といわれるが、脳底部異常造影効果が最も有用であるとされる。
 治療は粟粒結核に準ずるが副腎皮質ステロイド薬を併用することが多く、髄腔ブロック形成阻止に役立つ。早期治療で死亡率は低下したが、治療が遅れると予後は不良である。水頭症や脳神経症状を残し、小児ではしばしば重症心身障害の原因となる。

8.骨・関節結核

 結核菌の血行性播種によるものがほとんどで、結核菌は一般に骨端部骨髄に定着し、結核性肉芽を作る。骨は打ち抜き状に吸収されカリエスとなり、肉芽の崩壊によって骨膿瘍となる。この膿汁が骨外にでると冷膿瘍ができる。脊椎や股関節、膝関節が侵されやすい(スライド35:脊椎カリエス(胸椎))
 脊椎では胸椎下部から腰椎に最も多く、病変は早期に椎間板に進展するので、X線像で椎間腔の狭小化がみられる。また、骨には萎縮、破壊が起こり椎体の圧潰がみられる(亀背の原因)。初発症状は背痛や腰痛で、運動障害、特に前屈障害、叩打痛などが認められる。
 関節結核は股関節、膝関節に多く、骨端部から関節に波及する骨型と、血行性に滑膜に結節を作って進展する滑膜型がある。関節裂隙の狭小化、骨萎縮、破壊、滑膜の肥厚、瘻孔形成などがみられる。関節の腫脹、疼痛で始まり、関節の機能障害を来すことが多い。
 診断はX線検査、CTスキャン、骨シンチグラフィー、骨生検、冷膿瘍中の結核菌検出などによる。癌の骨転移、関節リウマチなどとの鑑別が必要である。治療は抗結核薬による化学療法とともに手術療法により病巣郭清・固定術を行う。局所の安静および外科療法後の固定のため装具療法を行うことがある。

9.骨・膀胱(尿路)結核

 結核菌の血行性播種により、腎皮質から髄質に病変を形成する。乾酪空洞性の病変を作りやすく、尿路に破れて下行性(管内性)に尿管、膀胱に拡がる。
 尿路粘膜の結核結節、潰瘍は瘢痕化し、尿管狭窄や萎縮膀胱の原因となる。排尿痛、頻尿が主症状で、血尿(顕微鏡的血尿)、無菌性膿尿をみることがある。
 診断には尿中結核菌の検出が重要であるが、腎盂撮影(腎杯の虫食像、破壊像、変形像、空洞)、膀胱鏡検査(結節、潰瘍、瘢痕)、CT撮影などが役立つ(スライド36:左腎結核)
 治療は化学療法のほか、腎結核によって腎機能が完全に失われ、かつ、出血し、腎性高血圧を伴う場合には、外科療法として腎摘除術を行う。尿管の狭窄または閉塞によって、乏尿、無尿たは尿閉を起こした場合は、必要に応じて尿管拡張術、尿管再吻合術などを行う。

10.性器結核

 男性性器への血性播種は通常副睾丸に起こる。病変は連続的に精巣を侵し、管内性転移によって、精管、精嚢、前立腺へと進展し、硬い凹凸のある腫瘤を生ずる。
 女性性器の血行性播種は卵管に起こることが最も多いが、卵管結核の多くは結核性腹膜炎から管内性に播種して生じたものである。さらに、卵管からの管内性播種によって子宮に結核性内膜炎を起こすこともある。性器結核は不妊の原因となる。治療は抗結核薬による化学療法を行う。

11.腸結核

 大部分は結核菌を含む喀痰の嚥下によって管内性播種によって発生する。したがって、肺に活動性結核を認めることが多いが、認めないことも稀ではない。好発部位は回盲部で、空腸下部、回腸などがこれに次ぐ。病変はリンパ濾胞から始まり、潰瘍を形成する。潰瘍の治癒に伴って狭窄を生ずることもある。
 腹痛(右下腹部痛)、下痢、腹部膨満、発熱などがみられる。
 診断は便の結核菌検査、X線並びに内視鏡検査(潰瘍形成、狭窄など)によるが、開腹によって初めて診断されることもある。治療は抗結核薬による化学療法を行う。狭窄症状が高度の場合は外科療法を併用する。

12.その他の肺外結核

 結核性腹膜炎は血行性播種で起こるが、腸結核や腸間膜リンパ節結核から連続的に限局性の変化を起こすこともある。
 結核性心膜炎も血行性播種によって、あるいは肺病変から連続性に発生する。胸、心、腹膜炎が相次いで発生する多漿膜炎は血行性播種によって起こる。しばしば肝・脾にも血行性結核結節を認めるが、臨床的意義は少ない。その他、中耳(耳管より管内性に、稀に血行性に)、副腎、皮膚、眼、乳腺などにも結核性病変がみられることがあるが、稀である。

 

X.HIV関連結核

1.合併頻度

 1995年の時点で、世界に1,500万人(西暦2000年までに2,600万人と推定、WHO)のHIV感染者があり、このうちの3/1が結核に感染していると推定されている。これらのうち70%がサハラ砂漠以南のアフリカ、20%がアジア、8%がラテンアメリカとカリブに居住している。サハラ砂漠以南のアフリカでは、15歳以上の国民に占めるHIV陽性率が20%と報告される国もある。このような国では、結核既感染者が発病する最大の危険因子はHIV感染である。結核が発症する危険性は、結核とHIV双方に感染している者では、結核既感染のみの者と比較して約10倍である。HIV感染者からの結核の年間発病率は5〜8%であり、生涯発病率は50%を超えるとされる。(スライド37:HIV感染と結核)

2.発症

 結核菌はそれ自体の毒力が強いため免疫能が比較的保たれている時期でも発症する(スライド38:CD4陽性リンパ球とエイズ関連疾患)。サハラ砂漠以南のアフリカ、東南アジアなど多くの国では、結核はいまだ青壮年の疾患であり、また、HIV感染も性行為や麻薬の回し打ちなどによって感染する青壮年期の疾患である。そのため、この年齢層ではHIVと結核の重感染が多い。わが国ではAIDSの好発年齢である青壮年での結核既感染率が比較的低く、このため現在のところ両者の合併例は比較的少ない。免疫不全が進行した時期に発症した場合には、複数の臓器に血行性に播種しやすく、肺外結核がおこりやすい。胸部X線像では空洞を認めることは稀とされ、排菌はあるものの正常に近い所見であったり、リンバ節腫大を主な所見とするなど、非典型例が多いため診断の遅れの一因となる。
 AIDSでは、常に抗酸菌と他の感染症の複合感染を考慮する必要があるが、結核菌と非結核性抗酸菌の重感染は少ない。(スライド39:病期(HIV感染)による肺結核の病像)

3.治療

 結核を発症したHIV感染者の化療開始1年後の死亡率は20%程度であり、HIV未感染者と比較して高い。通常RFP、PZAを含む化学療法は有用であり、RFPが結核以外にも比較的広域の抗菌活性を有することも考慮して用いられる。菌陰性化率は、HIV陽性者と陰性者の間で有意差は認められていない。患者に使用した注射器の針刺事故による医療スタッフへの感染回避や、痩せたHIV感染者では筋肉注射による疼痛が強いことなどから、SM等の注射薬よりEBの使用が勧められる。PZAを含む化学療法の場合、方式と期間はHIV陰性の通常の結核症に準じる。勧告(CDC)では、感受性菌の場合は継続相は7ヵ月ないし培養陰性化後12ヵ月が標準である。INH耐性の場合は、EB+RFPで18ヵ月ないし培養陰性化後12ヵ月とする。RFP耐性の場合には、INH+EB+PZAで18〜24ヵ月ないし培養陰性化後12ヵ月とする。

4.副作用

 HIV感染者では薬剤の副作用の頻度が高いことが知られており、その程度は免疫不全の進行に伴って増加する。これらの副作用は、服薬開始後2ヵ月以内に出現することが多い。頻度が高いものに発熱を伴う皮疹があり、thioacetazoneが最も頻度が高く、ときにSM、RFPが関与する。この際の重篤な皮膚病変は、ときに致死的である。HIV感染者では、たとえ副作用が薬剤の過敏反応に由来すると考えられても、減感作による再使用によって重篤な副作用が出現する可能性があるため、減感作療法は行わない。またHIV感染者ではINHによる末梢神経炎の出現が多いとされピリドキシンの予防内服が勧められる。なお副作用ではないが、RFPは避妊薬の効果を減弱すること、INHとRFPが抗真菌薬のFLCZ、KCZの血中濃度を低下させること、KCZがRFPの吸収を抑制することが知られており、注意が必要である。

5.多剤耐性結核

 米国の複数の施設でAIDS患者への多剤耐性結核菌感染事例が報告された。この検討によると、@死亡までの期間が短く中央値は4〜16週、A結核死の例が多い、B感染から発病までの期間が短いことが判明しており、早期診断の必要性と耐性検査の迅速化が強調されている。結核未感染HIV感染者を結核の感染から防ぐ対策が重要であり、このためには感染源の隔離、室内陰圧など空調設備の個別化、医療スタッフへの感染による二次感染の防止対策を確立する必要がある。またHIV感染と薬剤耐性の間には相関があるとされ、HIV感染者の結核管理には配慮が必要である。

6.予防投薬

 結核の発病はHIV感染症の進展を促進するという考えがあり、予防的治療が検討されてきた。前段階として、活動性結核がないことを確かめなくてはならない。特に肺外結核の有無について十分な検討が必要である。投与する薬剤は、INHであり、5mg/kgを6〜12ヵ月投与する(WHO)。今のところ、INHにかわる薬剤として推奨るものは確立されていないが、感染源がINH耐性でRFP感性の場合、RFPは十分検討に値する。確実に服用させるための教育を含め十分なカウンセリングが必要であり、服薬中は結核の発病作用の発現を監視する。

Y.結核の管理

1.結核蔓延状況の推移

 わが国の結核は産業革命に伴って蔓延し、1918年には結核死亡率は人口10万対257.1と最高値を示したが、第二次世界大戦後は急速かつ順調に減少を続け、1995年には2.6となった(スライド40:結核死亡率の年次推移一各国比較)。年間新登録患者も1951年の59万人から1995年の約4万3,000人へと減少した。
 未感染者が1年間に結核感染を受ける確率を結核感染危険率といい、結核蔓延状態の推定に最も有用な疫学指標とされている。わが国の感染危険率は戦前には2〜6%と極めて高かったが、戦後は年間約11%の割合で減少し、1990年代には0.05%程度に下がったと推定されている。このような感染に曝露されて結核の感染をすでに受けている者の割合を年齢別にみると、1995年で5歳で0.3%、10歳で0.6%、15歳で1%、20歳になっても2%と推定される。若年者の大部分は未感染である(スライド41:年次別年齢別推定結核既感染率(%))
 しかし、わが国の結核蔓延状況は15〜20年前のオランダと同程度で、先進国の中では結核死亡率、罹患率ともにずば抜けて高い(スライド42:主要先進国および東欧諸国の結核罹患率(1994))。国内でも地域格差がみられ、西日本は東日本に比して罹患率は約1.4倍の高さであり、また都道府県別にみた罹患率の最高、最低の比は4倍近くになる(スライド43:都道府県別にみた全結核罹患率(1995))。さらに結核患者の発生は特定の階層・集団に集中化する傾向が進んでいる。このようにして結核患者は中・高年齢層、社会経済的に恵まれない人々、いわゆる免疫抑制状態にある人々などに目立つようになった。その上、1980年前後以来、結核罹患率の減少傾向は鈍化しており(スライド44:特定年齢の結核罹患率の推移)、このままでいくと、2001年になっても年間新発生患者数は3万人を割ることはないだろうと推定されている。
 一方、アフリカはじめ途上国で、また欧米でもHIV流行に結核が結びついて結核の増加が問題となっている。幸い日本ではこのような傾向はあまり目立たないが、今後は十分注意深く見守っていく必要がある。

2.結核対策

)BCG接種
 結核発病の予防対策にはBCG接種と化学予防の2つがある。BCG接種は未感染者にワクチンを接種して免疫を付与し、化学予防は既感染で発病の危険が高い者に抗結核薬を投与し、発病を防ごうとするものである。
 わが国ではBCG接種は管針法による経皮接種が行われている(スライド45:BCG)。初回接種では接種後10日頃から針痕部に発赤が生じ、やがて小さい膿疱となる。この変化は接種後約1ヵ月頃に最も強く、またこの時期にツベルクリン過敏性が成立する。局所は接種後3〜5ヵ月頃までには、針痕に一致した瘢痕を残して治癒する。接種1年後まではツ反応径は発赤平均14〜18mmを示すが、その後は徐々に減弱する。ツベルクリン反応が減弱したときに、再度ツベルクリンを注射すると、これが「ブースター効果」をもたらし、ツ反応はもとの大きさを回復する。正しい技術でBCGを1回接種すれば、その効果は少なくとも10年間は持続し、発病率は非接種者のおよそ1/2ないし1/5になる。現在わが国では4歳に達するまでのできるだけ早い時期に初回接種を行い、小学1年生および中学1年生に再接種を行う。いずれの時期にもツ反陰性の者を接種の対象とする。

2)化学予防とマル初
 結核既感染で発病の危険が高い者の発病を予防する唯一の方法は化学予防である。化学予防ではINH7〜8mg/kgを6ヵ月投与する。INH耐性菌感染例などにはRFPを投与する。化学予防によって発病率は1/2ないし1/5に低下する。
 「発病の危険が高い者」とは、最近結核の感染を受けたと考えられる者、とくに塗抹陽性患者から感染を受けた者、不活動性または治癒所見をもち化学療法歴のない者、とくにこれらの者が副腎皮質ステロイド薬投与や透析療法を受ける場合などである。29歳以下の高危険群に対する化学予防は「初感染」の診断名(マル初で表す)のもとに結核予防法による公費負担の対象とされる。
 乳幼児ではBCG接種歴も結核感染曝露もないのに、ツベルクリン反応が10mm以上の反応を示すことが少なくない(false positive)。このため、BCG接種歴なしに発赤10mm以上の反応を示した者は、2ヵ月以内に再びツベルクリン反応検査による確認を行うなどして、不必要に化学予防を行わないようにすることが望まれる。
表6 化学予防マル初の
適用基準

 日本ではBCG接種が広範に行われているため、ツベルクリン反応検査によって結核感染の有無を判断するのが困難である。塗抹陽性患者との接触歴とBCG接種歴との関連から表のような目安を参考にマル初対象を決定する(表6)(スライド46:化学予防マル初の適用基準)。ここで「最近の感染が疑われる者」という条件は、BCG接種が確実に行われているような集団に属する者の場合には、ツベルクリン反応がこの基準を満たしていても機械的にマル初としないこともあり得ることを意味する。

3)患者発見
 結核患者の早期の発見のためにわが国では集団検診が広く行われてきたが、有症状者の自発的医療機関受診時に結核と診断される受動的患者発見が、最近は特に重視されてきている。症状出現から受診までの期間を「受診の遅れ」(patient's delay)、受診から診断までの期間を「診断の遅れ」(doctor's delay)とそれぞれ称するが、これらの期間をできる限り短くし、患者が結核菌を周囲にまき散らす期間を短くすることが重要である。

4)接触者検診
 結核患者の周囲の者は結核感染を受ける危険が高いが、感染危険率の低下に伴い、最近では家族内感染などの患者接触者の感染が特に目立つようになった。とりわけ塗抹陽性患者の周囲の者の感染の危険率が高い。またとくに患者が若年者の場合には、その患者に対して感染源となった者が周囲にいることも考えられる。そこで結核患者の発生に際しては保健所は患者の家族を中心に、濃厚な接触関係のあった人に対して接触者検診(家族検診、より広く定期外検診とも呼ぶ)を行い、未発見感染源の追究や被感染者・続発例の発見を試みる。接触者検診では問診、胸部X線検査の他、若年者には必要に応じてツベルクリン反応検査も行う。また検診は初発症例の発見直後1回のみでなく、感染のリスクに応じて6ヵ月後、1年後等追跡することが重要である。
 結核の感染を受けてもツベルクリン反応が陽転するまでに4〜8週要するので、感染の有無の診断こはこの期間を考慮してツベルクリン反応検査を行う必要がある。接触者検診で感染が明らかになった者には化学予防を行う。
 なお、医療従事者は職業上感染に曝露されやすい。就業時のツベルクリン反応検査と陰性者に対するBCG接種、陰性者では感染源に濃厚に曝露したときのツベルクリン反応検査、胸部X線検査による追跡と必要に応じた化学予防、平常時の定期検診などは、自らと患者を結核の院内感染から守るために肝要である。

5)結核集団感染
 同一の感染源が、2家族以上にまたがり、多数に(日本では便宜的に20人以上とする場合が多い。ここで続発患者1人は被感染者6人相当とみなす)感染させた場合を結核集団感染という。わが国では1995年までに130件の事例が報告されており(スライド47:わが国の結核集団感染)、結核感染危険率が0.1%を下回った1980年以降、報告が増えていることが注目される。オランダなど結核先進国でいまでも集団感染が注目されていることから考えると、わが国でも当分は発生すると考えられる。
 結核集団感染は主として塗抹陽性患者が、激しい咳が続くのに社会的活動を続けた場合に起こることが多い。実際には学校・塾など若年者の集団生活の場で結核患者が発生した場合、職場などであいついで2人以上の患者が発生した場合、まれな種類(中耳結核など)の結核が発生した場合には保健所は集団感染を想定した定期外検診の実施を検討する必要がある。

6)患者管理
 結核患者が発生した場合、@患者の規則的な治療を確保し、A治療終了後は一定期間再発をチェックし、B患者家族や他の患者接触者の検診を行って周囲の者の安全をはかるなど、患者や周囲の人々への支援を行い、同時に結核の伝染が拡がることを防止する対応が必要である。このような一連の活動は患者管理とよばれ、保健所が中心的な役割を担っている。とくに規則的な治療継続や脱落者の治療復帰のための指導、環境の調整は今後ますます重要な保健所業務となりつつある。
 臨床医の側でも、結核と診断したときには患者に対して病状・治療計画などを説明して、確実に服薬を続けるよう指導し、必要があれば保健所と協力してこれを行うことが大切である。また主治医は保健所に患者の病状に関する情報を提供することも求められる(「定期病状報告」という)。
 保健所では治療が必要な患者が治療を放置した場合や、また登録者が治療終了後再発のおそれのある場合には臨時の検診(管理検診)を行って必要な指示や指導を行う。

3.結核予防法

 わが国の結核対策は、1951年に大改正された結核予防法に基づいて行われている(スライド48:結核予防法)。この法律によって、予防接種、健康診断、患者管理と治療の制度が体系づけられている。
 同法第22条では「医師は、診察の結果受診者が結核患者であると診断したときは、2日以内に、その患者について省令で定める事項(患者の住所、氏名、生年月日、性別、職業、病名、診断の年月日)をもよりの保健所長に届け出なければならない」とし、第63条では届け出を怠った医師に対する罰則を定めて、届け出を義務づけている。この第22条による結核患者の届け出は国の結核対策の基本となる重要なものである。
 また同法第29条には「結核を伝染させるおそれのある場合には、患者を結核療養所または病院に入院させることができる」とし(入所命令)、喀痰検査で塗抹陽性の肺結核患者を中心として感染源となるおそれの大きい患者(他に、その他の菌陽性患者、有空洞例、病巣の広がりが2以上の肺結核患者も対象となりうる)の入院治療を促進するとともに、その医療費は第35条によって健康保険の自已負担分を公費で負担することになっている。また上記以外の入院患者および外来で治療する患者の結核医療費も同法第34条により、自已負担分の半額を公費で負担することとなっている。これらの医療費公費負担を受けるためには、医療機関は保健所に申請書を提出し、診査によってその治療内容が適正であることの認定を受ける必要がある(スライド49:結核対策における保健所の役割)

4.結核サーベイランス

 疾病サーベイランス(流行監視)とは、疾病の流行状態や対策の実施状況に関する情報を継続的に集め、分析し、結果を現場に還元する一連の活動を意味する。わが国では1987年から全国の保健所にコンピューターを設置し、これに結核登録者に関する情報を常時入力し、これを都道府県、さらに国のコンピューターシステムに結合している。このようにして毎月、毎年の全国、都道府県および保健所レベルの結核登録者の状況が把握できるようになっている。これによって結核患者の発生状況、その関連要因、結核管理の状況が正確・精密に知られるようになり、対策の評価・立案に重要な資料を提供している。

 

付.非結核性抗酸菌症

1.非結核性抗酸菌とは
 非結核性抗酸菌とは、結核菌群以外の培養可能な抗酸菌(表1参照、前掲)を一括した呼称であり、それによる感染症は非結核性抗酸菌症とよばれている。従来は、非定型抗酸菌、非定型抗酸菌症と称されていたものである。菌種が同定できた時点でその菌種名を附した感染症とよぶ(M.avium とM.intracellulare は性状が類似しており、これらを一括してM.avium-M.intracellulare complex あるいはM.avium complex とよぶことが多い)。これらの菌は塵埃、土壌、水などの自然界に由来すると考えられており、ヒトからヒトヘの感染は無視しうるとされている。

2.わが国における非結核性抗酸菌症の現況
 わが国における非結核性抗酸菌症の年間発生率は1994年には人口10万対4.06に増加し、肺抗酸菌症中の非結核性抗酸菌症の率は約14%に上昇している。現在、菌種別で最も多いものは、M.avium complex 感染症で、非結核性抗酸菌症全体のほぼ70%を占めているが、最近M.kansasii 感染症の発生率が増加して非結核性抗酸菌症全体の20%を超え、発生も全国に及んでいる。また、M.scrofulaceum, M.szulgai, M.chelonae, M.fortuitum などの感染症も増加し、非結核性抗酸菌症の多様化がみられるようになった(スライド50:わが国における非結核性抗酸菌症の現況)

3.非結核性抗酸菌の分離・同定
 臨床材料からの非結核性抗酸菌の分離は、結核菌の分離培養に準じて小川培地を用いて行われるが、多くの非結核性抗酸菌は結核菌に比してアルカリに弱いので、水酸化ナトリウムによる前処置の時間が長くならないように注意する。
 皮膚感染を疑う場合は、37℃の培養に加え、28℃の培養も行う。
 Ziehl-Neelsen 染色で抗酸菌であることを確認した後、ナイアシンテストやバラニトロ安息香酸培地を含む数種の検査で総合的に同定・鑑別を行う。菌種の同定は市販の簡易同定キットを用いてよいが、同定キットに指示された反応がすべて適合する場合にのみ、同定結果を信用する。またM.kansasii, M.avium complex, M.scrofulaceum, M.gordonae, M.nonchromogenicum, M.fortuitum, M.chelonae以外の、わが国では稀か報告されたことのない菌種については、専門施設に同定を依頼したほうがよい。近年、核酸増幅法に基づいた鑑別・同定キットが開発され、これらを利用することにより短時間のうちに鑑別・同定することができるようになった。
表7非結核性抗酸菌症の診断基準
国立療養所非定型抗酸菌症共同研究班

4.肺非結核性抗酸菌症の診断基準

 本症の診断基準には日比野・山本の診断基準(それを改良した非定型抗酸菌症研究協議会の診断基準)および国立療養所非定型抗酸菌症共同研究班の診断基準がある。前者が満たされれば確実に本症と診断しうるが、厳格過ぎるきらいがあり、本症を見逃さないためには後者が便利である(表7)(スライド51:非結核性抗酸菌症の診断基準)

5.非結核性抗酸菌症の病像

 非結核性抗酸菌症のほとんどは肺疾患であるが、少数例では皮膚疾患、リンバ節炎や全身播種型などの肺外疾患を起こすこともある。非結核性抗酸菌は一般に毒力が弱く、日和見感染症の起炎菌の側面があり、宿主の抵抗力の減弱に伴って発症することが多い。HIV感染者では、本症の合併頻度が高い。
 M.avium complex感染症:中高年(平均年齢68歳)の男子に多く、肺結核、胸膜炎、肺気腫、気管支拡張症などに続発することが多い(二次感染型・続発型)が、基礎疾患なしに起こることもある(一次感染型・原発型)。次第に女性例が増えつつある。症状は咳、痰、血痰などで非特異的である。胸部X線所見は肺尖部の胸膜直下にある比較的薄膜の空洞が特徴といわれているが、他に肺結核とまったく区別しえないもの、空洞がなく、中葉・舌状部に限局するもの、気管支拡張様のものなどがあって多彩である(スライド52:二次感染型 M.avium complex 症)
 M.avium complex 感染症は、一定以上進展すれば少しずつ悪化して死亡することが稀でない。肺結核が治癒した後の微量排菌では M.avium complexの率が高い。本症には粟粒散布を含む肺外疾患、骨膿瘍がみられることもある。
 なお、最近では核酸増幅法を利用して、比較的容易に M.avium と M. intracellulare を分別同定できるようになった。
 M. kansasii 感染症:比較的若年(平均年齢53歳)に多く圧倒的に男子に多い。一次感染型の肺疾患が多い。
 その他の菌種:二次感染型または一次感染型の肺感染症を起こすが、速発育菌群(M. chelonae, M. fortuitum など)による例が多い。

6.非結核性抗酸菌症の治療

 非結核性抗酸菌症のうち、感受性を示す薬剤のあるM. kansasii, M. szulgai 感染症の治療は比較的容易であるが、感受性のある薬剤に乏しいM. avium complex, M. fortuitum, M. chelonae 感染症の治療は困難なことが多い。これらの症例のうち、一次感染型にはある程度の治療効果が見られるが、二次感染型の治療効果は悪い(スライド53:非結核性抗酸菌症の治療指針)
 M.avium complex感染症:SM、KM、EVMのうち1剤の注射と、EB、RFP、INH、TH、CSのうち2〜3剤の内服を組み合わせた3〜4剤併用療法をまず試みる。幸い菌が陰性化したり、大量排菌が微量化すれば、副作用がないかぎりその治療を比較的長期間続けたほうがよい。上記以外にも、clarithromycin あるいはニューキノロン類の1剤を併用すれば、より良い治療効果が得られる可能性がある。菌陰性化に失敗した場合、無治療で経過を観察する場合もある。しかし大量排薗の持続する例では、治療中止後に悪化をみることもしばしばある。外科療法の適応があれば積極的に肺切除を行う。隔離のためのみの入院は必要ないが、合併症の治療、多剤併用療法の副作用の監視などのためには入院させた方がよい。
 宿主の抵抗力の増強に努める必要もあり、栄養の補給、合併症の治療を強力に行う。発熱、咳、痰、食欲不振などに対する対症療法、混合感染に対する一般抗菌薬投与も大切である。
 M. kansasii 感染症:RFP、TH、CS、EBなどに感受性があり、RFP、THを含む3剤併用を行えばえば、ほとんどの症例で菌陰性化を期待しうる。治療期間は1年でよい。THが使用できない場含には、RFP、EB、INH3剤併用に、治療開始後3ヵ月間SMを併用する方式も勧められている。
 M.szulgai感染症:RFP、EBにKMまたはTHを加えて治療すれば菌陰性化を期待しうる。
 M.fortuitum感染症、M.chelonae 感染症:治療は困難であるが、M. avium complex 感染症と同様の多剤併用療法が試みられている。これらの菌種にもニューキノロン剤が有効との報告がある。

[註]:スライドは結核菌群に特異的なDNA部分( insertion sequence, IS6110 )を polymerase shain reaction (PCR) 法により増幅したものである。結核菌群にだけ増幅されたDNA断片(317bp)を認める。

文  献
1)岩井和郎(編):結核病学、T基礎・臨床編、結核予防会、1985.
2)島尾忠男(編):結核病学、U疫学・管理編、結核予防会、1985.
3)泉 孝英(編):結核、医学書院、1985.
4)厚生省保健医療局結核難病課(編):昭和61年度改正、結核医療の基準とその解説、結核予防会、1986.
5)日本結核病学会治療委員会:非定型抗酸菌症の治療に関する見解、結核、62:77、1987.
6)青木正和:ヴィジュアルノート結核研究の進歩と今後の展望、結核予防会、1993.
7)和田雅子(訳):非結核性抗酸菌症の診断と治療、資料と展望、5:21、1993.
8)青木正和:ヴィジュアルノート結核基礎知識、結核予防会、1995.
9)坂谷光則:日本における非定型(非結核性)抗酸菌症、資料と展望、17:15、1996.



 

(出典:結核.Vol.72, No.9: 523-545, 1997)

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