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T.結核症の発生病理
1.結核菌
1)結核菌の分類学上の位置
Bergey's Manual第9版ではグループ21抗酸菌と記述され、 このグループはただ1つの抗酸菌属を含んでいる。
表1 ヒトに対する起病性別にみた
抗酸菌菌種 |
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結核菌(M.tuberculosis) は抗酸菌属(genus Mycobacterium)に属し、M.bovis,
M.africanum とともにslow growers(発育の遅い菌) のなかの結核菌群に属する(表1)(スライドl:ヒトに対する起病性別にみた抗酸菌菌種)。
ヒトの結核症は通常M.tuberculosisによって起こる。BCGは強毒M.bovisを牛胆汁加グリセリン馬鈴薯培地に13年間、
230代継代して作られた弱毒菌株である。
2)結核菌の性状
結核菌は長さ1〜10μm、幅0.2〜0.7μmのやや彎曲した細長い杵菌で、鞭毛、芽胞、莢膜を欠き、
ときに多形性を示す。
細胞壁は脂質に富み、色素の通過を妨げるので、その染色には媒染剤を加えた色素溶液で加温染色する。 結核菌一般的な染色法はZiehl-Neelsen
法である(スライド2:喀痰中の結核菌(Ziehl-Neelsen染色)。 染色標本では、しばしば強く染色される顆粒が見える。
偏性好気性菌で、発育至適温度は37℃、至適pHは6.4〜7.0である。臨床材料からの結核菌の培養には、全卵を基礎とした
固形培地(小川培地など)が広く用いられている。喀痰中の結核菌はこの培地上では3〜8週でR型の集落を形成する。結核菌 の性状を特徴づける構成成分は脂質であって、菌体乾燥量の40%に達する。細胞壁成分はアジュバント活性など種
々の生物活性を示し、脂質が60%を占めている。ツベルクリン活性物質は蛋白である。
2.結核菌の感染と初感染原発巣
結核菌に感染したことのないヒト(未感染者)が、結核菌に初めて感染することを初感染という。通常、結核菌は患者の 痰のしぶきを吸い込むことによって(飛沫感染)気道から肺に入り、胸膜直下の肺胞に定着する(感染の成立)。結核菌は、
初感染部位で好中球と肺胞マクロファージに貧食されるが、一部は殺菌されることなくマクロファ一ジ内で増殖を繰り返し、自ら 侵入したマクロファ一ジを殺して滲出性病巣を作る。これを初感染原発巣という。
滲出性病巣の中心部は速やかに凝固壊死(乾酪壊死)に陥り、病巣周辺のマクロファージは、結核菌菌体(細胞壁成分)からの 抗原・非特異的刺激をうけて、類上皮細胞やLanghans巨細胞に分化して肉芽組織、いわゆる結核結節を形成する(繁殖性反応)。
この結核結節は、死菌によっても形成され、結節内の感染マクロファージは死滅して、周囲は線維化し、中心部には乾酪化が見られる。
これは結核菌感染をうけた宿主における初期の抗菌活動というべきもので、結核菌は空気を遮断された乾酪組織内では増殖し得ない。
結核結節は、このように結核菌を結節内に閉じこめ、それ以上の菌の増殖を防ぐ役割をもっている。しかし、一部の菌は増殖すること
なく、いわゆるpersisterとして生存し統ける。肉芽組織は最終的に膠原線維に転化し、病巣は被膜で包まれる(増殖性反応)。この
ような初感染原発巣では数カ月後から石灰沈着が始まり、乾酪物質は次第に水分を失って白亜状となり、数年後に石状となる (スライド3:結核病変の基本型)。
3.結核免疫、ツベルクリン・アレルギー
結核免疫には自然抵抗(非特異的)と感染後の獲得免疫(特異的)がある。これらの反応に関与する細胞には、結核菌 に特異的に反応するTリンパ球と非特異的に働く細胞(NK細胞、マクロファージ、γ/δ細胞) がある。自然抵抗は食細胞による貧食、体液のリゾチーム、炎症作用、補体などによるもので、その程度は動物の種属、人種、性、
年齢によって異なり、獲得免疫を発現する能力とも関連がある。
獲得免疫の機構は、まず結核菌やBCGを貧食したマクロファ一ジから抗原情報がTリンパ球に伝達され、Tリンパ球は感作さ れる。感作リンパ球は記憶細胞としてリンパ節傍皮質領域に待機し、結核菌と再遭遇すると活性化、増殖して、各種のリンホカイン
を放出し、マクロファ一ジを集積、活性化させる。活性化マクロファージでは菌の増殖阻止あるいは殺菌能が高まる。初感染による 獲得免疫は通常感作Tリンパ球による遅延型ツベルクリン過敏性を伴い、両者は長年持続する。
4.結核症の発病と進展
初感染にさいして胸膜直下の初感染原発巣には滲出性病変が形成されるが、免疫成立前の比較的早い時期に、結核菌を細胞 内に含む一部のマクロファージはリンパ行性に所属の肺門リンバ節に移行し、ここにも病変を作る。初感染原発巣と肺門リンパ節病変
とを併せて初期変化群と呼ぶ。初期変化郡の病巣は、一般に被包化、石灰化などの経過を経てよく治癒するため、大部分のヒトは発病
することなく一生を過ごす。また、一部の菌はリンパ行性あるいは、血行性(silent bacillemia)に肺尖部に達し、いわゆる
“vulnerable region"となる。これらの部位でも、菌は宿主の細胞性免疫から逃れ、あるいは形態を変えることによって、
persisterとして生存し続ける(スライド5:結核菌感染から発病まで)。
初感染を受けたヒトの一部では、肺の初感染原発巣、肺門リンパ節病巣、あるいは両者に、初感染に引き続いて進行性の病変が 形成される。これを初期続核症(一次結核症)と呼ぶ。肺門・縦隔リンパ節結核、頸部リンパ節結核はもちろん、胸膜炎も細胞性免疫
の成立が不十分な時期におけるリンパ行性の進展によっている。さらに、縦隔内の静脈角リンパ節から血行性に散布することによって、
粟粒結核(早期蔓延)を生じ、肺の他に骨髄、 肝、腎、脾、中枢神経系などの諸臓器に病変を形成する。
生体は、感染後4〜8週で結核菌成分による感作が起こり免疫が成立する。そのため初感染成立後は、外来性の再感染は極めて 稀であり、初感染後長い年月を経て発病する成人型の慢性結核症(二次結核症)も、基本的に潜在していた初感染由来の菌による
既感染発病である。すなわち、persisterとして残存していた結核菌が、“眠り”からさめて増殖を始め(内因性再燃)、それによる
病変が管内性(apico-caudal)に進展したものである。通常、肺尖部(Sl,S2) ないしS6から進展することが多い。
宿主の免疫機能が免疫機能が正常であると、結核菌体蛋白を抗原とする遅延型過敏反応の結果、組織の乾酪壊死を生じる。 空洞は、この乾酪物質が液化し、所属する気管支(誘導気管支)に破れ、排出されることによって形成される (スライド6:被包乾酪巣と空洞の肉芽像)。結核菌はこの開放性空洞内では非常に増殖しやすく、大量の排菌をもたらすため、
他人のみならず自己の健常組織に対する感染源としても重要である。肺内の活動性病巣から健常肺組織への進展は管内性(経気道性)
に生じ、段階的に進展することからシュ一プ(Schub)ともよばれている。肺では、一般に背側上方から前下方、一側から対側へと
広がり、次第に重症化する。咽頭結核、気管・気管支結核、腸結核も管内性進展である。また、成人にみられる粟粒結核(晩期蔓延)
は血行性に散布したものである。
初感染からすぐに発病する一次結核と、内因性再燃による二次結核との発生病理は、本質的な違いではなく時間的な差であり、 局所における菌量または毒力と宿主の細胞性免疫能とのバランスによっている。BCG免疫は、この初期変化群形成後のリンパ行性、
血行性の進展を阻止することによって、特に、一次結核(胸膜炎、粟粒結核、髄膜炎等)の発病を阻止すると考えられる。また、 ヒトの結核では外来性感染は稀であるが、菌の曝露量が大きかったり、HIV感染者のように宿主の免疫能の低下が著しい場合には、
再感染による発病があり得る。
図1 結核病巣の進展と治癒の
基本 過程 |
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5.結核病巣の形態学的治癒過程
結核病巣の形態学的な治癒過程には、消退、線維化、被包化、石灰化の4様式があり、通常はこの4様式が混じた形で治癒する。
空洞の治癒には、壊死物質を残したまま誘導気管支が閉鎖して被包乾酪巣となれば閉鎖性治癒であり、壊死物質が完全に排除された後、
空洞壁が膠原線維のみとなって残存すれば開放性治癒、さらに空洞が閉鎖して結合織の塊となれば瘢痕性治癒である。しかし、これら
はあくまで形態学的な治癒過程であり、殺菌的治療が行われない限り、治癒病巣内部に結核菌はpersisterとして残存し得る(図1)
(スライド7:結核病巣の進展と治癒の基本過程)。
U.結核の診断
結核の診断は、喀痰などの材料、病変組織から結核菌を証明すれば確定する。X線所見、ツベルクリン反応、身体的所見、 病歴などは参考になるが決定的ではない。
1.病歴と症状
結核は伝染性疾患であり、特に小児では、家族、その他の感染源との接触の有無を問診する。ツベルクリン反応歴、BCG 接種歴、既往の胸膜炎、肺結核の有無およびその症状と治癒歴、糖尿病、じん肺、腹部手術、副腎皮質ステロイド薬使用歴、透析療法
の有無など結核を誘発しやすい諸条件を聞くことも大切である。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者では結核の発病率が際だって
高い。
肺結核患者には自覚症状の少ない例もあるが、わが国では新発見患者の80%以上が自覚症状で発見されている。咳、痰、胸痛、 血痰、喀血、発熱、倦怠感などが肺結核の主な症状であり、咳、痰が2週間以上続く患者では結核も念顕において検査を行うべきである。
2.ツベルクリン反応
ツベルクリン反応検査の場合は原則として結核菌感染を否定できる。わが国ではBCG接種が普及しているため、ツベルクリ
ン反応が陽性(10mm以上)でも必ずしも結核菌感染を意味しない。
結核菌感染者でも感染後4〜8週間はツベルクリン反応は陰性である。その他、結核病巣が完全に治癒した場合、粟粒結核、 重症結核で一般状態が極めて悪い場合には陰性のことがある。サルコイド一シス、悪性リンパ腫、過敏性肺炎、麻疹、猩紅熱などに
罹患したとき、また副腎皮質ステロイド薬使用中などには陽性だった反応が一時的に陰性化あるいは滅弱することがある。老人では 一般に反応が弱い。
現在ツベルクリン反応検査に使用されているのは精製ツベルクリン(purified protein derivative,
PPD)で、通常は 「一般診断用」(0.05μg/0.1ml、2.5TU相当)を使用する。他に「碓認診断用」(0.5μg/0.1ml)「強反応者用」
(0.01μg/0.1ml)がある。凍結乾燥したPPDを所定の溶液で溶解した後0.1mlを前膊内側に皮内注射し、48時間後に判定する
(スライド8:ツベルクリン反応検査の実施法)。
判定は発赤の長径を記載し、9mmまでを陰性(−)、10mm以上を陽性とし、硬結(硬)、二重発赤(二重)、水庖(水)、 壊死(壊)などがあれば併記する。陽性の反応を分けて、発赤のみの反応は弱陽性(+)、硬結を伴う反応を中等度陽性(++)、
二重発赤、水胞、壊死を伴う反応を強陽性(+++)とする(表2)
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表2 ツベルクリン反応の判定 |
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(スライド9:ツベルクリン反応の判定)。PPD液は稀薄な蛋白溶液であるため失活しやすく、一度溶解したら
2〜3時間以内に使用する。少人数を対象とするときには一人用のPPD試薬を用いるのがよい。
3.結核菌検査
喀痰、咽頭ぬぐい液、胃液、気管支肺胞洗浄液などの材料からの結核菌の検出は、結核の確定診断に役立つ。 また菌量や菌の抗結核薬感受性を知ることもできて、検出した症例の重症度、感染源としての意義、治療方針についての
重要な情報を得ることができる。手技は厚生省監修の結核菌検査指針を参考にする。
一般に起床時から朝食までの間に痰をとるが、痰の少ない患者ではネブライザーで10%食塩水を約10分間位吸入 させた後に痰をとる方法もよい。咽頭ぬぐい液は滅菌した綿棒で咽頭蓋部内面をぬぐって採取する。痰のとれない患者や
集検時に便利である。胃液検査は早朝空腹時に消毒ゾンデで胃内容をとり(20〜30mlの滅菌食塩水で洗うこともある)、 直ちに遠心して培養する。小児を含めて喀痰のとれない患者に行う。菌検査当日の抗結核薬の服薬は中止する。
喀痰塗抹検査には通常Ziehl-Neelsen法を用い、判定は通常ガフキー号数で表す(スライド10:
ガフキー号数)。喀痰1ml中6000〜7000個の菌があれば塗抹陽性となる。蛍光染色標本の蛍光顕微鏡下の観察で
検出率は高くなる。塗抹検査は培養検査に比べると検出率は低いが、直ちに結果が得られるので時間をかけて綿密に鏡検する。 排菌量の多い塗抹陽性患者は臨床上、公衆衛生上特に重要なので、培養のみ陽性の患者と区別して取り扱う。最近では検体か
直接結核菌に特意的な核酸(DNAあるいはRNA)を増幅する方法が開発され迅速診断に応用されている
(スライド11:結核菌のPCR、註参照)。
培養検査は成績判明までに通常4〜8週間かかるが、塗抹陰性の少数の菌でも検出でき、また菌の薬剤感受性を知る ことができる。R型、灰白色ないし淡黄色のコロニー(スライド12:小川培地の結核菌集落)を認め、 ナイアシンテスト陽性であれば結核菌と同定する。最近増加傾向にある非結核性(非定型)抗酸菌との鑑別に注意する。近年、
鑑別同定に核酸を用いたキットによる迅速法も行われている。
薬剤感受性検査では、対照に比して75%以上のコロニー数の発育があれば、その濃度に完全耐性、それ以下の発育で あれば不完全耐性、発育がなければ感性とする。菌量が多すぎるとき、薬剤含有培地の保存が悪いときは、本来感性であるの
に誤って耐性と判定されることがある。
少なくとも、表4
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表3 結核病学会病型分類 |
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に示した濃度の薬剤を含有する培地で完全耐性を示す結核菌を喀出している患者には、 その薬剤による治療効果は期待できない。
結核菌検査は治療開始前に連続3回以上、治療開始後も毎月1回は行う。
4.X線診断
各種の非結核性肺疾患が肺結核と類似の異常影を示すので、胸部X線所見だけから結核と診断すると誤診の危険性がある。
慢性(二次)肺結核の病巣は、X線上、肺の後上部(S1,S2、
S6)に多く、しばしば主病巣の近くに散布巣(娘病巣.satellite lesion)がみられる。ただし、
近年臨床症状の強い下肺野結核をはじめ、結核症の胸部X線像の変貌が指摘されている。陰影は多彩で、肺野陰影として浸潤、 空洞、結節、散布、硬化、石灰化などの種々の病変や胸膜病変などもみられ、これらの病変はしばしば混在している。病変部が
広範で瘢痕萎縮が強くなると、肺門陰影の挙上、縦隔の偏位などがみられる。
初期(一次)結核症は、いずれの肺野にも出現し、臨床症状の強い下肺野結核の型で発症するものがある。肺門・縦隔 リンパ節の腫大や胸水を伴うことがあるのも特徴の一つである。
肺結核の胸部X線所見に病型分類には幾つかのものがあるが、結核病学会病型分類は臨床および疫学上広く用いられて いる(表3)
表4 抗結核薬の種類と
耐性基準 |
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(スライド13:結核病学会病型分類)、(スライド14: 結核病学会病型分類T-U型)、(スライド15:結核病学会病型分類V-W型)。
5.内視鏡検査と生検
肺癌をはじめとする種々の肺疾患との鑑別、排菌のない肺結核の確診、気管・気管支結核の診断、外科治療適応の決定、 術後の気管支瘻の診断などに気管支鏡検査は不可欠である。現在ではむしろ気管支鏡検査が安易に行われている傾向がある。
環境汚染や術者被爆を避けるため、結核が疑われる病変を認める場合には、塗抹陰性であることを確かめて施行すべきである。
生検によって病変組織に壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫が証明され、結核菌が検出できれば結核の診断は確実である。気管支 肺胞洗浄液(BALF)や病巣擦過検体の塗抹、培養検査も広く施行されるようになってきているが、ことに、これらの検体を用いた
核酸増幅法による診断は有用である。顕部リンパ節生検、胸膜生検は肺癌との鑑別に役立つ。経気管支肺生検、肝生検、骨髄生検 は粟粒結核の診断に役立つ。生検材料の細菌学的検査は必ず行う。二次汚染を防ぐため内視鏡の滅菌は厳重に行うべきである。
また水道水などからの非結核性抗酸菌の汚染による塗抹陽性にも注意する。また最近の診断、治療法の進歩の一つに胸腔鏡の応用 がある。通常の胸膜生検や経気管支生検で鑑別困難な場合に有用である。
6.呼吸機能検査
肺結核の病変がある程度以上拡がった場合、胸水が貯留したり、胸膜胼胝が形成された場合は、呼吸機能障害が起こる。 一度おかされた呼吸機能は不可逆的なことが多く、化学療法で細菌学的治療が得られても呼吸機能障害を残す症例も少なくない。
外科療法を行う場合には、術後の呼吸機能について十分配慮する必要がある。
7.鑑別診断
肺結核と鑑別すべき疾患は極めて多いが、胸部X線上次のようなものがあげられる。
胸部X線上浸潤陰影を呈するものは、細菌性肺炎、異型肺炎、気管支拡張症、肺癌、肺真菌症、サルコイドーシス、PIE症 候群、肺寄生虫症、肺梗塞、Wegener肉芽腫症など。
結核性陰影を呈するものは、肺癌、肺の良性腫瘍、vanishing tumor、肺寄生虫症、肺真菌症、肺分画症、肺動静脈瘻、
Wegener肉芽腫症、横隔膜ヘルニアなど。
空洞性陰影を呈するものは、肺化膿症、肺癌、肺寄生虫症、肺真菌症、肺分画症、Wegener肉芽腫症、横隔膜ヘルニアなど。
散布性陰影を呈するものは、びまん性汎細気管支炎、肺腫瘍(転移性を含む)、じん肺、サルコイドーシス、肺線維症、 過敏性肺炎、肺好酸球性肉芽腫症、肺胞蛋白症など。
V.結核の治療
結核の治療は、化学療法を中心とする内科的療法が基本であり、内科的療法では治療の目的を達成することが不可能な 場合に外科療法を考慮する。
1.化学療法
1)化学療法の一般方針
今日の結核の化学療法は、完全な抗菌治療である。したがって、その治療目的は結核病巣を病理学的に治癒に導くことで はなく、病巣内の結核菌をせん滅することにある。
感受性のある抗結核薬を2〜4剤併用することを原則とする。このため、結核菌が検出された場合、そのつど耐性検査を 行い、有効な抗結核薬の選定に努める。
化学療法の実施に当たっては、副作用の発現を十分考慮し不可逆的な障害を生ずることのないよう配慮する。結核以外の 疾患の治療のために他の薬剤を使用している患者については特に注意を要する。
化学療法失敗の最大の原因は、治療中断と不完全な治療である。受療中の患者に対しては、規則的な服薬の励行について 十分指導する。
2)抗結核薬の種類および使用法
現在、わが国で使用することができる抗結核薬の種類、略号、標準投与量、投与法および耐性基準は表4
(スライド16:抗結核薬の種類と耐性基準)のとおりである。結核化学療法の中核となる薬剤はINHとRFPであり、
表4には原則として使用すべき優先順位に従って抗結核薬が配列されている。
3)肺結核症の化学療法の進め方
a)初回治療
(1)標準的な化学療法(図2)
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図2 標準的な初回 化学療法 |
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(スライド17:標準的な初回化学療法)
@2HRZS(またはE)/4HR(またはE)
最初の2カ月間はINH、RFP、PZA、SMまたはEBで治療を開始し、その後の4ヵ月間はINH、 RFPの2剤、またはEBを加えた3剤で治療する。
A6HRS(またはE)/3〜6HR
最初の6ヵ月間はINH、RFP、SMまたはEBの3剤併用で治療を開始し、その後の3〜6ヵ月間はINH、 RFPの2剤で治療する。
B6〜9HR
6〜9ヵ月間INH、RFPの2剤で治療する。ただし喀痰塗抹抗酸菌陽性の場合には、上記の@またはAで行う。
なお、PZAは最初の2ヵ月使用することによって最大の効果が期待できる薬剤である。期間を延長して使用しても 効果を増大させることはできないので、肝毒性のあるPZAの併用は、漫然と長期にわたって行うべきではない。
(スライド18:症例1(初回治療例bU2))、(スライド19:症例1、標準化学療法終了時 (治療開始6ヵ月後))
(2)耐性例への対応
INH、RFP、SM、EBの4剤のうち、いずれかに耐性の結核菌が証明された場合は、その抗結核薬を原則として 表4(前掲)に掲げる順位に従って他の有効な感性剤に変更する。ただし、SM、KM、CPMおよびEVMの間の併用は禁忌
である。この場合、PZAの副作用には特に注意する。この方式で治療した場合は、化学療法開始後6カ月で治療を終了しても、 PZAを加えない場合の9ヵ月治療に匹敵する成績が得られている。
なお、胸部X線所見に異常を認めなくても、最近(おおむね1年以内)、結核初感染があったと考えられる例については、 INHの単独治療(おおむね6カ月間)を行ってよいが、INH耐性の結核菌による感染が強く疑われる場合、またはINHに
よる著しい副作用が発現したときは、RFPの単独療法を行う(化学予防の項で後述)。
(3)化学療法の効果判定
現在の強力な化学療法では有効な治療であれば胸部X線上の陰影は改善するが、その速度は通常菌陰性化の速度より遅れ るので、化学療法の効果判定には結核菌培養成績の推移、特に治療開始2ヵ月目の培養陰性化率を重視する。RFPを含む初回
治療では、主として治療開始から3ヵ月ころまでの間にX線陰影の拡大、胸水の貯留、縦隔リンパ節の腫脹などを認めることが ある(初期悪化)が、分離された結核菌が感受性菌で患者が規則的に薬剤を服用している場合には、化学療法を変更する必要は
ない(スライド20:化学療法の効果判定)。
(4)治療期間
初回治療では容易に排菌が陰性化した場合、治療開始から6〜9ヵ月治療を継続すれば(PZAを加えた標準治療では6ヵ月)、 治療を終了してよい。耐性または副作用からINHまたはRFPを使用できないときの治療期間の決定には菌陰性化期間を考慮し
て決める(スライド21:治療期間)。ちなみに、わが国における初回治療開始時点での耐性頻度はSMを除いては低く、かつ 近年変化していない(スライド22:主要抗結核薬の初回治療開始時耐性頻度)。
症状が著しく重い場合、治療開始から4ヵ月を経ても結核菌培養検査の成績が好転しない場合、糖尿病、塵肺症など結核の 経過に悪影響を及ぼす疾患を合併する場合、または副腎皮質ステロイド薬もしくは免疫抑制薬を長期にわたり使用している場合など
では、患者の病状および経過を考慮して適宜治療期間を延長する。
b)再治療(スライド23:再治療の進め方)
再治療に対する標準化学療法は確立していないが再治療開始時の耐性の有無と程度が治療成績を決定するので、原則として 表4(前掲)に掲げる序列に従い、未使用または使用期間の短い抗結核薬を4〜5剤選んで併用療法を開始し、感受性試験の結果
が判明した時点で必要に応じ薬剤を変更する。原則的には以下のように行う。
再治療開始時には未使用薬(PZAが使用されていなかった場合にはPZAが第一に選択される)を追加して治療を行い、 薬剤感受性試験の結果が判明してから耐性薬剤を感受性薬剤へ変更する。末使用薬を1剤ずつ加えることは、獲得耐性菌をつくる
ことになるので、絶対に避けなけれはならない。
INHまたはRFPのいずれかが感受性で他の有効薬が2〜3剤残されている場合には、化学療法のみで排菌停止する可能 性が高いが、INHとRFPの両剤耐性の場合には他の薬剤にも耐性を持っていることが多く、喀痰塗抹陽性で胸部X線上硬化壁
空洞があるような例では化学療法のみで菌陰性化を得ることは困難である。これらの症例には未使用薬をすべて使用し(アミノグ リコシド系薬剤の重複は禁忌)、感受性あるニューキノロン薬も併用して、外科手術の適応を考慮しながら化学療法を進めなけれ
ばならない。
菌陰性化しないため薬剤を変更する場合は、全部の薬剤を同時に新しい薬剤の組合せに変更することが望ましい。
表4(前掲)に掲げる多くの抗結核薬に耐性を示す結核菌を持続的に喀出している患者については、INHの単独治療の適応 も考慮する。
なお、再治療においては、たとえ化学療法が有効であってもX線所見の改善は期待できないことが多いので、治療効果の判定 には初回治療以上に排菌の推移を重視する。また再発防止の観点から初回治療の場合に比べ相当長期の治療を必要とする(菌陰性化
後2〜3年)。(スライド24:症例2(再治療例rU2))、(スライド25:症例2、再治療終了時(治療開始
1年2ヵ月後))
C)薬剤の副作用
抗結核薬の使用にあたっては、副作用の発現に十分に注意する。特に重篤な肝機能障害、腎機能障害などを合併している患者 には慎重に対処しなければならない。
(1)主な抗結核薬の副作用(表5)
表5 主要抗 結核薬の
使用法と主な副作用 |
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(スライド26:主要抗結核薬の使用法と主な副作用)
主な抗結核薬の副作用は以下のとおりである。
INH:肝障害、末梢神経障害、アレルギー反応(発熱、発疹)がある。末梢神経障害の治療および予防にはビタミン
B6が有効である。
RFP:肝障害、食欲不振・悪心などの胃腸障害、アレルギー反応(発熱・筋肉痛・関節痛などのインフルエンザ様症状、
稀に血小板減少、ショック症状)などがみられる。胃腸障害のある場合は朝食後に服用させる。肝障害の発現頻度はINHとの併用 で約10%で、多くは3ヵ月以内にGOT、GPTの上昇がみられるが、薬剤の中止により1〜2カ月で正常に復することが多い。GOT、
GPT100単位以下の場合は1〜2週ごとに肝機能を検査しつつ治療を継続してよい。15単位以上の時はRFPまたはINHをいったん
中止し、正常に復したら再投与を試み、GOT、GPT値が再び上昇したらRFPまたはINHの投与をあきらめる。アレルギー反応は、
特に大量間欠投与時に多い。SM、KM、CPM、およびEVM:第8神経障害(耳鳴り、難聴、平衡覚障害)が主で、高齢者や 腎機能障害を有する患者では特に注意する。適宜オージオメーターによる聴力検査を行う。腎障害、アレルギー反応(発熱、発疹)
を起こすこともある。また腎機能障害のある例では薬剤の排出遅延が起こり得るので、SM、KM、CPM、EVMなどの使用は 好ましくない。
EB:視神経障害(視力低下、視野の狭窄・欠損、色覚の異常など球後神経炎の症状)に注意し、毎月1回視力検査を行う。
TH:胃腸障害(悪心が強い)と肝障害がある。
PZA:肝障害、冑腸障害、高尿酸血症、関節痛がある。
PAS:胃腸障害(食欲不振が主)、アレルギー反応(発熱、発疹)がある。
CS:精神障害がある。
(2)抗結核薬と併用薬剤との相互作用
結核患者の高齢化が進んでいるので、日常的に他疾患を合併している症例にしばしば遭遇する。注意を要する代表的な抗 結核薬との相互反応をあげる。
@副腎皮質ステロイド薬、スルフォニル尿素薬、ワーファリン、テオフィリン:これらの薬はRFPによって代謝が亢進する。 どのくらい増量すればよいのか個々の症例で異なるので、適正投与量を決定するために、これらの薬剤の血中濃度を測定する。
Aフェニトイン、カルバマゼピン:INHによって代謝阻害されるために血中濃度を測定し、中毒症状に注意する。
(3)減感作療法および薬剤の変更
アレルギー反応の場合にはまず薬剤を中止し、症状が改善してから原因と推定される薬剤を1剤ずつ極微量から開始し、 漸増して常用量まで増量するいわゆる減感作療法を試みるべきである。INHの減感作は25mgから漸増する方法とさらに少量の
10mgあるいは20mgから開始する方法もある。RFPの減感作療法については225gから(50mgからでもよいという意見もある)
開始し、異常がなければ3日毎に倍量に増加させ常用量とする。重症の場合には耐性獲得を防ぐためにもKMやEBなどの比較的 アレルギー反応の起こりにくい薬剤を使いながら減感作を行う。この方法で失敗しても、さらに微量から開始して成功する場合
があるので試みるべきであろう。
薬剤の変更を考慮する際には、副作用の程度と結核の治療効果の両面から慎重に考慮する必要がある。INHとRFPの 両剤が使用できないと短期化学療法は不可能なので、INHあるいはRFPを中止する場合には慎重にするべきである。しかし
ながらINHによる間質性肺炎が起こった場合やRFPによる血小板減少症、溶血性貧血、ショックなどがみられた場合には再 投与は禁忌である。
2.外科療法
化学療法の進歩により、肺結核の外科療法の適応例は非常に少なくなった。一方、多剤耐性例の治療法として、外科療法 が見直されてきている。外科療法の適応となるのは、次のうち心・肺機能など全身状態が手術に耐えられる症例である。
(スライド27:肺結核外科療法の適応)。
@強力な化学療法にもかかわらず排菌が継続する多剤耐性結核で、排菌源となる病巣が比較的限局しているもの。
A慢性膿胸。原因として胸膜炎、人工気胸の後遺症の他、まれに空洞性病変の胸膜腔穿孔などがある。このうち特に、 気管支胸腔瘻(bronchopleural
fistula)を有する有瘻性膿胸では絶対的適応となる。
B気管支結核による気管支狭窄。気管支結核は治癒過程で瘢痕狭窄を示すことがあり、末梢肺に無気肺または肺炎を起 こす場合には外科治療の適応となることもある。
C喀血。結核空洞からのものと、合併する気管支拡張症からの出血とがある。いずれも、化学療法の進歩により減少し たが、大量かつ持続的な出血は外科治療の適応となる。
手術術式としては、多剤耐性肺結核や喀血のように主病巣が肺にある場合には、肺切除術が基本である。病巣の拡が りにより、肺葉切除術または肺全切除術(pneumonectomy)が行われる。まれに、胸郭成形術(スライド28: 胸郭成形術)や空洞を切開して内容を掻爬し肺縫縮する空洞形成術も選択される。慢性膿胸に対する術式は肺剥皮術が
基本であるが、肺内病変の強いもの、特に気管支瘻を有するものでは胸膜肺全切除術が行われる。このほか、腔縮小術として 胸郭成形術と筋肉充填術の組合せや、エァ・プロンベージ(air
plombage)が行われる。特殊な方法としては開窓術、有茎性 大網充填術がある。気管支狭窄に対しては、末梢肺の病変か軽ければ気管支形成術により肺の再膨張が得られる。
いずれの場合にも、外科療法の適応、術式の選択に際しては、術後の予測肺機能を十分に考慮しなければならない。
3.入院の適応
入院の適応は症状の有無、感染性の有無、コンプライアンス(服薬遵守)の良否を考慮して決められるべきである。 一般的には塗抹陽性の空洞例や粟粒結核、結核性髄膜炎、胸膜炎などは入院治療を行う。耐性菌による感染やコンプライアンス
の不良な患者の場合、副作用が出現した場合は入院治療を行う。退院の時期は、薬剤感受性菌感染で副作用のない場合には 2〜3ヵ月、耐性菌感染の場合には菌陰性化の確定時とする。副作用がみられる場合は適切な処置を行って、退院後十分な
化学療法ができることを確認してから決める。
通院治療では規則正しい服薬と毎月一回程度の結核菌検査が実施されるよう常時患者を指導する。
4.後遺症
肺結核治癒後に残される肺の主要な形態的変化は、菌陰性空洞、気管支拡張、胸膜の癒着や肥厚、および無気肺等である。 これらはその拡がり、程度に応じて呼吸機能を障害し、アスペルギルス、非定型抗酸菌や一般細菌による二次感染の場ともなる。
早期診断と強力な治療によって、このような後遺症を残さぬように努める。
病変の範囲が広く、罹病期間が長いと拘束性換気障害に種々の程度の閉塞性換気障害が加わって混合性換気障害を来すこ とが多い。呼吸機能障害のある患者には呼吸機能についてのリハビリテーションを行い、残された呼吸機能を十分活用する方法
を練習させるとともに、息切れしない範囲での生活指導を行う。在宅酸素療法の適応基準に合致する呼吸不全の症例には在宅 酸素療法を実施する。
5.結核死亡の現状
肺結核の死因については大規模なコホート調査は行われていないが、国立療養所結核死亡調査によると、呼吸不全で死亡 する例が最も多く、1989年には44.5%であり、この比率は経年的に減少傾向にある。また全身衰弱(25.2%)と急速進展例
(14.2%)が憎加傾向にある(スライド29:肺結核死亡原因の推移)。 |