平成21年6月26日
内科系学会社会保険連合 御中
厚生労働省健康局結核感染症課 御中
厚生労働省保険局医療課 御中
日本結核病学会からの要望事項
日本結核病学会 理事長 森 亨
結核医療を担う医療機関は、国民を結核から守り、一日も早く結核を撲滅すべく努力を傾けてきており、社会的に重要な役割を果たしてきました。
しかし、平成14年に本学会が全国の20施設で行った、「結核医療の経済性に関する実態調査」では、1人1日当たりの診療報酬は平均1,800点前後と極めて廉価であり、診療を行っている病院が1施設当たり年平均1億5千万円負担して結核病棟を運営している実態が判明しました。施設整備費、減価償却費、退職金引当金等を計上すれば、更に多額の経費を医療機関が負担していることになります。その後の調査でも、同様の傾向が続いています。
昨今の結核患者の減少で病床稼働率が低下しているなか、平成17年4月の結核予防法改正により結核の入退院基準が変更され、原則として喀痰塗抹陽性患者のみが入院勧告の対象となり、結核病床の稼働率は大幅に低下しています。同時に、医療法施行規則第30条の30に規定されている基準病床数が見直され、日本の結核医療は欧米並に、入院治療から外来治療へと大きな転換期を迎えています。平成19年度の全国の結核基準病床数は10,000床前後です。喀痰塗抹陽性患者数もほぼ同数の約10,000人であり、病床稼働率は30-40
%台まで低下しています。
この日本の結核医療の変革期に合わせ、適正な病床稼働率となるように、病棟単位のみならず、20〜30床の結核病床のユニット化や「結核患者収容モデル事業」(平成11年11月16日健医発第1565号)によるモデル病室など、一般医療との混合病棟化も視野に入れた医療機関側の経営の効率化が一層必要となります。
結核治療の基本は有効な薬剤を必要な期間、確実に服薬を継続することであり、治療の場所が入院主体から外来主体に移行しつつあることに伴い、入院中に服薬の重要性を自覚させ、服薬を習慣化させる院内DOTSの取り組み、及び国の示す「日本版21世紀型DOTS」の確実な施行が極めて重要となります。我が国の結核対策は先進国から数十年遅れており、未だに中蔓延状態です。更に大都市の一部にはアジア、アフリカなどの高蔓延諸国に匹敵する地域が未だに残っております。結核対策の弱体化により、先進国アメリカで1980年代に起きたニューヨークでの大流行の前例もあり、その轍を踏むことのないように、結核医療の充実を願っています。
日本結核病学会はこうした結核医療を取り巻く情勢の変化に鑑み、適正な結核医療を遂行し、確実に結核患者を減少させて行くには、診療報酬体系の抜本的な見直しが必要であると考えています。結核病棟内での患者対患者、あるいは、患者対職員間での結核感染が報告され、特に多剤耐性結核菌の感染などの重大な医療事故報告も散見されます。感染性の高い塗抹陽性患者の隔離病床の整備とその運用コスト、隔離せざるを得ない長期入院患者の人権や居住性への配慮、並びに専門性の高い結核医療に係わるスタッフの質と量の確保を進めて行くには、緩和ケア病棟入院料(1日につき3,780点)に準ずる医療資源の投入が必要であり、社会的に見ても投入する価値は十分にあるものと考えます。即ち、現在の結核病棟の費用は1人1日当たり3,000点前後かかっており、平成22年4月の診療報酬改正で3,000点以上となることを希望します。また、従来の基準病床数を廃し必要結核病床数を実態に近づけることにより、真に入院が必要な患者が厳選され、結核に関連してきた多くの医療費を結核医療の質の向上に回すことができ、総額ではむしろ結核医療費を削減できると考えています。
平成22年4月診療報酬改定に向けて、当学会として下記5項目について改定を希望します。
まず第1に、平成18、20年の診療報酬改正で、結核病棟入院基本料は、以前よりは一般病棟入院基本料に近づきましたが、提示された平均在院日数のしばりは、現在の結核医療の状況とは極めてかけ離れたものとなっています。そこで、現状に対応した結核病棟入院基本料の平均在院日数のしばりの延長を希望します。特に、現在の13:1の平均在院日数における付帯条件の完全削除を希望します。また、入院基本料における初期加算も、結核病棟運営の維持のため、増額を希望します。加えて、結核感染症管理加算、陰圧室管理加算、重度認知症加算等を新設することで、1人1日当たり3,000点以上が確保できるよう希望します。
第2に、結核病床を病棟単位で確保するほどの需要がない地域では、ユニット病床化を促進せざるを得ないと考えますが、現時点では平均在院日数の算出にあたりユニット化された結核病床も含めた病棟単位での計算となることから、この算定の根拠となっている診療報酬上の規定を廃止ないしは修正することを希望します。
第3に、社会から結核感染の危険を取り除き、結核の再発を防止することは、結核医療を担う医療機関の大きな社会的責務であると考えます。平成17年4月の結核予防法改正時にDOTSにおける医師や保健所の責務に対する法的根拠が設けられました。また、同時に変更された入退院基準を遵守するには、十分な地域連携診療計画が必要であります。法的根拠と共に診療報酬の整備も極めて重要と考えます。具体的には結核地域連携診療計画管理料・退院時指導料(地域連携DOTS)の新設を是非御検討頂きたいと思います。治療完遂率の向上、再発率の低下により、多剤耐性結核の予防にも繋がるものと考えます。
第4に、検査関連事項については、1)結核菌特異蛋白刺激性遊離インターフェロン-γ測定(QFT検査)は、実際にかかる検査費用に比して保険点数が低いため、QFT検査の導入そのものが見送られたり、使用が制限されたりして、広く普及するに至っておりません。QFT検査を使用し結核対策を効率的に実施するため、保険点数の引き上げを希望します。2)抗酸菌薬剤感受性検査1は、液体培地を用いた抗酸菌の培養方法であり、その感度の高さと迅速性から、結核医療にとって主流となっており、極めて重要な検査ですが、現在の保険点数と実勢価格には開きがあり、その改善を希望します。3)同様に、結核菌群リファンピシン耐性遺伝子同定検査も、多剤耐性菌の判定には有用な検査ですが、実勢価格に近づけるように希望します。
第5に、多剤耐性結核症例や、有効な抗結核薬が副作用等によって使用できない難治結核症例に対し、レボフロキサシンが使用可能になるように適応拡大を希望します。一方、近年重症例が増加している非結核性抗酸菌症に対し、保険診療上使用できる治療薬の更なる拡大を希望します。
以上