肺非結核性抗酸菌症診断に関する指針-2008年

  平成20年4月      

日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会

 [はじめに]
 米国胸部学会(ATS)と米国感染症学会(IDSA)は10年ぶりに肺非結核性抗酸菌症に関するガイドラインの改定を 行ない,2007年3月に発表した。1)

 日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会は,この改定内容が大幅なものであり,かつ国際的整合性の見地から,わが国の診断基準(2003年発表)2)も、再検討の要ありとし,日本結核病学会評議員にアンケート調査を 行なった。回答者全員(回収率63%,126名)が改定の必要を認め,かつ簡潔な診断基準への要望が多数あった。
 
以上の経過で作業を開始,今回初めて日本結核病学会,日本呼吸器学会合同での肺非結核性抗酸菌症診断基準とした。

[注記]
1.近年のわが国での健診や人間ドックでの状況下では,画像診断や核酸同定法などの進歩で,臨床症状出現前 に診断可能になったという現状に即し,診断基準から「臨床症状あり」を外した。

2.従来の診断基準では,暗黙に診断基準合致を治療開始時期と見なしてきたが,2007-ATS/IDSAと同様,診断 基準と治療開始時期は分離する。

3.治療開始時期についてはエビデンス蓄積が不十分であるが,診断後観察のみの経過では外科治療を含む早期 治療,準治癒状態への転帰を失う事例があることを注意すべきである。

4.2007-ATS/DISA基準でのHRCT所見は「散布性小結節を伴う多発性の気管支拡張所見」のみになっているが,
早期診断や化学療法開始後の症例,孤立結節影などを考慮し,より広範囲な事象に適応しうる画像基準とした。

5.感染症診断の原則から,典型例であっても画像所見のみでの診断は採用しない。また画像所見が酷似してい ても,非結核性抗酸菌症ではない場合があることに注意すべきである。

6.喀痰の場合,2回以上の異なった検体での培養陽性としたのは1991年の束村の研究3)に準拠するとともに,
2007-ATS/IDSA基準との整合性をとるためである。

表1肺非結核性抗酸菌症の診断基準
(日本結核病学会・日本呼吸器学会基準)
臨床的基準(以下の2項目を満たす)

1.胸部画像所見(HRCTを含む)で,結節性陰影,小結節性陰影や分枝状陰影の散布,均等性陰影,
  空洞性陰影,気管支または細気管支拡張所見のいずれか(複数可)を示す。
  但し,先行肺疾患による陰影が既にある場合は,この限りではない。

2.他の疾患を除外できる。

細菌学的基準(菌種の区別なく,以下いずれか1項目を満たす)

1.2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性。

2. 1回以上の気管支洗浄液での培養陽性。

3. 経気管支肺生検または肺生検組織の場合は,抗酸菌症に合致する組織学的所見と同時に組織,または気管支洗浄液,または喀痰での1回以上の培養陽性。

4.稀な菌種や環境から高頻度に分離される菌種の場合は,検体種類を問わず2回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則とし,専門家の見解を必要とする。  

以上のA,Bを満たす。

表2.わが国でヒト感染症が報告されている非結核性抗酸菌

しばしば認められる菌種
M.avium, M.intracellulare , M.kansasii, M.abscessus,

比較的稀に認められる菌種
M.fortuitum, M.chelonae, M.szulgai, M.xenopi, M.nonchromogenicum, M.terrae, M.scrofulaceum,
M.gordonae, M.simiae, M.thermoresistible, M.heckeshornense, M.intermedium, M.lentiflavum,
M.ulceranssubsp. shinshuense, M.malmoense, M.celatum, M.branderi, M.genavense, M.haemophilum, M.triplex, M.goodii, M.marinum, M.mageritense, M.mucogenicum, M.peregrinum
注:M.avium, M.intracellulareは性状が類似しており,一括してM.avium complex (MAC)と呼ぶことが多い


7.塗抹,培養を含む菌量要件を廃止したのは,やはり2007-ATS/IDSA基準との整合性のためと,菌量をそのもの は非結核性抗酸菌の場合,特に前処理による影響が大きいこと,液体培地の普及で培養菌量報告がないことを 考慮したためである(本来,抗酸菌培養は1997ATS勧告どおり,液体培地と固形培地を併用すべきであるが, 臨床の実態に即してという条件付きの考慮)。

8.検体直後核酸増幅法陽性は菌種同定に有用であるが,培養陽性の代わりにはならない。

9.細菌学的基準の中に稀な菌種の場合の要件を記載したので,2007-ATS/IDSA基準と異なり細菌学的基準その ものは菌種の区別なく適用とした。

10. 気管支鏡検体は自動洗浄機汚染などの場合影響が大きいので,
呼吸器内視鏡学会ガイドライン4)に沿った気管支鏡消毒操作を遵守すべきである。

11. 気管支,あるいは病巣由来以外の検体については,基本的に通常無菌的な体腔液を用いるべきである。
胃液は結核症診断では明らかに有用な検体であるが,消化管液に常在している可能性の高い非結核性抗酸菌症 診断での有用性は確証されていない。当面最低限「2回以上の異なった検体での培養陽性」の条件を満たすべきである。

12.菌種同定は,保険診療も考慮し2回とも同定検査施行を条件にはしないが,稀な菌種や環境から高頻度に分離 される菌種の場合(M.gordonae, M.chelonae, など)は2回以上の菌種同定検査を必要とする。


文献
1)Griffith DE, Aksamit T, Brown-Elliott BA, et al., on behalf of the ATS Mycobacterial Diseases Subcommittee:
An Official ATS/IDSA Statement: Diagnosis, Treatment, and Prevention of Nontuberculous Mycobacterial Disease.
Am J Respir Crit Care Med. 2007; 175: 367-416.

2)日本結核病学会非定型抗酸菌症対策委員会:肺非結核性抗酸菌症診断に関する見解-2003年
2003;78:569-572.

3)Tsukamura M: Diagnosis of disease caused by Mycobacterium avium camplex. Chest. 1991;99:667-669.

4)日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡安全対策委員会:気管支鏡検査を安全に行うために.気管支学.
2005;27:388-390.


日本結核病学会非定型抗酸菌症対策委員会
委員長 倉島 篤行
副委員長 鈴木 克洋
委 員 網島 優

大内 基史
小川 賢二 加治木 章
桑原 克弘 白石 裕治 多田 敦彦 徳島 武
中島 由槻 長谷川直樹 藤田 明 本間 光信

(出典:結核.Vol.83,No7:525-526. 2008)

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