肝,腎障害時の抗結核薬の使用についての見解

昭和60年11月 

日本結核病学会治療委員会
日本結核病学会治療委員会は,臓器障害時の抗結核薬の使用法について検討を行ってきたが
今回,肝,腎障害時の抗結核薬の使用法についての,現時点における見解を発表する。

 1)肝障害時の抗結核薬の使用方法
TH (ethionamide prothionnamide) ,PZA (pyrazinamide),RFP (rifampicin) ,INH (isoniazid), PAS (paraaminosalicylic acid) などが肝,腎障害を起こす抗結核薬である。
 治療開始時肝機能が正常である患者にINH,RFPを併用投与すると,約10%に血清GOT ,
GPT値の上昇がみられるが,投与を継続していても正常値に復する場合が多い。INH,RFPは結
核の治療期間短縮に必須の薬剤であるので,血清GOT ,GPT値の上昇があっても,その値が
100以下の場合は頻回(毎週または隔週)に肝機能の検査を行ないながら投与を継続する。また
基盤に肝機能障害を有する患者にINH , RFP ,PAS を投与しても,肝機能の悪化を見ない場
合がしばしば認められるが,この際も頻回に肝機能検査を行ない慎重に投与する。
しかしながら,重篤な肝機能障害時には,INH,RFPの代謝が障害されて,血中濃度が上昇して,副作用の発現を高率にすることも知られているので,かかる際は薬剤を減量して投与することが
望ましい。
 一方,TH,PZAは高率に重篤な肝障害を起こすので,やむをえない場合を除いて肝障害時に
は投与を避けることが望ましい。

 2)SM (streptomycin) ,KM (kanamycin), CPM (capreomycin), EVM (eniviomycin)などが腎障害を起こす抗結核薬であり,基盤に腎障害のある場合には,これらの薬剤投与は,慎重に行なう必要がある。
 抗結核薬は,RFPおよびTH(一部に異なる見解がある)を除いては,腎が主要排泄経路である
ので,腎障害のある際には,通常の投与量,投与間隔では薬剤が血中に蓄積して高濃度となり
,副作用の発見が高率となる。したがって,腎機能の程度に応じて,投与量,投与間隔を調節す
る必要がある。
 人口透析が行なわれている際は,EB以外のSM,INH,RFPなどの抗結核薬はかなりの透析外
液へ移行するので,透析後に抗結核薬を投与するのが合理的である。
  INH ,RFP, EB, SM, KM, PASの腎不全時あるいは人口透析時の投与法を一括表示した。
これらの薬剤以外の抗結核薬については,人工透析時の投与法に関する成績が見られないの
で,具体的な方法を示すことは困難であるが,TH,PZA,CSではPASに,CPM,EVMではKMに
準じて投与するのが妥当であると考えられる。

 腎不全ならびに人工透析時の抗結核薬の投与,投与問題
 血中半減期(時間)     投与間隔(時間)と1日投与量(g)

薬剤 主な排泄経路 正常時 腎不全末期  正常時   腎不全時Ccr ml/min  透析時 薬剤の透析外液への移行

>50 10-50 <10

INH
(肝)肝で代謝
slow 2-4
rapid 0.5-1.5
17 投与間隔
1日投与量
24
0.3
24
0.3
24
0.3
24
0.3*
正常時と同じ** あり
RFP 2-5 2-5 投与間隔
1日投与量
24
0.45
24
0.45
24
0.45
24
0.45
正常時と同じ** あり***
EB 4 8 投与間隔
1日投与量
24
0.75
24
0.75
23-36
0.5
48
0.5
隔日
10mg/kg
あり***
PAS
(肝)肝で代謝
0.75 23 投与間隔
1日投与量
8
10
8
10
24
8
投与
しない
隔日
100mg/kg
あり
SM 2.5 100-110 投与間隔
1日投与量
24または
週2回
24
0.75
24-72
0.5
72-96
0.5
週2日
0.5g
あり
KM 3-4 27-36 投与間隔
1日投与量
週2回
  2
24 
1.5
24-72
1.0
72-96
1.0
週2日
0.5g
あり

* slow inactivator では4mg/kg pyridoxin 併用  ** 1日0.3gを2-3日に1回との説もある。***異なる見解がある


日本結核病学会治療委員会
委員長 山本 正彦   
副委員長 青柳 昭雄
委員 久世 影彦 萱場 圭一 木野智慧光 山本 恵一
三沢 博人 佐藤 篤彦 石下 泰堂 亀田 和彦
山本 好孝 原  耕平

(出典:結核.Vol.61, No.2  53.1983 )

この報告を個人的な利用に限りダウンロードあるいはコピーをして使っても構いませんが,複数部コピーして配布するような場合には,日本結核病学会の許可を得て下さい。