抗結核薬による薬剤性肝障害アンケート調査結果

  平成17年11月 

日本結核病学会治療委員会

 結核の化学療法に際して肝障害は比較的高頻度に認められ,重篤になることもある重要な副作用である。ピラジナミドを含む標準治療を確実に,かつ安全に実施するためには薬剤性肝障害に対する適切な対応が必要である。日本結核病学会治療委員会では,標準治療時の肝障害への対応指針の作成に取りかかっているが,最近の医療現場での対応の現状についても知ることが必要と考え調査を行った。
 結核病床をもつ,あるいは最近までもっていた114医療機関に郵送で,?過去10年間に,結核の化学療法中にAST(GOT)およびALT(GPT)の値が1000IU/dl以上となった例,?各施設における結核治療時の肝障害への対応指針,の2つに分けてアンケート調査を行った。なお,調査は別に報告する「抗結核薬の経口投与困難例についての調査」と同時に2004年に行った。114施設のうち68施設から回答があり,回収率は60%であった。結果を以下に示す。

1.抗結核薬による重症肝障害の発生状況
 結核治療中の重症肝障害例は,68施設中24施設から70例が確認できた。これを,年間入院治療患者概数の10倍で除すると,発生頻度は0.08%である。ただし,今回は全例把握の調査ではなく,実際の発生数を大きく下回っていると考えられる。現委員,前委員が調査対象期間中勤務し,よく症例を把握していると考えられる3施設における概算発生率は,大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター0.63%,結核予防会複十字病院0.52%,国立病院機構東広島医療センター0.50%であった。ただし,この中には他医で抗結核剤投与中または外来治療中に重症肝障害が出現して入院となった例も含まれ,見かけ上の頻度は押し上げられている。以上のような変動要因について詳細な検討はできないため幅を広くとり,結核入院治療患者の重症肝障害発生頻度は0.1?0.6%の間にあると考えた。
 この調査で把握できた70例のうち33例について情報を得ることができた。結核患者全体の構成と比較し,年齢別では50?60歳代,男性が多く見られた。2合以上の飲酒歴は5/32(16%),肝炎ウイルスマーカー陽性2例,肝疾患既往あり3例であり肝障害の危険因子をもつ例の比率は高くなかった。化学療法開始から,肝障害による症状出現までの期間は,28例(85%)が2カ月以内であ
った。肝障害に気づいた時,5例は自覚症状がなく定期検査で異常値を発見されており,うち1例は肝障害のため死亡していた。自覚症状は,大半が食欲不振などの消化器症状であったが,5例では消化器症状はなく全身倦怠感や掻痒を訴えていた。12例は自覚症状出現当日または翌日検査を行い,既に高度の検査値異常をきたしており,うち3例は死亡した。全33例の調査時の肝障害の転帰は,死亡8例,治癒20例,その他(治療中など)5例であった。結核治療に関して問題があった可能性があるのは,中等度以上の肝障害に気づきながら薬剤を続行した1例,ピラジナミド(PZA)使用量が30mg/体重kgであった4例であった。
 肝障害に対する対応は,25例で薬剤中止のみ(対症療法や肝庇護剤使用を含む)で,その大半が治癒したが3例は死亡,8例は?漿交換,ステロイド剤,グルカゴンインスリン療法のいずれか1つ以上の組み合わせで治療されたが,5例は死亡していた。
 以上の結果からは,結核治療における重症肝障害例について危険因子としての基礎疾患や,結核治療,肝障害への対応における大きな問題点は指摘できなかった。治療上に問題があった例が報告されにくかった可能性を考慮しても,適切に標準治療を行い副作用に関して注意を払っていたとしても薬剤性肝障害のために死亡することがあり,危険性が高いと予測できる条件を指摘することは困難であった。
 米国のATS等による結核治療の指針1)では,イソニコチン酸ヒドラジド(INH),リファンピシン(RFP),PZAそれぞれの薬剤使用時の副作用モニターについて,治療開始前に肝障害がなければ定期検査は不要であるとしている。しかし,日本における今回の調査結果では,重症肝障害発生率は0.1?0.6%であり,発生を予測する危険因子は指摘できず,また経験的にGOT,GPTに中等度の上昇があった場合に薬剤を中止すれば大半が軽快することを考えると,定期検査を行って早期に異常を発見することは有用であると考える。特に発症が集中する当初の2カ月間には必要性,有用性が高いと考えられる。

2.結核治療時の肝障害への対応の現状
 薬剤性肝障害への対応について施設として統一した指針または申し合わせがあると答えたのは68施設中11施設(16%)であった。
 その指針(または担当者の意見)により,80歳未満の患者において,?HBV抗原またはHCV抗体いずれかが陽性であってGOT or GPT<50単位,?HBV抗原またはHCV抗体いずれかが陽性であってGOT or GPT>100単位,?慢性活動性肝炎,?肝硬変,?アルコール性肝炎の5つの場合に,PZAを含む標準治療を行うか,PZAを使用しないか,あるいはPZAもRFPも使用しないかを問うた。いずれの場合でも一応はPZA使用を考える施設から,活動性病変がある場合にはRFPの使用も控える施設まで対応には差があった。最も多かったのは,??ではPZA使用を考える(?79%,?52%),???ではPZAを使用しない標準治療を行う(?85%,?78%,?81%)という回答であった。
 治療開始前検査で肝機能検査が概ね正常範囲内であった場合,その後の2カ月間における副作用チェックのための定期検査の間隔は,2週毎が41施設(60%),毎週1回が21施設(31%)であった。定期検査を行わず自覚症状があるときのみ,と答えた施設はなかった。定期検査項目は,GOT,GPT,総ビリルビンの3項目とした施設が10(15%),4?10項目が47(69%),11項目以上が11(16%)であった。なお,診療症例数が少ない施設での検査項目のばらつきが大きい傾向がみられた。
 検査で異常が認められた場合に抗結核薬を中止する目安としては,GOT,GPTいずれかの正常上限2倍から最大10倍までの開きがあり,5倍以上とする施設が24(35%),3?4倍が36(53%),2倍以上が7(10%)で
あった。なお,診療症例数が少ない施設のほうが比較的軽度の異常で治療を中止する傾向があった。自覚症状がある場合の薬剤中止の目安は,正常上限5倍以上が9%,3?4倍が44%,2倍以上が38%であり,自覚症状がない場合と比較して検査値が低い段階で薬剤を中止する傾向が認められた。
 抗結核薬使用時の肝障害は,頻度が高いものであるが,これに関する日本における統一した指針はない。副作用としての肝障害は重症化する可能性もあり,慎重な対応が必要である。一方,結核の化学療法は確実な薬剤の使用が前提であり,安易に薬剤を中止することは,治療失敗につながる可能性が高い。治療委員会では今回の調査結果に,これまでの研究報告,専門家の意見も加え,日本における抗結核剤による肝障害への対応指針を作成中である。
 なお,本調査の詳細については,別途論文として報告する予定。

〔文 献〕
1)American Thoracic Society/CDC/Infectious Diseases Society of America:Treatment of tuberculosis. MMWR. 2003 ; 52 (RR11) : 1_77.


日本結核病学会治療委員会
委員長 重藤えり子   
副委員長 和田 雅子
委員 (前)常松和則 (前)中西文雄 (前)町田和子
(前)泉 三郎 田野 正夫 露口 一成
小橋 吉博 (前)力丸 徹

(出典:結核.Vol.80,No.12:751-752.2005)

この報告を個人的な利用に限りダウンロードあるいはコピーをして使っても構いませんが,複数部コピーして配布するような場合には,日本結核病学会の許可を得て下さい。
日本結核病学会事務局
osada@jata.or.jp