抗結核薬の経口投与困難例についての調査

  平成17年11月 

日本結核病学会治療委員会
 日本における最近の結核患者の高齢化と,種々の合併症をもつ患者の割合の増加は著しい1)。そのため,抗結核剤の内服,さらには著しい誤嚥等のため経管投与が困難な例もしばしば経験する。標準治療に必要なイソニコチン酸ヒドラジド(INH),リファンピシン(RFP),ストレプトマイシン(SM),エタンブトール(EB),ピラジナミド(PZA)のうち,内服不能の場合に使用可能な薬剤は,SM等の筋肉注射用アミノグリコシド剤とINHの静脈注射用製剤のみである。その他の薬剤,特にRFPは注射用製剤がないため標準治療が行えないことになる。日本の結核医療における内服薬投与困難例の現状とRFP静脈注射用製剤の必要性について,治療委員会としてアンケート調査を行った。
 調査は,結核病床をもつ国立病院機構の54施設および2002年度療研に参加した医療機関60施設,計114施設に2004年に郵送で行った。調査用紙の記入返送は66施設,回収率は58%であった。集計の結果は以下のとおりである。
 経口投与困難例の経験は,66施設中64施設があると答えた。投与困難な理由として,@結核が重症のため,A結核以前に全身状態不良のため,B誤嚥のため,C消化器疾患のため,D精神疾患のため,Eその他,を選択肢として挙げた。@Aについては大半の施設が多くの症例を経験しており,また,多くの患者を診療する施設ほど精神疾患,消化器疾患などの合併症による経口投与困難例を多く経験している(表1)。

表1 抗結核剤経口投与困難例の現状
年間入院
患者概数
施設数

症例
あり
施設数
投与困難理由 理由数
結核 全身状態 誤嚥 消化器 精神 5 4 3 2以下
重症 不良 疾患 疾患
100以上 27 27 24 26 24 10 14 5 9 13 0
100未満 34 32 23 26 29 6 10 2 7 14 12
不明 5 5 4 5 5 3 4 2 2 1 0
66 64 51 57 58 19 28 9 18 28 12
経口投与困難な場合,SMなどの筋注薬の他,大半の施設で胃管また静脈内投与を行っていた。5施設からはRFPの座剤または経腸投与を行っているとの回答があった。SM〔またはカナマイシン(KM)など〕はほぼすべての施設で使用を考慮するが,その他の注射剤では経口投与困難例経験64施設中58施設がINHを使用,31施設はフルオロキノロン剤〔シプロフロキサシン(CPFX)またはパズフロキサシン(PZFX)〕を使用していた。また,アミカシン使用も5施設あった(表2)。

表2 抗結核剤が経口投与困難な場合の静脈注射用剤使用の現状
年間入院
患者概数
施設数 INH 静脈注射使用施設 静脈注射用キノロン剤
使用施設
100以上 27 26 96.3% 16 59.3%
100未満 32 27 84.4  13 40.6 
不明 5 5 -  2 - 
64 58 90.6  31 48.4 

このような患者の頻度は2?5%と答えた施設が最も多く,また,年間入院数100名以上の15施設が年間5?40例を経験すると答えている。経口投与困難な期間としては,概ね2週間以内1施設,1カ月以内が多いと答えた施設が28,3カ月以内が多いのが29施設,3カ月以上使用することが多いとの答えが4施設であった。
 RFPの静注用製剤の必要性について,66施設中62施設,特に年間結核入院数50以上の施設のすべてが必要と回答した。
 以上の調査結果より,最近の結核患者において抗結核薬の内服が困難あるいは不可能であることが稀でない現状が確認された。その頻度は2%以上であり,状態改善して経口投与可能になるまで(あるいは死亡まで)1?2カ月かかる場合が多いと推定される。最近の日本における結核患者の高齢化,医学的弱者への偏在という傾向が強まっていることを考慮すれば,抗結核薬服薬困難例は今後さらに増加することが予想される。このような例については内服剤の経管投与を試み,それでも確実な投与が困難な場合には使用可能な注射剤を使用して治療を行っている施設が大半であった。さらには,RFPの座薬の院内調剤,キノロン剤の注射剤も使用するなど,治療に苦慮している現状がうかがわれる。
 注射用キノロン剤としてはCPFXとPZFXが日本で使用可能であるが,結核は保険適応外である。また学会の治療の指針では,レボフロキサシンLVFXについて記載しているが経口剤のみである。またRFPの経腸投与は吸収にばらつきが多いため,確実な効果が期待しにくいこと,耐性菌が出現しやすい可能性が考えられることが問題である。
 多くの施設では,状況が改善すればRFPも経管投与,経口投与を行っているものと思われる。しかし,全身状態不良であることが多い治療初期において,注射剤のみの2?3剤の治療,特にRFPを含まない治療では,結核の治癒の遅延ばかりでなく薬剤耐性増加の危険性が高まると考えられる。
 RFP静脈注射剤は,2002年10月に発表されたAmerican Thoracic Society/CDC/Infectious Diseases Society of Americaの結核治療の指針2)にも記載されており,その必要性,安全性,効果は確認されている。本調査において,多くの結核患者の治療にあたっている医療機関で
は,その必要性は強く認識されていた。日本においてもRFPの静脈注射用製剤が保険診療の範囲で使用できることが望まれる。

 本アンケート調査にご協力いただきました医療機関の担当者の方々に厚くお礼を申し上げます。

〔文 献〕
1) 厚生労働省結核感染症課監修:「結核の統計2004」,結核予防会,東京,2004.
2) American Thoracic Society/CDC/Infectious Diseases Society of America:Treatment of tuberculosis. MMWR. 2003 ; 52 (RR11) :1_77.


日本結核病学会治療委員会
委員長 重藤えり子   
副委員長 和田 雅子
委員 (前)常松和則 (前)中西文雄 (前)町田和子
(前)泉 三郎 田野 正夫 露口 一成
小橋 吉博 (前)力丸 徹

(出典:結核.Vol.80,No.12:749-750.2005)

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日本結核病学会事務局
osada@jata.or.jp