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T.緒言(ガイドライン作成の経緯と目的)
2000(平成12)年に本学会に保健・看護委員会が発足して以来,DOTSに関する発表が増加してきた。中でも2003(平成15)年の本学会総会シンポジウムにおいて,全国の院内DOTS実態調査結果が報告され,実施病院は増加しているが,その内容は手探り的で質的に問題があると指摘され,院内DOTSガイドラインの必要性が提言された。
一方,2003年2月に厚生労働省は,今後の結核対策の推進・強化に関する課長通知(平成15年2月20日,健感発0220001号)の中で,日本版21世紀型DOTS(直接服薬確認治療)戦略推進の体系図を示し,全国の都道府県等に積極的な取り組みを要請している。また,2005(平成17)年4月から施行される「結核予防法の一部を改正する法律」では,薬剤の確実な服用のための指導や指示が保健所長と医師の責務として定められた。
これらの背景要因から,本委員会では「わが国の塗抹陽性患者の治療は,基本的に入院治療から始まり,質の高い院内DOTSを普及する意義は大きい」との共通認識の下に,院内DOTSの更なる拡大と質の向上を願って,院内DOTSガイドラインを作成することとした。
U.院内DOTSの目的
結核は,患者の治療完遂が最大の予防策である。院内DOTSの目的は,結核患者の治療の成功を目指して,患者自身が規則的な服薬の重要性を理解し確実に服薬できるように習慣づけることである。更に,退院後の治療でも規則的な服薬を継続できるようにするために,入院中から病院と保健所等が連携してDOTSカンファレンス(個別患者支援計画の検討と評価等)を定期的に開催しながら,治療終了まで一貫した支援を行うことを目的としている。
V.院内DOTS推進のための基本姿勢
DOTS戦略は「服薬確認」を中核として,「確実な診断」「治療施設や薬剤の確保」「治療の評価」を「行政の責任」の下で行う包括的な結核対策戦略である。WHOのDOTS戦略の5要素を参考に院内DOTSを推進するに当たっての基本姿勢を7項目にまとめた。
1.院内の合意形成
所属長の責任の下で実施する。院内DOTS実施に当たって,医師・看護師・薬剤師等の(病院)スタッフはその意義と必要性について共通認識を深め,合意する。
2.確実な結核の診断に基づく治療方針の明確化
塗抹陽性肺結核患者を最優先とするが,入院患者全員に実施し脱落防止を含めて初期強化短期化学療法による標準治療期間で治療を終了する。
3.患者への十分な説明
医師は患者に対して,院内DOTSの必要性(確実な服薬は結核を完治する最善の方法であること)について十分な説明を行う。看護師・薬剤師等スタッフはそれを補足し,患者の主体的な服薬行動を支援する。
4.医療従事者による確実な服薬の確認
治療中断が患者に及ぼす影響を十分認識し,確実な服薬の有効性を理解した看護師等スタッフが,毎日患者が薬を飲み込むのを見届ける。
5.保健所との連携体制
退院後の外来治療を完遂するために,入院中から保健所のスタッフを加えた打ち合わせ(DOTSカンファレンス)を行うなどの連携体制を構築する。
6.コホート分析による治療成績の評価
個々の治療成績を評価し,保健所と合同で開催するコホート検討会を通して地域DOTS全体の評価を行う。
7.国及び地方自治体の強力な関与
国及び地方自治体は院内DOTS が円滑に実施され,退院後も治療終了まで確実に服薬が継続できるよう強力に関与し,治療成功率を高め,地域の結核対策に最終責任をもつ。 |
W.院内DOTSの導入にあたっての準備
院内DOTS を始めるにあたって,事前に準備すべき事項を下記に記した。
1.院内DOTSの推進組織を作る
スタッフをメンバーとした推進組織を発足させ,結核等研修への職員の派遣,先進施設の視察,文献・資料収集を行い,導入にあたっての疑問・不安の解消に努める。
2.院内DOTSの手引き(マニュアル)作成
速やかな実施を図るため,実際の方法等について明記した手引きを作成する。
院内DOTSの手引き例の項目とポイントを下記に提示する
(参考例1)
1.はじめに(結核医療に関する病院の基本方針)
2.目的(服薬習慣化)
3.方法
4.服薬手帳の使用方法
目的/対象/渡す時期/記載方法/注意事項
5.DOTSカンファレンスの開催
(参考例2)
1.目的(服薬習慣化)
2.患者説明の方法
3.服薬手帳の使用方法
医師の記載/看護師の記載
4.実施方法
*DOTSカンファレンスについては別個に実施要領を作成
1)目的
2)方法:構成/運営/対象患者/検討内容
3)開催場所
4)開催日時 |
3.関係者の共通認識と合意形成
院内DOTS推進組織の活動や院内DOTSの手引き作成を通して,スタッフが院内DOTS の目的や意義を共有し,共通認識の下で実施できるよう合意を図る。
4.病院と保健所等との連絡会議を立ち上げる
退院後引き続き円滑な服薬が継続できるよう,保健所と会議を開催し,地域の服薬支援体制の整備および構築について協議する。
V.院内DOTSの実際(基本的な方法)
1.対象:結核と診断された入院患者全員
2.確認方法:患者が薬を飲み込むのを医療従事者が見届け,それを記録するのが基本的な方法である。看護者がベッドサイドに薬を運び確認する方法や患者が所定の場所に出向く方法いずれでもよい。
3.服薬回数:原則として1日1回とする。高齢者や副作用などの状況によっては,分2,分3も考慮してよい。退院後に忘れず服薬しつづけるために1回でまとめて服薬することが習慣化につながる。
4.服薬時間:病院で時間を決めて実施する。入院中の服薬時間と退院後の服薬時間が一致しない患者の場合,退院の見通しが立った時点で退院後の生活にあわせた時間に服薬するなど配慮する。
5.実施期間:入院中の全期間を基本とする(Q&A2参照)。
6.薬の管理:基本的には看護師の管理とするが,退院が近くなった患者の薬の管理方
法としては,患者の手持ちとする方法もある。服薬時間に患者自身が薬を用意し,看護者の目の前で飲み込むのを確認する。
7.記録方法:服薬手帳を活用する。服薬手帳は,患者と主治医・地域の服薬支援者が一丸となって結核治療を完遂させる「治療成功へのパスポート」である。入院中だけでなく,外来通院・保健所への連携に役立てる。
Y.評価と見直し
院内DOTSの評価は,入院中の服薬状況だけでなく,退院後の受療状況や服薬状況及び治療効果等を含めて行われる。地域での患者支援を担う保健所と協議し,評価と見直しを実施する。
1.DOTSカンファレンス
定義:個別患者支援計画の作成・評価・見直しの場であり,入院中はもちろん退院後も視野に入れた服薬支援の方法を病院と地域が連携して検討を行う。
1)構成メンバー
病院の医師,看護師(病棟,外来),薬剤師,臨床検査技師,ソーシャルワーカーなど
保健所の医師,保健師など
2)患者の退院が近づいたらDOTSカンファレンスを行う
3)退院後の服薬継続を阻む要因について検討し,具体的な服薬支援方法を協議する。
4)複数の保健所が関与する病院では,月1回程度定例的に開催する方法も良い。 |
2.コホート検討会
定義:治療終了者の治療成績のほか,患者支援の評価,地域DOTS事業全体の評価を行う。
1)構成メンバー
病院の医師,看護師
保健所の医師,保健師など
2)保健所(師と記載されているのは間違い)が定例的(年2回以上)に開催する。 |
文献
青木正和:「医師・看護職のための結核病学4.治療A 結核化学療法の原則と実際」, 結核予防会,東京,2003.
≪Q&A≫
1.入院中のすべての患者にDOTSが必要なのはどうしてでしょうか。
結核の薬は,症状がなくなっても一定期間飲み続けなければなりません。人は症状がなくなれば薬を飲まなくなるものです。どの患者が不規則治療となるか予測はできません。治療が完了するまで薬を飲み続けるためには,服薬が特別なことではなく,その人の生活の一部となること,服薬の習慣を身につけることが大切です。一部の患者だけにDOTSを行えば,「なぜ,自分だけ服薬を監視されるのか」とプライドが傷つき,看護師との信頼関係が損なわれるという調査結果もあります。院内DOTSは直接服薬確認だけではなく,退院後の服薬継続を踏まえた患者教育を含むことから,全ての患者が対象となります。
2.服薬確認はどれくらいの期間,どのような方法で行ったらよいでしょうか。
治療完了までの服薬支援は,結核看護の根幹をなすものです。服薬確認は,基本的には全入院期間中実施することが望ましいと考えます。@全期間,看護師が配薬をして目の前で確認する A一定期間看護師が配薬をし,その後,薬は患者渡しとする。(この場合,薬は患者の自己管理となりますが,服薬は看護師が目の前で確認する)などの方法があります。他にB一定期間看護師が配薬をし,その後,薬の管理・服薬も患者本人が行う,方法もあります。この場合も,服用した空き袋の確認を行うなど,確実に飲めたかどうかの見守りは必要です。
3.患者への説明は誰が行うのですか。
治療開始時,DOTSの必要性について主治医が説明します。その後,薬剤師や看護師が抗結核薬の名前・副作用や具体的な服薬方法について資料等を用いて説明します。効果的な院内DOTSのためには,開始に当たって患者の十分な理解と了解が必須です。スタッフによって説明が異なることのないよう,定期的な学習会等を通して内容の統一と改善を図ることが大切です。
4.患者の療養支援のことで保健所に連絡したいのですが,その方法を教えてください。
保健所には結核患者の療養支援を担当する保健師がいます。患者の住所地の保健所に連絡してください。最近,定期的に病院と保健所の連絡会議を開催する地域が増えてきました。保健所による地域DOTSは,地域の実情に応じて段階的に実施されています。平成15年度に,地域DOTS事業を実施または計画している保健所は,156箇所で全国保健所の3割弱でした。個々の患者に対する服薬支援は,保健師の業務として実施しています。退院後の治療脱落が懸念される場合,担当保健師と協同して対応されることをお勧めします。
5.服薬手帳の使い方を教えてください。
服薬手帳には,治療経過や菌検査結果,毎日の服薬を記録する内服カレンダーが掲載されています。服薬手帳は本人が保管し,毎日の服薬後に本人と看護師等服薬確認者がサインをします。入院中は抗結核薬の変更や退院時のメッセージ等を記入するなどして患者指導に活用ができます。退院後は体調の変化や気付いたことを患者自身が記録し,診察時に主治医や看護師に相談する際利用します。関係者が手帳を活用することによって,継続した服薬支援が可能となります。
服薬手帳を作成している自治体では,保健所保健師が初回面接の際に患者本人へ渡しています。また,年度始めに事前に病院へ手帳を預け,看護師から本人へ渡す場合もあります。
6.業務への負担はどの程度でしょうか。
実際に1人の看護師が数人の患者を受け持ちながら,DOTSを実施している病院が多いようです。ある病院で,1人の看護師が6〜7人の患者のDOTSに要する時間は30分程度です。話が長引くときや指導が必要な場合は,あらためて訪床します。また,多くの病院ではDOTS開始に当たって業務内容の見直しを行い,DOTSの時間帯を決めています。
7.患者の自尊心を傷つけ,信頼関係を損ねたりしないのですか。
院内DOTSを開始した当初は,「子ども扱いするのか」「プライドが傷つく」など不満の声が聞かれますが,毎日DOTSを実施する中で,相互の信頼関係が生まれ,拒否的態度や不満の声は軽減してきます。医師や他職種の協力の下に,常に患者の声に耳を傾けることを忘れず,患者を中心としたDOTSを実践するための定期的な学習会等の開催をお勧めします。
8.薬の副作用に敏感になりすぎることはないですか。
患者が副作用に関心を持つことは,効果的に治療を進めていく上で大切なことです。重要なことは,患者の訴えや不安に丁寧に対応し,副作用について正しい知識と情報を伝えることです。退院後の自己判断による服薬中断を予防するためにも,院内DOTSによる副作用の早期発見と患者教育は重要と考えます。
9.1日1回にしたら量が多いため高齢者は苦痛ではないですか。
原則1日1回とし,高齢や合併症による薬の量が多いなどの場合,回数を増やすなど柔軟な対応をお勧めします。
10.PTPシートから薬を取り出すのは時間がかかり,また高齢者には扱いにくく薬を落としてしまうことがあります。一包化にはできないのでしょうか。
医師の処方があれば,一包化は可能です。 |