抗酸菌検査の精度管理(2)
市販薬剤感受性試験培地の精度について

  平成15年4月      

日本結核病学会抗酸菌検査法検討委員会

はじめに
 薬剤感受性試験は精度管理の最も難しい検査法である。検査精度の善し悪しは患者の治療効果を左右するのみならず新たに耐性菌を作ることにも結びつく。1994年,世界保健機関(WHO)と国際結核肺疾患予防連合(IUATLD)は薬剤耐性結核の広がりを調べることを目的として世界的規模のプロジェクトを開始した。得られた結果を比較する上で重要なことは,世界の異なる検査室で行われている薬剤感受性試験の精度を明らかにすることである。WHO/IUATLDは20数カ所の研究所をSupranational Reference Laboratory(SRL)として選び,WHO/IUATLDのセンターとの間で菌株を交換し,検査室における検査精度を調べることから研究をスタートした1)-3)。この研究に当たって,WHO/IUATLDは大多数のSRLが報告した成績をその菌の示す耐性/感受性のゴールドスタンダードとして用いることにした。もちろんこの決定には遺伝子の変異や臨床応答も参考にしている。次に,SRLは同じWHO地域内の諸国のNational Reference Laboratoryとの間で同様の試験を行うことで検査精度の向上を目指した。
 わが国では,このような本格的な抗酸菌の薬剤感受性試験の精度管理試験はこれまでのところ行われていない。日本結核病学会抗酸菌検査法検討委員会では,抗酸菌検査の精度管理の一環として,2001年度に市販培地の発育試験を実施し,得られた成績を本誌に報告したが4),今回は,病院の検査室および検査センターで行っている薬剤感受性試験の検査精度の向上に寄与することを最終目的として,薬剤感受性試験の精度管理に関する検討を実施した。わが国では,大部分の検査室では市販培地を用い薬剤感受性試験を行っていることから,今回の精度管理試験を行うに当たっては,既にSRLで薬剤感受性の判定結果が得られている結核菌菌株を供試して,わが国の4種の市販培地による感受性試験の精度に関する検討を実施した。

材料と方法
1. 供試菌株
 WHO/IUATLDのコーディネーター(Prof. Portaels, Mycobacteriology Unit, Institute of Tropical Medicine, Belgium)からSRL内での薬剤感受性試験の精度管理試験用に送付された9菌株と標準菌株である結核菌H37Rvの合計10菌株を,試験の再現性を調べる目的で,それぞれ2本ずつ, 都合20株の試験菌を2%小川培地に培養し,参加7施設に送付した。
2. 薬剤感受性試験培地
 今回は主要4薬剤,イソニアジド(INH),リファンピシン(RFP),ストレプトマイシン(SM)およびエタンブトール(EB)の感受性試験培地を評価した。試験には,中試斜面培地を用いる極東結核菌用感受性一濃度培地(極東製薬工業)および感受性培地・TB(日水製薬),簡便法である極東結核菌感受性ビットスペクトル−SR(極東製薬工業)と"ニチビー"抗酸菌検査用ウエルパック培地 P(日本BCG)の4種を用いた。参加施設により試験日が異なったため用いた培地の製造ロットは同一ではなかった。また接種菌の調製および結果の判定は,各培地製造会社のマニュアルに準じて行った。結果は,新結核菌検査指針に従い,耐性菌の割合が1%未満を感受性(S),1%以上を耐性(R)として判定した5)6)

3. 成績の解析
 WHO/IUATLDの精度管理試験で大多数(70%以上)のSRLが報告した成績をその菌の示す耐性/感受性のゴールドスタンダードとして解析に用いた。SRL内でRFPの試験で意見の分かれた(SRL内の一致率が70%以下)2つのペアはRFPの解析から除外した。各供試培地を用いた場合の薬剤感受性試験の感度は,SRLで耐性と判定された株を各々の施設でも同じく耐性と判定し得た場合の割合で,また,特異性は,SRLで感受性と判定された株を各々の施設でも感受性と判定し得た場合の割合で表示した。さらに,全体の一致率は,SRLで感受性または耐性と判定された株がそれぞれの施設でも正しく感受性または耐性と判定された割合で,また,再現性は,ペア菌株の成績の一致率で示した1)-3)

結 果
 今回実施した薬剤感受性試験により,表1(参加7施設全体の成績)および表2(各施設ごとの成績)にまとめたような成績が得られた。


表1.薬剤感受性試験培地の制度a
薬剤   培地名   感度   特異性   一致率   再現性e
INH   T   100   100   100   100
U 100 100 100 100
V 100 100 100 100
W 100 100 100 100
RFP   T   100   100   100   100
  U   100   100   100   100
  V   100   100   100   100
  W   92.9   98.9   97.4   98.6
SM T 81.4 100 90.7 95.7
U 72.9 100 86.4 92.9
V 98.6 100 99.8 98.6
W 60.0 100 79.3 91.4
EB   T   100   94.0   95.7   97.1
  U   100   98.0   98.6   97.1
  V   100   96.1   97.1   97.1
  W   97.6   89.0   91.4   85.7
a精度:SRLと参加7施設の成績の比較
b感度:SRLで耐性と判定した株を各施設で耐性と判定した割合
c特異性:SRLで感受性と判定した株を感受性と判定した割合
d全体の一致率:SRLで耐性または感受性と判定した株を正しく耐性または感受性と判定した割合
e再現性:ペア菌株の成績の一致率

表2.各施設の薬剤感受性試験の精度
薬剤 精度   施設
  A   B   C   D   E   F   G
INH 感 度 100  100  100  100  100  100  100 
特異性 100 100 100 100 100 100 100
一致率 100 100 100 100 100 100 100
再現性 100 100 100 100 100 100 100
RFP 感 度   100   87.5   100   100   100   100   100
特異性   100   100   100   100   100   97.9   100
一致率   100   96.9   100   100   100   98.4   100
再現性   100   100   100   100   100   96.9   100
SM 感 度 75.0 82.5 85.0 72.5 70.0 85.0 77.5
特異性 100 100 100 100 100 100 100
一致率 87.5 91.3 92.5 86.3 85.0 92.5 88.8
再現性 95.0 100 95.0 92.5 95.0 95.0 92.5
EB 感 度   100   100   100   95.8   100 100 100
特異性   91.1   89.3   96.4   92.9   96.4 96.4 96.4
一致率   93.8   92.5   97.5   93.8 97.5 97.5 97.5
再現性   92.5   95.0   95.0   92.5 95.0 95.0 95.0
全体 感 度 92.2 93.0 95.3 91.4 90.6 95.3 93.0
特異性 97.2 96.6 98.9 97.7 98.9 98.3 98.9
一致率 95.1 95.1 97.4 95.1 95.4 97.0 96.4
再現性 96.9 98.8 97.5 96.3 97.5 96.9 96.9

1. INH感受性試験
 今回実施したINH感受性試験では,供試4種の培地間に差はみられず,試験に参加した7施設すべてで同一の成績が得られた。また,供試20菌株中12菌株が耐性,8菌株が感受性と判定され,これらの結果はSRLの成績と完全に一致した。従って,供試4培地の感度,特異性,再現性はいずれも100%であったことになる(表1)。
2. RFP感受性試験
 今回のRFP感受性試験に供試した菌株の中には,元々SRL内でも感受性判定成績を異にした菌株が2ペア(4菌株)含まれていた。その内訳であるが,1つのペアについては,SRL23施設中13施設で耐性に,10施設で感受性と判定されており,もう1つのペアについては,SRL16施設で感受性に,7施設で耐性と判定されている。ところで,これら2ペアについては,今回7施設で実施した試験でも培地間,施設間,ペア間で異なる判定結果が得られていることから,これらの菌株は,今回のRFP培地の精度管理の解析からは除外し,最終的には残りの16菌株を解析に用いることとした。
 その結果(表1;RFP参照),培地T,U,Vを供試した試験では,各施設間の結果に特記すべき差は認められず,いずれの施設でも10菌株は感受性,4菌株は耐性と判定され,これら3種の培地で得られた判定結果はSRLの成績と100%一致していた。他方,培地Wについては,5施設からの成績はSRLの成績と100%の一致率をみたが,他の2施設からはSRLの成績とは異なる結果が得られ,そのうち1施設では耐性2菌株を感受性と,他の1施設では感受性1菌株を耐性と判定している。従って,SRLの成績をゴールドスタンダードとして参加7施設の結果を比較してみると,培地T〜Vでは感度,特異性,再現性ともすべて100%であったのに対して,培地Wでは,感度は92.9%と低く,特異性は98.9%,再現性は98.6%とやや低い結果が得られたことになる。
3. SM感受性試験
 SM感受性については,4セット(8株)の供試菌についてSRLのそれとは異なる判定結果が報告されたが(表3),これらはいずれもSRLで耐性と判定された菌株であった。このうち,セット1の菌株については,すべての施設から,SRLで判定された結果とは異なる成績が,培地T〜Wのいずれかの培地を使用した場合に得られている。その内訳であるが,培地Wでの試験ではすべての施設で感受性に,また,培地TとUでの試験では1〜2施設を除いた他のすべての施設で感受性と判定されたが,培地Vでの試験では1施設を除く他の施設ではすべて耐性と判定された。次に,2-Aの菌株については,施設DとEが培地UとWでの試験で感受性と判定している。さらに,2-B,4-A,4-Bの菌株については,培地Wで試験した場合にのみ一部の施設でSRLと異なる成績が得られている。なお,今回の感受性試験では,SRLで感受性と判定された菌株が耐性と判定された事例は皆無であった。上述の成績を総括すると,表1に示すようであり,培地T,U,V,Wの感度はそれぞれ81.4%,72.9%,98.6%および60%であり,培地Vを除き90%以下の低い値であった。再現性はそれぞれ95.7%,92.9%,98.6%および91.4%であり,2培地では95%以下であった。一方,特異性は供試4培地のすべてで100%であった。
4. EB感受性試験
 EB感受性については,培地Tでの試験では施設AとBが各々3菌株,培地Uでの試験では施設AとDが各々1菌株,培地Vでの試験では施設Bが2菌株,および施設CとGが各々1菌株,さらに培地Wでの試験ではすべての施設が1〜4菌株についてSRLのそれとは異なる結果が得られた(表2)。これらの事例では,いずれも1つの組み合わせを除きSRLで感受性と判定した菌株を耐性と判定していた。表1に示すように,供試4培地の感度はいずれも95%以上であったが,特異性は2培地(培地T,W)で95%以下であった。また培地Wの再現性は90%以下で,他の培地の97%に比較してかなり低いものであった。


表3.SM感受性試験でSRLと各施設の間の不一致例
セット
(菌株名)
  SRLa   培地   施設
  S   R     A   B   C   D   E   F   G
1-A(W-11)   5   18   T   S   R   S   S   S   S   S
U S S S S S R S
V R R R R R R S
W   S S S S S S S
1-B(W-533)   4   19   T   S   R   R   S   S   S   S
             U   S   S   S   S   S   R   S
             V   R   R   R   R   R   R   R
             W   S   S   S   S   S   S   S
2-A(W-54) 4 19 T R R R R R R R
U R R R S S R R
V R R R R R R R
W R R R S S R R
2-B(W-475)   2   21   T   R   R   R   R   R   R   R
            U   R   R   R   R   R   R   R
            V   R   R   R   R   R   R   R
            W   R   S   R   R   S   R   R
4-A(W-145) 4 18 T R R R R R R R
U R R R R R R R
V R R R R R R R
W S S S R S R R
4-B(W-642)   4   18   T   R   R   R   R   R   R   R
            U   R   R   R   R   R   R   R
            V   R   R   R   R   R   R   R
            W   S   S   R   S   S   S   R
9-A(W-386) 3 20 T R R R R R S R
U R R R S S R S
V R R R R R R R
W R R R R R R S
9-B(W-771)   2   21   T   S   R   R   R   R   R   R
            U   S   R   R   S   R   R   R
            V   R   R   R   R   R   R   R
            W   R   R   R   R   R   R   R
合計不一致数b 10 7 6 11 12 6 9
aSRL:23のSRLの中で感受性(S)または耐性(R)と判定した施設数を表した。
   セット4の菌株については,1施設からの報告がなかった。
b合計不一致数:SRLの成績と不一致の結果を報告した施設別合計数を表した。

考 察
 WHO/IUATLDは,2002年のSRLネットワークの会合で重要な抗結核剤中,なかんずくINHとRFPの感受性試験の感度,特異性,再現性を95%以上に保つことを目標にすることに決定した。培地T,U,Vを供試してのINHとRFPの感受性試験では,それら試験精度のパラメーターのいずれもが100%であり,WHO/IUATLDの基準に適合していた。これに対して,培地Wを供試した場合は,INH感受性試験の精度は100%であったが,RFP感受性試験の感度は95%以下と低かった。この場合,SRLと一致しない成績を報告したのは参加7施設の中の2施設であり,他の5施設からはSRLと同一の成績が報告された。このことは,培地Wについてはこれまでにも指摘されているように,この培地を用いての薬剤感受性試験の実施に当っては,検査手技に熟練することが肝要であることを示している。
 INHとRFPについてはほぼ良好な結果が得られたのに対して,SMとEBについては,SRLの成績との間に不一致例が多数見られた。SMの試験では不一致例のすべてがSRLで耐性と判定されていた菌株が感受性と判定されていた。ところで,レーベンシュタイン・イエンセン(L-J)培地を用いる比率法の場合,SMの試験濃度は4μg/mlに設定されている。これに関連して,日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会では,委員の所属する3施設でL-J培地と1%小川培地による比較試験を実施した結果,L-J培地で用いているSMの試験濃度4μg/mlは1%小川培地で10μg/mlに相当することが分かり4)5),新結核検査指針では,1%小川培地へのSMの添加濃度は,従来の20μg/mlの 1/2 濃度である10μg/mlに改められた。SMの感受性試験については多少異なる検査濃度を採用している国もあり,例えば,韓国ではL-J培地を用いているにもかかわらず10μg/mlを基準濃度としている。なお,今回の精度管理試験では,培地Vを供試した場合に得られた判定結果はSRLの成績とほぼ一致しており,このことは供試3培地で見られたSRLの判定成績との不一致例は検査に用いているSMの試験濃度の違いに起因したものではないことを示唆している。
 EB培地での判定成績でのSRLのそれとの不一致例では,SRLで感受性と判定された菌株を耐性と判定していたものが大部分であった。感受性試験の感度については4培地とも問題なかったが,培地TとWの特異性は95%以下であり,特に培地Wの特異性は90%以下と低いものであった。EBとSMはSRL内でも成績のばらつきのある試験であるが,精度管理試験を繰り返す度にその精度は改善されて来ている2)3)。因に,EBは静菌的作用を示す薬剤であり,接種菌の調製法や判定日などにより検査結果に影響がみられることが考えられるので,EB感受性試験の実施に当っては,こうした点にも留意する必要があろう。
 今回の精度管理の検討には,7施設が参加しているが,施設によりSMとEBの感受性試験でSRLの判定成績との間の一致率に差が見られた(表2)。SM試験の一致率は,高い施設の92.5%(74/80)から低い施設の85%(68/80),また,EB試験の一致率も,高い施設97.5%(78/80)から低い施設の92.5%(74/80)と施設により開きがあった。今回の精度管理試験では,培地に添付されているマニュアルに従い薬剤感受性試験を実施しているが,参加施設により接種菌の調製法,接種菌量,判定などに微妙な違いがあり,結果としてこのような差が出たものと考えられる。特に培地Wについてはこれまでにも判定の難しさが指摘されてきているが7)8),今回の成績はこれを追認するものである。なお,季節の変動や餌により卵の成分に差が出ることも予想されるところであり,薬剤感受性試験は微妙な検査であるので,こうした事情も念頭におき,今後同じ菌株を用い,時期を変えて製造ロットによる差をみるような精度管理試験を実施することも必要であろう。

その他の特記事項
 今回の薬剤感受性試験を実施した各委員より寄せられた意見および特記事項,ならびにそれらに対する培地メーカー側からの回答は以下のとおりである。
(1) INH, RFPについては,いずれの培地も感度,特異性とも良好で特に問題はない。
(2) SM,EBについては,多くの培地ではSRLの成績との一致率が低く,特に,SMでは感度が低く,EBでは特異性が低い傾向が認められる。これには,検査を実施した者の手技の巧拙がかなり関係しているのではないか。
(3) いずれの培地を使用するに当っても,いかに均等菌液を調製するかが最も重要である。そういう観点からすると,接種菌は液体培地で培養した方がよさそうである。ただし,液体培地発育菌を使用した場合は薬剤感受性に差がでる可能性もある。
 培地メーカーからの回答:病院の臨床検査室などで培養陽性後ただちに菌の感受性試験が実施出来る施設や,陽性検体を自動的に感受性試験に供することの可能な施設では,卵培地などの固形培地から直接菌液を調製するのが最も良い。しかし分離菌が古くなってしまった等の理由で再培養を要する場合には,卵培地でもよいが,菌液調製用の液体培地も推奨できる。なお,液体培地を用いての菌液調製について若干の検討を行ったところ,Tween 80 が添加された液体培地でも結核菌のコード形成は避けられないという結果が得られおり,少なくとも1日1回の攪拌作業は必要であると考えられる。
(4) 普通法(試験管法)では,判定がしやすいという長所があるが,1検体の薬剤感受性検査に必要な培地数が多く,菌の接種操作や発育の有無の観察に非常に時間を費やすので,その点では利便性に劣ると言える。また,普通法の培地にはキャップがきつすぎるものがあった。また,培地Uは横に寝かせて出荷されて来るので,凝固水が培地にしみ込んでしまっており,培地全面に接種菌液を広げるのに苦労した。これは使用2〜3日前に立てておくことで解決するのかもしれない。他方,キャップの緩い培地もあったが,この場合は作業のしやすさには特に問題はないが,バイオハザードの点では問題がある。
(5) 培地V:ほどほどのコンパクト性があり,菌の発育の有無の見極めがしやすく,判定もほとんど迷わずに可能であったが,少数発育菌のコロニーが小さい場合には発育しているかどうか見極め難い場合がある。また,この培地には,@菌接種時間を短縮出来る,A判定時間が比較的短くて済む,B培養器のスペースをあまり必要としないなどの利点がある。
(6) 培地W:現在,関西の検査室では,@コストが安い,A操作が簡便である,Bコンパクトで場所を取らない,C色で判定するので見やすい,といった理由で,すでに半数の施設で培地Wが使用されている。しかしながら,今回の成績からも明らかなように,培地Wは,呈色が点状になる場合や,全体に薄く広がる場合,さらに色調が強い場合と弱い場合などとまちまちであり,判定に苦慮する場合が少なからずある。また,菌の発育量が多い時などには,呈色の色合いがはっきりしないために判定が困難なことが多く, 特にSM, EBは判定しづらい。また,菌塊を接種してしまうと,それだけで呈色してしまうこともあり,判定ミスが起きやすく,さらに,判定時期が遅れた場合には感受性を耐性と判定する危険性が高い。こうしたことが原因してか,培地Wでは成績がかなりばらつく傾向があり,再現性にもやや劣るようである。やはり,薬剤感受性試験においては,色での判定は問題があるのではないか。また,添付マニュアルの判定基準の記述も不十分である。判定日については,被験菌の増殖速度の違いにより適宜変える必要があり,各自で被検菌ごとに最適なものを決めたほうがよい。また,培地Wでは,検査者の技術の巧拙が成績を左右する傾向が強いので,特に初心者は注意が必要であり,そうした者にも正しい理解が可能なように,マニュアルを改訂する必要がある。
 培地メーカーからの回答:培地Wは,酸化還元呈色色素をもって菌の発育を検知しようとするものであるが,今回検討した菌株の中には,本呈色色素への反応性が弱い菌株があった可能性が考えられる。また,供試菌株の中に薬剤感受性が耐性と感性のボーダーライン上にある菌株が含まれていたことも,今回の感受性試験での培地Wの感度や一致率の低さの原因の一つとなったのではないかと考えられる。さらに,培地Wの使用に当っては,検査者が当該培地の使用法に習熟していることが望ましいので,臨床検査室への培地の導入に当っては,培地メーカー側からの技術指導の徹底を図っているところである。
(7) 供試培地の中には,小型化を追求するあまり,かえって操作性に問題が生じてしまっているものもある。あまり小さな培地では,酸素量が少なく,培養結果にばらつきが生じやすいので,培地の微量化はほどほどにする必要がある。また,培地が少ないと,混合感染の場合にチェックが効かないことも考慮しておく必要がある。

謝 辞
 今回の精度管理試験は一部日本結核病学会よりの資金援助を受けて実施されたものであり,また供試小川培地はすべて極東製薬工業株式会社,日本BCG製造株式会社,日水製薬株式会社のご好意により分与を受けたものであります。ここに謝意を表します。
追記:詳細なデータの開示をご希望の方は,前抗酸菌検査法検討委員会委員長までご連絡下さい。

文 献
1) WHO/IUATLD Global Project on Anti-Tuberculosis Drug Resistance Surveillance: Anti-tuberculosis drug resistance in the world. WHO/TB/97.229. Geneva;WHO, 1998.
2) WHO/IUATLD Global Project on Anti-Tuberculosis Drug Resistance Surveillance: Anti-tuberculosis drug resistance in the world. Report no.2. Prevalence and trends. WHO/CDS/TB/2000.278. Geneva;WHO, 2000.
3) Laszlo A, Rahman M, Espinal M, et al.: Quality assurance programme for drug susceptibility testing of Mycobacterium tuberculosis in the WHO/IUATLD Supranational Reference Laboratory Network: five rounds of proficiency testing, 1994-1998. Int J Tuberc Lung Dis. 2002;6:748-756.
4) 日本結核病学会抗酸菌検査法検討委員会:抗酸菌検査の精度管理(1)市販培地の発育試験成績について.結核.2003;78: 61-64.
5) 日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会:結核菌の薬剤感受性試験,特に試験濃度改変と比率法導入への提案.結核.1997;72:597-598.
6) 日本結核病学会抗酸菌検査法検討委員会:「新 結核菌検査指針2000」.結核予防会,東京,2000.
7) 鹿住祐子,平野和重,阿部千代治,他:入院時薬剤耐性に関する研究:1992年度の各施設の成績と結研判定の比較.結核.1996;71:267-276.
8) 平野和重,和田雅子,阿部千代治,他:入院時薬剤耐性に関する研究:1997年度の各施設と結研の成績の比較.結核.2001;76:461-471.


日本結核病学会抗酸菌検査法検討委員会
委員長 ○冨岡 治明 
副委員長 ○阿部千代治
委 員  飯沼 由嗣

○小栗 豊子 

鎌田 有珠 
 古賀 宏延
 小林 和夫  斎藤  肇 竹山 博泰  長沢 光章
○長谷川直樹 ○樋口 武史 本田 芳宏

○山崎 利雄
○和田 光一 (○は実験担当代表者)

(出典:結核.Vol.78,No.8:563-568. 2003)

この報告を個人的な利用に限りダウンロードあるいはコピーをして使っても構いませんが,複数部コピーして配布するような場合には,結核病学会事務局の許可を得て下さい。事務局osada@jata.or.jp