医療基準改定後の肺結核初回標準療法、特にPZAを含む初期強化短期化学療法の実施状況と副作用の出現頻度に関するアンケート調査成績平成9年8月 日本結核病学会治療委員会 はじめに
肺結核に対する医療基準が初めて制定されたのは、昭和27年(1952年)である。当時は、SM・PASの2剤併用が中心であったが、同年11月、lNHの登場と同時にSM・PASまたはINH・PASの6ヵ月療法がわが国の標準療法として採用された(第2次改定)。その後、昭和38年(1963年)の第3次改定でSM・INH・PASの3剤併用と長期療法が標準療法とされたが、RFPの導入を契機に昭和61年(1986年)には第4次改定が行われ、排菌例や有空洞例など中等症以上の症例にはINH、RFP、SM(またはEB)の3剤併用療法を、非排菌例や非空洞例など軽症例にはlNH,RFPの2剤併用療法を行うという2方式が平成8年3月末まで初回標準療法として推奨されていた1)。
ところが、1970年代から80年代にかけ、INH、RFP、(SM or EB)に初期2ヵ月間PZAを加えた3〜4剤併用によるいわゆる初期強化短期化学療法が、より効果的でかつ短期間に治療を終了できる優れた治療法であることが多くの基礎的並びに臨床的研究によって明らかにされ2)、ATS,CDC(19863)、19944))、IUATLD(1988)5)、WHO(1991)6)はこの療法を肺結核初回標準療法として勧告した。以来、初期強化短期化学療法は世界の趨勢となったが、わが国でもこれを受け、平成8年4月医療基準の改定が行われ、従来の2標準療法のほかに、初期2ヵ月間のみPZAを加える2HRZS(or E)/4HR(E)の6ヵ月療法が新たに初回標準療法の一つとして加えられた。
日本結核病学会治療委員会では、医療基準改定後1年が経過したのを契機に、平成9年4月、新しい標準療法、特に初期強化短期化学療法の施行状況や副作用の出現頻度などを調査したので、その成績について報告する。
対象と方法
1)アンケート調査の対象施設および医師
結核病棟を有する全国国立療養所、一部の国立病院、および大阪府立羽曳野病院に勤務する呼吸器科並びに内科医師の中から約200名を抽出し、アンケート調査の対象医師とした。2)対象患者
各医師が、平成8年4月1日より同9年3月31日まで1年間に主治医となった、新たに入院した初回肺結核患者を対象とした。3)アンケートの調査内容
表1に示すように、10項目について調査した。
表1 肺結核初回治療
に関するアンケート調査票![]()
成績
1)アンケート調査回収状況
58施設、107名の医師より回答があった。(107名の医師中、所属不明の医師が3名みられた。)2)調査成績
a)肺結核初回治療患者数
平成8年4月1日より同9年3月31日までの1年間に、各医師が主治医となった新入院初回肺結核患者数は1,776例であった。b)初期強化短期化学療法施行例数
このうち、2HRZS(or E)/4HR(E)療法を行った患者数は681例、38.3%であった。c)肝機能障害のみられた患者数
初期強化短期化学療法施行例の中で、主治医が肝機能障害が出現したと判定した患者数は646例中66例で、25.7%に肝機能障害が認められた。d)肝機能障害による治療中止例数
肝機能障害出現のため、2HRZS(or E)/4HR(E)療法を中止した症例は671例中58例、8.6%、肝機能障害出現者164例中55例、33.5%であった。e)治療を中止した場合のGOT、GPT値
GOT値は平均237.1±225.9−IU/L(62〜927IU/L,n=34)、GPT値は271.2±323.7IU/L(57〜1、663IU/L、n=35)であった。f)肝機能障害による死亡例
今回の調査では、死亡例はみられなかった。g)血清尿酸値の上昇した患者数
初期強化短期化学療法施行例638例中439例、68.8%に尿酸値の増加が認められた。h)痛風合併の患者数
各主治医の診断による痛風合併数は15例で、初期強化短期化学療法施行例681例中2.2%であった。i)血清尿酸値上昇による治療中止例数
また、尿酸値上昇のために治療を中止した、患者数は18例で、681例中2.6%であった。
(注1:各項目で初期強化短期化学療法施行例数の異なるのは、項目によって記載漏れが異なるためであり、記載漏れのある場合は当該の初期強化短期化学療法施行例数を除外したためである。)j)その他の副作用と臨床検査値異常
その他の副作用として、発熱10例、食欲不振4例、嘔気7例、関節痛(痛風を含まない)2例、口内炎・舌炎1例、皮疹23例、臨床検査値異常として白血球減少4例、血小板減少1例、好酸球増加1例などがみられた。
考案平成8年4月に医療基準が改定されてから1年が経過した。今回の改定で最も重要な点は、いうまでもなくPZAが加えられた初期強化短期化学療法の導入である。これによって、治療効果が向上し、治療期間の短縮と服薬コンプライアンスの改善、ひいては医療費の削減が期待されているが、問題は新医療基準に準じた治療法がどの程度行われているかである。かつてPZAはその副作用のため使用が控えられたこともあり、現在でも抵抗感を覚える医師もある。
今回の調査では、導入直後の1年間ではあったが、PZAを含む初期強化短期化学療法は、初回肺結核患者の38.3%に実施されており、導入初年度としては良好な実施率であるように思われた。しかし、実施率には地域差はみられなかったが、0〜100%まで各医師間の格差がみられた。このことは、各主治医の受け持った患者の背景にもよるであろうが、現在使用を検討中との回答もあり、初期強化短期化学療法の適応基準を決めかねている側面もうかがわれた。
最も懸念されたPZAによる肝機能障害は、主治医による判断という条件ではあるが、25.7%にみられた。PZAが、かつて治療不成功例や再治療例に使用された時には肝機能障害が多く出現し、中には急性黄色肝萎縮による死亡例も経験された。このような副作用の出現は、PZAの使用量が1日2.0gあるいはそれ以上で、使用期間も長く、CS、THなど毒性の高い薬剤を併用薬としていたためといわれ、新標準療法のように1日使用量が1.2g〜1.5g程度、使用期間が2カ月以内ならば副作用は少ないと説明されている。 新医療基準の導入前に行ったわが国の治療研究では、PZAを加えたINH、RFP、SM(またはEB)4剤併用療法時のGOT、GPT値の異常出現率は3.6%(薬剤中止率)〜30.1%と報告されている(表2)。この中にはPZAを6ヵ月間使用したものもあり単純には比較できないが、今回のアンケート調査では、これらの成績に比べれば若干高率のように思われる。和田15)の成績では、既存の肝機能障害のある場合には出現率が高率であったが、より詳細な患者背景の検討も含め、今後の追加調査が必要であろう。死亡例はみられなかった。
表2 PZAを加えたINH,RFP、SM(or EB)
療法における肝機能障害および血清尿酸値の上昇![]()
肝機能障害と同様に、PZAによる血清尿酸値の上昇とこれに伴う痛風や関節痛の出現も問題の一つであった。アンケート調査では、血清尿酸値の上昇は68.8%で高率に認められたが、痛風と診断された症例は2.2%で、中止例は2.6%にとどまった。従来の報告でも、尿酸値の上昇は高率であるが、そのための治療中止例は少なく、同様な成績と思われた(表2)。
その他の副作用としては、皮疹や発熱、消化器症状などが比較的多くみられた。これらのすべてがPZAに起因するか否かは不明であり、PZAを含まないINH、RFP、SM(or EB)療法との比較が必要であるが、注意すべき副作用と思われる。
結語
今回のアンケート調査は、結核病棟を有する国立療養所や一部の国立病院、大阪府立羽曳野病院を対象にサンプリング調査を行ったものであり、かつ医療基準改定直後の1年間の調査でもあるので、年間4万人以上に及ぶといわれる新登録結核患者の全体像を把握していない憾みはあるが、PZAを加えた初期強化短期化学療法は38.3%に行われ、GOT.GPT値を指標とする肝機能障害は25.7%であったことを明らかにし得た。今後、なお症例を追加し、初期強化短期化学療法の効果と安全性、並びに経済性を検討する必要があると考える。
(本アンケート調査の一部は、厚生科学研究費補助金に依った。記して謝意を表する。)
文 献
1)青木正和:結核医療の基準の移り変わり.「結核医療の基準とその解説」、厚生省保健医療局エイズ結核感染症課監修.財団法人結核予防会.1996;7-17.
2)亀田和彦:今日におけるピラジナマイドの地位.結核.1995;70:445-455.
3)American Thoracic Society/Centers for Disease Control:Treatment of tuberculosis and tuberculosis infection in adults and children. Am Rev Respir Dis.1986;134:355-363.
4)American Thoracic Society/Centers for Disease Control and Prevention:Treatment of tuberculosis and tuberculosis infection in adults and children. Am J Respir Crit Care Med. 1994;149:1359-1374.
5)IUATLD: Antituberculosis regiments of chemotherapy, Recommendation from the Committee on treatment of the IUATLD. Bull IUATLD.1988;63:60-64.
6)WHO : Guidelines for tuberculosis treatment in adults and children in National Tuberculosis Programme. WHO/TUB. 1991;91:161.
7)療研(五味二郎):初回治療におけるINH・RFP・EB併用とINH・RFP・PZA併用の比較に関する研究.結核.1980; 55:7-13.
8)国療化研:短期化学療法におけるPZAとEBの比較−国療化研第22次研究−.結核.1984;59:575-580.
9)鈴木 孝:PZAを加えた初期強化短期治療.結核.1985;60:600-603.
10)馬場治賢、他:肺結核短期療法の遠隔成績(第二次研究−A)無作為割当ての4方式による6ヵ月療法の終了後6年までの遠隔成績.結核.1987;62:329-339.
11)加治木章:ピラジナミドの再評価.結核.1994;69:107-112.
12)和田雅子、他:初回治療肺結核症に対するPyrazinamideを含んだ6ヵ月短期化学療法.結核.1994;69:671-680.
13)柳沢 勉、他:抗結核剤の肝機能障害について(抄録).結核.1997;72:355.
14)久場睦夫、他:肺結核に対するPZAを加えた初期強化療法の検討(抄録).結核.1997;72:353.
15)和田雅子:私信アンケート調査協力施設(順不同)
国立国際医療センター(豊田恵美子、川田博)、国立高田病院(横田樹也、中俣正美、谷口尚美)、大阪府立羽曳野病院(永井崇之、奥田恭久、花本澄夫、宮川トシ、上田千里、鳥羽宏和、藤原 寛、白阪琢磨、高嶋哲也)、国療北海道第一病院(諸熊幹雄)、国療名寄病院(佐々木信博、森田一豊)、国療札幌南病院(岸不盡彌、網島優)、国療小樽病院(小六哲司)、国療道北病院(松本博之、飛世克之)、国療青森病院(町田和幸)、国療岩手病院(井田士朗、本田一陽)、国療秋田病院(前橋 賢)、国療盛岡病院(佐藤正男)、国療翠ケ丘病院(大滝昌克、中西文雄)、国療西群馬病院(土屋 智)、国療干葉東病院(山岸文雄)、国療東京病院(佐藤紘二)、国療南横浜病院(河田兼光)、国療西新潟中央病院(桶谷典弘、丸山倫夫、大野みち子、近藤有好)、国療石川病院(塩谷隆策)、国療金沢若松病院(松田昌子、水島典明、明 茂治)、国療岐阜病院(加藤達雄)、国療高山病院(西野 聡)、国療天竜病院(内山 啓、白井正浩)、国療富士病院(大和庸次)、国療明星病院(伊部敏雄、柏木秀雄)、国療比良病院(新谷 寛、飯田孝陽)、国療南京都 病院(山島英世、池田宣昭)、国療近畿中央病院(坂谷光則、児玉長久、小河原光正)、国療刀根山病院(森本忠昭)、国療干石荘病院(丸川美郎)、国療兵庫中央病院(高木康行)。国療青野原病院(山本慎一、朝山 純、藤田幸久)、国療和歌山病院(間 顕、藤本尚)、国療松江病院(宍戸真司、中野博子、鳥谷武昭、矢野修一)、国療南岡山病院(河原 伸、玉置明彦、高橋 清)、国療広島病院(横崎恭久、重藤えり子、村上 功)、国療畑賀病院(小早川隆)、国療山陽荘病院(江田良輔)、国療柳井病院(内海敏雄)。国療徳島病院(木村干代美)、国療西香川病院(田原留之助)、国療愛媛病院(貴島弘樹)、国療南愛媛病院(赤松興一)、国療東高知病院(岩原義人、元木徳治)、国療福岡東病院(高田昇平)、国療南福岡病院(広瀬隆士、池田東吾、鶴谷秀人)、国療大牟田病院(原田泰子、高本正祇、田中 靖)、国療東佐賀病院(小江俊行)、国療長崎病院(宮本潤子、中富昌夫、木谷崇和)、国療再春荘病院(福島一雄)、国療熊本南病院(中川義久)、国療西別府病院(大津達也)、国療宮崎病院(松山明彦、津守容子、平岡武典、座安 清)、 国療日南病院(楠元志都生)、国療宮崎東病院(石畠英昭)、国療志布志病院(松本薗和也)、国療沖縄病院(久場睦夫、仲宗根恵俊、仲本 敦)、不明2(敬称略)
上記諸施設並びに諸先生に厚く御礼申し上げます。
日本結核病学会治療委員会
| 委員長 | 近藤 有好 |
| 委 員 |
岸 不盡彌、渡辺 彰、近藤 紘二 和田 雅子、来生 哲、柏木 秀雄 高嶋 哲也、鎌田 達、古賀 宏延 |
(出典:結核.Vol.72, No.11: 639- 642. 1997)
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