近年,液体培地を用いる培養法,核酸増幅法,遺伝子の相同性を利用した抗酸菌菌種の同定など新しい検査法が臨床の場に導入されるようになった。しかし,それらの検査法の使い方は病院によりまちまちであり,保険の査定などで混乱しているのが現状である。このような新しい検査法をどのように使うべきか,従来の検査法とどのように併用していくべきか,あるいは保険点数でどこまで認められるかなど,適切な使い方について日本結核病学会としての見解をまとめるべきとする意見が多く寄せられた。これらの要望を受けて日本結核病学会では関連する3委員会,治療委員会,社会保険委員会,抗酸菌検査法検討委員会の合同委員会を開き議論し,次のような見解をまとめた。
1.検査材料
担当の医師は,得られた喀痰が適切なものであるかどうか直接確認し,不適切であれば再度患者に提出してもらう。日常の外来診察中にすべての材料を確認することが不可能であれば,検査室の報告を参考にする。従って検査技師が塗抹染色の結果を担当の医師に報告する際に,塗抹鏡検の結果に加え喀痰材料の性状も付記すべきである。医師は可能なかぎり検査室にどのような性状の喀痰が出されているかチェックする必要がある。このことは,患者への痰の喀出指導にも役立つ。すべての検査に共通することであるが医師と検査技師との連携は大切である。2.検査の頻度
診断時に連続3日喀痰を採取し,塗抹および培養検査を行う。3回の塗抹検査が陰性の場合に,塗抹および培養検査を行った日とは別の日に気管支鏡を用いた検査を行うことができる。また3回の塗抹染色と培養検査に加え,診断時に核酸増幅法を1回行うことができる。幼児や高齢者など喀痰の排出が困難な場合に誘導喀痰や胃液の検査をする。ただし胃液の採取は患者にとって負担であることからまず1回検査し,強く疑われる場合にのみさらに1回検査する。3.塗抹検査
(1)直接塗抹と集菌材料の塗抹
これまでわが国では,喀痰の一部を採取し直接スライドガラスに塗抹する方法を採用してきた。しかし患者材料の中に菌が均一に分布しているわけではなく,採取部位により得られる結果は異なる。検査の精度を保つために,均等化後遠心集菌材料を塗抹検査に供することを勧める。この種の前処理は欧米諸国では一般的であり1),新結核菌検査指針でも勧めている2)。ただし外来患者で検査の結果を急ぐ場合は直接塗抹で検査する。しかしこの場合も最終的には集菌材料から塗抹標本を作製し,結果の確認をする必要がある。(2)蛍光染色
抗酸菌の染色にZiehl-Neelsen(Z-N)法と蛍光法が用いられている。材料中に菌が少ない場合にZ-N法では見落しする場合がある。これに対し蛍光法では,暗い視野の中に結核菌がオレンジ色に光って見えるので見落としは少ない。またZ-N法では1,000倍拡大で観察するのに対し,蛍光法での観察は200倍拡大で行うので観察に要する時間も短縮できる。このような理由から本合同委員会は塗抹材料の染色法として蛍光法を勧める。ただし,蛍光法では糸屑などが光って見えることもあるので,1視野に1個あるいはそれ以下の場合はZ-N法で確認する必要がある。この場合,蛍光染色した標本をZ-N法で染色できることから,陽性個所をノートに記録しておくと確認は容易である。3)塗抹検査の結果の記録
わが国では塗抹検査の結果をガフキー号数で表していた。しかし標本中の菌数は材料の採取部位や塗抹の厚薄により変動するので,細かく分けても意味がない。また多くの場合数個ないし数十個の菌が固まってみられる。新結核菌検査指針ではガフキー号数での表示に代えて検出菌数を1+,2+,3+で表すことにした。このような表示は諸外国でも採用されている3)。結核定期外健康診断ガイドラインの中で感染危険度指数の算定にガフキー号数の使用が記載されているが,解説書4)にも記述されているように1+はガフキー2号,2+は5号,3+は9号と読み替えて算定に用いることで問題は起こらない。これまでガフキー1号と表示していた例は±(要再検)と記述し,同一の材料から塗抹標本を作り直すか,可能なら別の材料で再検査することとした。4.培養検査
(1)検査材料の前処理
目的は検査材料を消化均等化し,含まれる雑菌を殺し抗酸菌のみを選択的に培養することにある。そのためには検体に適した前処理法を選ぶことが重要である。非結核性抗酸菌,特にM.fortuitumやM.chelonaeなどの迅速発育菌は結核菌よりもアルカリに対する抵抗性が弱く,その前処理後のコロニー形成単位に減少が見られる。従って抗酸菌の分離に当たっては,粘液溶解剤を加えることにより,水酸化ナトリウムの濃度をできるだけ低く抑えることが重要である。本合同委員会は,前処理剤として粘液溶解剤であるN-アセチル-L-システイン(NALC)を用いたNALC-NaOH法 5)の使用を勧める。NALC-NaOH法は,前処理剤による消化均等化と遠心による集菌を組み合わせ,アルカリの影響を極端に少なくした方法であり諸外国でも用いられている1)。液体培地に接種する場合に均等化・集菌処理は必須であること,この方法で処理した材料を卵培地に接種した場合に検出率は高まることも報告されている6)-8)。NALC-NaOH処理検体は培養のみならず塗抹検査および核酸増幅法にも用いられる。(2)液体培地と卵培地
1993年に米国のCDCは結核菌の分離および鑑別・同定の結果を14日以内に,薬剤感受性試験の結果を30日以内に担当医に報告するよう勧告した9)。患者材料からの分離結果の報告までに要する時間の短縮は適切な治療を行ううえで重要である。わが国では,卵培地を使用していることから上の勧告を満足させることは不可能である。液体培地の有用性は多くが認めている。一方卵培地で分離できても,液体培地で分離できない抗酸菌が存在することも報告されている。新結核菌検査指針では,初回分離に液体培地と卵培地を1本ずつ用いることを勧めている。本合同委員会も液体培地の導入を強く勧める。しかし検査室の受容力や液体培地の価格の問題などがあり,3回の培養検査に液体培地と卵培地を1本ずつ用いることが不可能な病院もあろう。液体培地の導入に際し施設内で十分検討する必要がある。例えば,@液体と卵培地の両者を3日間,A2日を両者,1日を卵培地のみ,B2日を液体培地,1日を卵培地など。
卵培地での培養をやめ,液体培地のみを使用することを考えている施設もあると聞いている。しかし液体培地のみの培養では,菌数が測定できないために非結核性抗酸菌症の診断に不都合が生じること,結核菌と非結核性抗酸菌の両者が同時に分離されることがあり,その場合結核菌に対する薬剤感受性を誤ることなど問題が残る。それゆえ,3回の培養の中で少なくとも1回は卵培地などの固形培地を用いるべきである。
これまで入院患者の退院の時期は原則として塗抹検査と小川培地による培養検査の結果によって判定されており,問題は生じていないことから治療中の患者の培養検査にはこれまでどおり小川培地のみを用いる。ただし塗抹陽性が続いているにもかかわらず小川培地で結核菌が分離できない場合は液体培地による培養も加える。それは,薬剤耐性菌の中には液体培地で分離できても卵培地で発育し難い菌が存在するからである。5.核酸増幅法
米国食品医薬品局(FDA)は核酸増幅法の承認の際(1995年)に,塗抹陰性例の感度が低いことからその適用を塗抹陽性例に限定した。その後,試験検体量を増やした改良型MDTがGen-Probe社から発売され,米国を中心とした評価研究で塗抹陰性例でも高い感度と特異性(陰性一致率)を示したことから10),先のFDAは改良型MTDを塗抹陰性例からの結核菌の検出および結核症を否定するための検査にも拡大することを承認した。わが国では,日本結核病学会の予防・治療合同委員会から臨床での利用についての勧告文11)が出されているが,その使用法は病院によりまちまちであり,保険審査にも混乱が生じているのが現状である。本合同委員会は次のような使い方を勧める。(1)診断時の使い方
初回診断時の3日間の塗抹および培養検査に加え,核酸増幅法による検査を1回保険診療で行うことができる。喀痰塗抹陽性の場合,患者管理のうえで結核か非結核性抗酸菌症かを早急に鑑別する必要があり,検体の入手後1〜2日で結果が得られる核酸増幅法による検査は有効である。
検査の精度を確保するために,良質な検体が得られない場合は2日分または3日分を一緒に混ぜて検査することを勧める。(2)治療中のfollow-up
前記の予防・治療合同委員会勧告11)にも示されているように,核酸増幅法を治療中の患者の経過判定には使用しない。培地の項でも触れたように入院患者の退院時期は塗抹検査と小川培地による培養検査で判断されており,これまで問題は生じていない。(3)M.avium およびM.intracellulare 試験
結核菌が陰性の場合,多くの施設で塗抹陽性・塗抹陰性の別なく機械的にM.avium またはM.intracellulare 試験が行われている。しかし現在市販されているキットは定性検査であり,検体中の菌量を知ることはできないことから,非結核性抗酸菌症の診断基準12)13)との関連を考えたときに塗抹陰性検体への使用は留意すべきである。6.薬剤感受性試験
(1)小川培地を用いる比率法
日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会より提案された小川培地を用いる比率法14)は結核菌ならびにM.kansasii に対する感受性を知るための試験法であり,M.avium complex や迅速発育抗酸菌のための感受性試験法ではない。それゆえ,M.kansasii 以外の非結核性抗酸菌について小川培地を用いる薬剤感受性試験は行わない。(2)非結核性抗酸菌のための試験
現在液体培地を用いる試験法が研究されており,非結核性抗酸菌の感受性を知る有効な方法が開発された際には改めて検討する。[文献]
1)American Society for Microbiology (ASM):Section 3. Mycobacteriology. Clinical Micorobiology Procedures Handbook. ASM, Washington, D.C.,1994.
2)日本結核病学会抗酸菌検査法検討委員会:新結核菌検査指針.結核予防会,東京,2000.
3)Kent PT, Kubica GP:Public Health Mycobacteriology: A Guide for the Level V Laboratory. US Department of Health and Human Services, CDC, Atlanta, 1985.
4)厚生省保健医療局結核・感染症対策室:結核定期外健康診断ガイドラインとその解説.結核予防会,東京,1993.
5)Kubica GP, Dye E, Cohn ML et al.:Sputum digestion and decontamination with N-acetyl-L-cysteine-sodium hydroxide for culture of mycobacteria. Am Rev Respir. Dis. 1963;87:775-779.
6)阿部千代治,平野和重,和田雅子,他:酸化還元インジケーターを用いた抗酸菌迅速培養システムMB Redoxの評価.結核.1999;74:707-713.
7)斎藤肇,柏原嘉子,佐藤紘二,他:Mycobacteria Growth Indicator Tube (MGIT)による抗酸菌の迅速検出法.結核.1996;71:399-405.
8)斎藤肇,螺良英郎,山中正彰,他:MGIT(Mycobacteria Growth Indicator Tube)の評価に関する10施設での共同研究.臨床と微生物.1997;24:897-903.
9)Tenover FC, Crawford JT, Heubner RE, et al.:Guest Commentary. The resurgence of tuberculosis:is your laboratory ready? J Clin Microbiol. 1993;31:767-770.
10)Catanzaro A, Perry S, Clarridge Je, et al.:The role of clinical suspicion in evaluating a new diagnostic test for active tuberculosis. JAMA. 2000;283:639-645.
11)日本結核病学会予防・治療合同委員会:核酸増幅法による結核菌検査の臨床での利用について.結核.1995;70:711-712.
12)非定型抗酸菌症研究協議会:肺非定型抗酸菌症診断基準についての提案.結核.1976;51:61.
13)国立療養所非定型抗酸菌症共同研究班:非定型抗酸菌症(肺感染症)の診断基準.結核.1985;60:51.
14)日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会:結核菌の薬剤感受性試験,特に試験濃度改変と比率法導入への提案.結核.1997;72:597-598.
日本結核病学会 理事長 近藤有好 常務理事 長尾啓一 治療委員会 委員長 大泉耕太郎 副委員長 高本正祇 委 員 柏木秀雄,岸不盡彌,倉島篤行,重藤えり子,高嶋哲也,中西文雄, 長谷光雄,和田雅子 社会保険委員会 委員長 毛利昌史 副委員長 西村一孝 委 員 荒井秀夫,泉 三郎,鈴木清繁,種田和清,中島由槻,中富昌夫, 吉川公章 抗酸菌検査法検討委員会 委員長 阿部千代治 副委員長 河原 伸 委 員 飯沼由嗣,一山 智,大泉耕太郎,尾形英雄,鎌田有珠,古賀宏延, 斎藤 肇,鈴木克洋,本田芳宏,森 亨,和田光一(出典:結核.Vol.75, No.11: 681-684. 2000)
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