日本結核病学会予防委員会では2030年代の結核絶滅を達成することを目標に、1990年代の結核対策及び研究について提言を行った (平成2年10月,結核.1991;66:323-350)。その後、国では2000年までの結核罹患率半減を目指して新たな対策をすすめてきたが、この達成は困難な情勢にある。
このため上記の提言がどのように発展したかを検証し、あわせて21世紀の到来を目前に控えて新たな目標を掲げることとした。この報告書を作成するにあたり、多くの臨時委員にお願いすることとなった。本稿の執筆者には極く限られた期間に分担された各項をまとめていただきご労苦に深謝する。また、当委員会では前回の報告を追跡するため平成5年より検討を加え、当時の委員から原稿も頂戴し貴重なご意見や多大な示唆を与えていただきながら、集約できぬまま今日にいたった。当時の委員各位には感謝とお詫びの言葉を申し上げたい。
新しい時代に結核病学が益々発展し、国の内外の結核対策が進展する一助として今回の提言が活かされるように祈るとともに、今後は関係する他の委員会の支援もいただいて学会を挙げて結核研究と対策について定期的に見直しが行われることを期待する。T.緒言
1.世界の結核研究と対策の現況と展望・・・・・・・・・ 625(本誌頁)
(1)研究
(2)対策
2.日本の結核研究と対策の現況と展望・・・・・・・・・ 626
(1)近年の結核問題の動向
(2)今後の対策のあり方
(3)新しい対策技術の開発・普及
(4)結核治療の問題
(5)結核研究対策の人的資源についてU.診断
1.ツベルクリン反応検査・・・・・・・・・・・・・・・・ 627
(1)判定基準
(2)ブースター現象
(3)ツ反応の偽陽性
(4)ツベルクリン反応二段階試験
(5)結核感染と非定型抗酸菌感染、BCG接種による反応との鑑別
(6)ツ反応の偽の陰性
(7)今後のあり方
(8)研究課題
2.結核菌検査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 628
(1)塗抹検査
(2)分離培養検査
(3)同定検査
(4)核酸増幅検査
(5)核酸を用いた疫学検査
(6)薬剤感受性検査
(7)今後のあり方
(8)研究課題
3.画像検査・内視鏡検査・・・・・・・・・・・・・・・・ 631
(1)胸部X線検査・CT検査・MRI検査
(2)気管支鏡検査
(3)今後のあり方
(4)研究課題
4.その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 632
(1)免疫学診断等
(2)研究課題V.治療
1.結核症の治療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・632
(1)化療方式
(2)合併症を有する症例に対する治療
(3)多剤耐性結核
(4)今後のあり方
(5)研究課題
2.肺結核後遺症・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・635
(1)病態
(2)治療と予後,今後の展望
(3)今後のあり方
(4)研究課題
3.非定型抗酸菌症・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 636
(1)現況と研究の動向
(2)今後のあり方
(3)研究課題
4.結核病床のあり方・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 637
(1)近況と問題点
(2)今後のあり方W.予防対策
1.患者発見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 638
(1)定期健康診断(定期検診)
(2)接触者検診
(3)ハイリスク者検診
(4)今後のあり方
(5)研究課題
2.予防接種・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 640
(1)現行接種計画
(2)BCG接種の意義
(3)今後のBCG接種の方針
(4)今後のあり方
(5)研究課題
3.化学予防・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 644
(1)現行の基準と実施率
(2)化学予防の効果
(3)小児への適応の留意点
(4)学校検診におけるツ反強陽性者の扱い
(5)今後のあり方
(6)研究課題
4.感染防止・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 646
(1)環境上の感染防止(作業環境管理)
(2)個人の感染防止(作業管理)
(3)今後のあり方
(4)研究課題X.結核管理
1.発生動向調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 647
(1)結核蔓延の疫学指標
(2)結核発生動向調査システム(旧サーベイランスシステム)
(3)結核菌検索システムの改善
(4)集団感染リスクの分析
(5)結核対策の新たな評価指標の開発
(6)地域保健体制の整備
(7)研究・医療・行政機関の連携の推進
(8)今後のあり方
(9)研究課題
2.結核の集団発生と院内感染・・・・・・・・・・・・・・ 648
(1)結核集団発生の状況
(2)結核院内感染の状況と要因
(3)院内感染対策
(4)今後のあり方
(5)研究課題
3.保健所と結核診査協議会・・・・・・・・・・・・・・・ 649
(1)保健所の役割
(2)結核診査協議会
(3)今後のあり方
4.外国人結核と国際協力・・・・・・・・・・・・・・・・ 649
(1)外国人結核
(2)国際協力
(3)今後のあり方Y.教育と普及
1.結核教育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 650
(1)医科系大学での結核教育の現状
(2)医科系大学における日本結核病学会会員数
(3)結核病床の有無による教育の実態
(4)結核の卒後臨床研修
(5)他の医療従事者への教育
(6)結核教育資料の充実
(7)今後のあり方
2.普及啓発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 651
(1)普及啓発の必要性
(2)今後のあり方Z.まとめと提言
1.緊急に行うべき結核対策・・・・・・・・・・・・・・ 651
2.今後推進すべき研究課題・・・・・・・・・・・・・・ 652
(1)診断
(2)治療
(3)予防
(4)健康診断
(5)教育・研究体制
T.緒言
1.世界の結核研究と対策の現況と展望
(1)研究
米国CDC(国立防疫センター)が「米国結核早期根絶戦略」(1989年)を発表した前後から、結核に関する基礎分野を中心とした研究が再び盛んになったことは、この間の関連文献刊行件数の推移を見れば明らかである。関連の学術集会や教科書の出版の増加も目立っている。基礎研究に関しては1998年に報告された結核菌全ゲノム配列の決定はこうした努力の偉大な一里塚であろう。現在行われている研究の動向を、対策のための新しい技術の開発という観点から、診断、治療、ワクチン、対策研究の分野に分けて概観する。
1) 診断
従来法(塗抹・培養)検査にかわって、感度・迅速性・安全性においてさらに優れた方法を開発し、さらに、菌陰性の結核、小児結核、HIV感染結核、肺外結核などを正確に診断するためのニーズはまだ大きい。現在進められている研究は、生菌の検出、特異抗体、特異抗原といった方向で行われている。前者についてはもちろん遺伝子操作も含まれる。また従来の固形培地を用いる培養検査に代わって、液体培地を用い菌の生育を早期に検知する系を工夫する一連の開発が成果を収めている。また遺伝子操作による薬剤感受性検査なども実用化が近い。結核菌DNAのRFLP分析による感染経路の解明や結核菌系統発生の解明なども盛んに行われている。
血清診断では抗酸菌抗原の多彩さ、環境中抗酸菌との交叉反応が問題になる。ごく最近インターフェロンγ分泌能を測定する方式が開発されるなど、ツベルクリン反応によらない特異的細胞免疫を観察する方法もでてきた。
2) 治療
今のところ最後に開発され実用化された抗結核薬はリファンピシン(1972年)であり、これがDOTS(Directly Observed Treatment, Short-course:直接監視下の短期化学療法)を可能にした。しかしその間、毒性、長い治療期間、多剤耐性問題などの克服のニーズが浮上した。これはHIV感染結核の蔓延によってより緊急の課題となった。
現在用いられている開発の技法としては、@既存薬の改良、A広域スペクトル薬剤の応用、B全くの新種薬剤の発見といったものがある。最近の結核菌ゲノム分析の完成は、薬剤開発の標的を明確にする可能性があり、開発研究にとって大きな意義がある。
現在開発中の薬剤には以下の様なものがある。リファンピシン誘導体(リファペンチン、リファブチン、KRM-1648)、オクサゾリジオン類、TOBI(吸入用トブラマイシン液)、ニトロイミダゾピラン(PA-824、PA-1343)、INH類似体、ピラジナミド誘導体、アミノグリコシド系薬剤(アミノシジン)、ベータラクタム・ラクタマーゼ抑制剤、クロファジミン、パロモマイシン等々で、これらの一部は臨床試験に入っているものもある。
ただし、抗結核薬の開発は効果の判定に時間がかかること、長期使用のために毒性が問題になりやすいこと、市場が限られることなどのため、製薬産業にとって決して魅力的な分野ではない。これを支え、鼓舞すべく治療研究はこれまでも公的セクターが一定の役割を果たしてきた(例.国際的には英国医学研究協議会BMRCが、また米国では退役軍人局VAや米国公衆衛生部USPHSなどのように)。最近久しぶりに米国CDCが公私結核治験共同体TB Treatment Consortium (TBTC)を確立した。またIUATLD(国際結核肺疾患予防連合、結核予防の民間団体の国際組織)が臨床試験プログラム(Clinical Trials Programme)を結成し、研究の対象施設、研究参加者および資金の面で国際的な協力が行われている。
ほかに薬物療法では他にリポゾームを用いた伝達系の改善、ワクチン療法、インターフェロンや他のサイトカインを用いた細胞免疫療法や、化学予防をより強力・短期化し、実施容易なものにする研究も行われている。
3) ワクチン開発
現在のBCGワクチンに代わるものとして、以下のような方向でのワクチンの開発が行われている。@改良型BCG(サイトカインを高濃度に産生する遺伝子をBCGのDNAに組み込む、また栄養要求変異種auxotrophic mutantの追求など)、A結核菌群の弱毒株の誘導(遺伝子工学的な操作で誘導する試みや、非病原性の細菌を抗原産生遺伝子の運搬体として用いることも試みられている)、B非病原性環境内抗酸菌の使用(M.vaccae、M.microti、M.habanaなど)、C成分ワクチン(結核菌の培養濾液中の蛋白成分、非分泌型蛋白抗原、細胞壁の脂質や炭水化物など)、DDNAワクチン(抗原をコードしているDNAを生体内に封入)。今のところは理論的可能性ないし動物実験の段階であり、実用化まではまだ時間がかかるであろう。
4) 対策研究
最近における結核対策の実践研究の多くは、DOTS研究(各地の状況に適合したDOTSの実施方法の開発とその評価)としてみることもできる。コホート分析を用いたDOTS戦略の治療成績の報告は中国をはじめとしてほうぼうから報告されている。またその成功・失敗に影響する要因の社会人類学的分析などが盛んに行われている。DOTS戦略の他の要素として菌検査の精度管理、これに関連して多剤耐性のサ−ベイランスについても研究が刺激されている。またHIV感染結核の治療・管理の研究も地域や集団の条件に応じた戦略的研究が行われている。
(2)対策
以前からの途上国での相変わらず改善しない高蔓延、1980年代からの先進諸国での改善の停滞、逆転上昇、さらに局所的には80年代後半以降のHIV流行による状況の混迷などを受けて、世界的に結核問題の深刻さの認識が深まり、「再興感染症」の一つとしてようやく対策のための正当な位置づけが途上国でも、米国はじめ先進国でも、それぞれなされるようになっている。これにはWHO(世界保健機構)、IUATLD、および米国CDCの努力によるところが大きい。WHOはIUATLDがアフリカ等で始めた直接監視下の短期化学療法を核とした治療・管理の方式をDOTSとしてパッケージ化し、これを世界銀行や援助国(団体)と組んで途上国へ、さらには先進国にまで普及させる努力を効果的に行っている。そしてこれがもう少し普及すれば、近い将来地球上の結核が初めて下降に移ることも可能というところに来ている。ただしHIV感染結核の問題は各国の努力にもかかわらず、依然として出口の見えない厳しい問題として留まっている。また「保健セクター改革」(注:非効率な政府による保健サ−ビスを効率的なものにするために、地方分権や個別の疾病対策の包括化、受益者負担の導入などをとりいれた制度の改革で、目下WHOや世界銀行の主導のもとに途上国の大きな共通課題となっている)が国によってはDOTS戦略に深刻な影響を与えており、問題になっている。
一方、先進国では米国のように貧困者の結核問題が深刻な地域では強力な治療管理方式DOT(Directly observed therapy:直接監視下の治療)が展開され、成功を収めつつある。しかし途上国との人口移動、旧社会主義諸国からの移民などによって西欧先進国の結核の状況は改善が停滞しており、新たな対応の努力が必要になっており、ヨーロッパ全体の共同予防体制が検討されている。2.日本の結核問題と対策の現況と展望
(1)近年の結核問題の動向
わが国の結核は戦後1950年頃から順調に減少を続けていたが、1980年頃より罹患率の減少速度が鈍化し、対前年比11%から3%の減少にとどまるようになった。その原因の一つとして、人口の急激な高齢化が指摘されている。罹患率の減少速度の鈍化は高齢者よりも若年者で著しく、また感染源として重要な塗抹陽性肺結核の罹患率はこの10年程、微増傾向にある。そして1997年には38年ぶりに前年に比較して新登録患者数が上昇し、また43年ぶりに罹患率も上昇した。結核は減少速度が鈍化しているどころか、増加に転じたのである。1991年に公衆衛生審議会から西暦2030年代の結核根絶を最終目標として2000年までに、@結核罹患率を人口10万対20以下とすること、A小児結核を根絶すること、という具体的目標が示された。しかし罹患率が減少するどころか増加している現状から判断すると、2000年までの具体的目標の達成は不可能と思われる。
(2)今後の対策のあり方
結核低蔓延時代の中で、結核発病はますますハイリスクグル−プに集中する傾向がある。糖尿病患者や副腎皮質ホルモン服用者などの免疫抑制宿主からの結核発生が重要性を増していることに鑑み、このような問題のため結核を発病しやすい者に対する化学予防の実施が必要である。また東京や大阪など大都市特定地域における社会経済的弱者の高い罹患率の問題がある。このような地域には重症例、治療拒否や治療中断による再発例、多剤耐性例などが多く、患者本人の生命予後と同時に周囲への感染の危険性も危惧される。これに対して、地域を指定し、直接監視下の化学療法(DOT)を導入することが有効と考えられ、実施に向けて検討が行われている。
また、ひろく社会経済弱者に患者発生が集中するなかで、これらの人々への検診や患者管理のあり方についても従来にもました行政の努力が必要になっている。
最近、結核の院内感染が多数報道されている。これは結核専門施設においてよりもむしろ一般病院や精神病院での発生が目立っている。しかも結核院内感染の多くは初発患者の発見の遅れが関係しているといわれている。このような問題に対して医療関係者の注意を喚起すべく、本学会予防委員会では1995年に声明「医療関係者の結核予防対策について」を、続いて1998年に声明「結核の院内感染対策について」を発表した。
また事業所等で、若年者のみならず中・高年集団での集団感染結核の報告もなされるようになった。その中で1998年に報告されたある特別養護老人ホームの入居者にみられた集団結核が注目を集めた。既感染者が多い高齢者においても、条件によっては外来性再感染を起こす危険性を否定できないことが示唆され、今後の集団感染対策上、留意すべき点であると考えられる。
わが国では報告のなかった多剤耐性結核菌による集団感染事件も1997年に発生した。従来毒力が弱いとする見方が強かった多剤耐性結核菌(とくにINH高度耐性菌)による集団的な感染・発病が起こりうることが示されたわけで、多剤耐性結核患者の管理に対する注意が改めて喚起されている。
(3)新しい対策技術の開発・普及
分子生物学の目覚ましい進歩を受け、抗酸菌検査法の進歩にも目を見はるものがある。核酸増幅法のいくつかが健康保険適応となり、一般検査法として普及している。その他のいくつかの方法が近い将来導入され、普及するようになるものと思われる。しかし従来の方法も含めてこれらの技術の使い分けが確立されておらず、さらにこれらの技術の正しい評価や精度管理も不十分な点がある。このような点については、新しい技術をさらに定着し、普及させるためにも、今後いっそう十分な配慮が払われなければならない。
(4)結核治療の問題
治療薬に関してはカプレオマイシンが製造中止となり使用不可能となった。エチオナミド、サイクロセリンについても供給の継続が危ぶまれている。一方、リファンピシンに続くと期待される新抗結核薬の導入については、一部に抗結核作用が国際的にも認められている既存の薬剤が健康保険や結核予防法で適用になっていないこと、これらも含めてわが国では現在のところ抗結核薬としての臨床治験の段階に達しているものはないことなど、見通しが明るいとは言い難い。
一方、薬剤耐性や副作用などから既存の主要薬剤に代わる薬剤の開発への需要は大きい。これらに関しては薬剤開発に関する学会や政府の指導性が問われる一方、治験を含めて開発に対する国際的な協調や協力が必要になるであろう。
また、若年の医療従事者が多剤耐性菌により死亡したことより、多剤耐性結核への対策が注目を集めている。多剤耐性結核は不良な治療成績や感染性の問題からして、その治療法および対策について、結核病学会としての統一した見解が是非必要である。またこのような問題に対処するために、1998年に公衆衛生審議会結核予防部会が提言しているように、多剤耐性結核専門施設の設置およびそれを核とする結核医療のネットワークの確立・運営も進められるべきである。
(5)結核研究・対策の人的資源について
戦後のわが国の結核医療・対策を担ってきた世代の専門家が定年を迎え、多くが結核医療の第一線から引退している。一方では、戦後生まれの専門家の活躍もやっと目覚ましくなりつつあるが、その絶対数は少なく、結核の臨床家、研究者の確保は急を要する。また医育機関における卒業前教育、大学病院等における臨床研修においても結核に関する教育は満足できる状況とは思われない。診断の遅れをなくすためにも、早急の改善が求められている。
U.診 断
1.ツベルクリン反応検査
ツベルクリン反応検査(以下ツ反応)は結核に感染したか否かの診断、あるいは過去のBCG接種が適切に行われたか否かを評価する目的で行われる。日本では広範なBCG接種の普及のために、結核に感染していなくても陽性となり得るし、さらにブースター現象や一部は非特異反応などのためにツ反応の解釈は複雑である。
今後ツ反応は乳幼児、児童集団のみならず、成人を含めた患者接触者、職業上感染に暴露されるものに対する結核感染を診断する目的での利用の需要が大きくなるので、正しい検査手技と合理的な解釈がますます求められている。
(1)判定基準
判定基準は発赤長径5〜9mm を疑陽性としていたが、現在のように結核感染率の低い状態では9mm 以下はほぼ未感染と考えられるので、1995年に疑陽性を廃止して、発赤長径9mm以下を陰性、10mm以上を陽性と改めた。これは乳幼児のツ反応において非特異反応(疑陽性)によりBCG接種が受けられないケースを回避するために妥当な基準改訂であった。
判定は、国際的には注射後72時間での硬結による判定が行われているが、わが国の現状では現行の48時間後の発赤長径による方法を正確に行うことに努めるべきであろう。
ツ反応は若年者のみならず中高年者に実施されることも考えられるので、BCG既接種者のツ反応成績の正しい解釈の基礎となる考え方を普及させる必要がある。
(2)ブースター現象
BCG接種を受けると、ツ反応は接種後数か月から1年が最も強くなり、その後は次第に減弱していく1)〜3)。ツベルクリン・アレルギーが減弱してからツ反応を行うと、これが刺激となってツベルクリンに対する反応性の回復(免疫記憶の増強)が起こる(発赤径が増大する)4)が、これがブースター現象、回復効果5)である。ブースター現象はBCG接種後のツ反応にだけでなく、ときには結核感染後長年を経た場合や、非定型抗酸菌感染でも起こるという考えもある。したがってBCG既接種に繰り返しツ反応を行う場合、後に行った検査の成績の解釈は慎重になされなければならない。とくに接触者検診でツ反応を繰り返し行う場合や、医療関係者で患者接触後のツ反応などに際してである。
(3)ツ反応の偽陽性
BCG未接種集団に対してツ反応を現行の一般診断用PPDを用いて行う場合、通常の判定基準によればその感度は98%、特異度は99%である6)。一般に既感染率が高い集団では、このようなツ反応での陽性者のほとんどが正しく既感染者である。逆に最近の日本における乳幼児のように、既感染率が極端に低い集団では、陽性者中に既感染者が含まれる割合は極めて低い(陽性的中率は低い)7)。このためこのツ反応結果によってBCG初接種の機会が奪われないように、また誤って化学予防が指示されないように注意がなされなければならない。このためにはこれまで行ってきたように問診による感染暴露の有無の確認、暴露のない者に対しては30mm以上を既感染と判断するといった「二重基準」の適用を行ってきた。今後はこれに別の検査法を行うなどの精緻化なども望まれる。
(4)ツベルクリン反応二段階試験8)
ツベルクリン反応二段階試験(以下ツ反応二段階試験)では経時的にツ反応検査を受ける者において反応の増強がみられた場合、これが新たな結核感染によるものか、ブースター現象によるものかを判別するために、あらかじめ行っておく検査の手順である。ツ反応二段階試験はハイリスクグループに用いることが勧められる9)。すなわち@医療関係者の雇い入れ時検診、およびA高齢者の老人保健・福祉施設の入所時の検診などである。
(5)結核感染と非定型抗酸菌感染、BCG接種による反応との鑑別
非定型抗酸菌感染との鑑別では、これまで非定型抗酸菌由来の抗原を用いる試みが行われたがあまり成功していない。続いてMPB64のような特異性の高い抗原を追求する方向での開発が進められている10)。
特異的な抗原でリンパ球を刺激して放出されるサイトカインを定量するような、インビトロの方法も試みられており、期待がもたれている11)。
(6)ツ反応の偽の陰性
ツ反応が一時的に弱められたり、陰性となる原因は多く、たとえば重症あるいは急激に進展する時期の結核(粟粒結核、胸膜炎など)、ある種のウイルス感染症、悪液質・低栄養、人工透析、免疫抑制剤・副腎皮質ホルモン剤・制癌剤使用中7)などである。そのような要因の中でHIV感染/エイズはもっとも強いツ反応抑制作用を示す。
(7)今後のあり方
@ツ反応の正しい技術を啓発し普及に努める。
Aツ反応の判定、結果に対する事後措置の教育・普及に努める。
Bツ反応二段階試験の普及を図る。
(8)研究課題
@BCG既接種者でのツ反応判定基準を作成する。
A結核感染、非定型抗酸菌感染、BCG接種による反応の鑑別ができる検査の開発。
B乳幼児に皮内注射法と異なるツ反応の実施方法の開発を行う。
Cツ反応に代わる結核感染診断方法を開発する。[文 献]
1) 徳地清六,森亨:BCG接種後のツベルクリン過敏性の推移と繰り返しツ反応の影響.結核.1983;58:395−400.
2) Narain R, Vallishayee RS: Post-vaccination allergy after three intervals of time. Preliminary report, Bull Int Union against Tuberc. 1976; 51:231.
3) Olakowski T, Mardon K: The restorative influence of repeated tuberculin testing on tuberculin sensitivity in BCG-vaccinated school children. Bull WHO. 1971; 45:649.
4) Magnus K, Edwards LB: The effect of repeated tuberculin testing on post-vaccination allergy. Lancet. 1955; 2: 643-644.
5) Guld J, et al: The duration of BCG-induced tuberculin sensitivity in children, and its irrelevance for revaccination. Bull WHO 1968; 39: 829.
6) Huebner RE, Schein MF, Bass JB Jr.: The tuberculin skin test. Clin Infect Dis. 1993; 17: 968-975.
7) 森 亨:ツベルクリン反応検査(JATA BOOKS No7).(財)結核予防会, 1995.
8) American Thoracic Society, Medical Section of the American lung association: Control of tuberculosis in the United States. Am Rev Respir Dis. 1992; 146: 1623-1633.
9) 日本結核病学会予防委員会:結核の院内感染対策について.結核. 1998; 73: 95−100.
10) Nakamura RM, Velmonte LA, Kawajiri K, et al.: MPB64 Mycobacterial antigen: A new skin-test reagent through patch method for rapid diagnosis of active tuberculosis. Int J Tuberc Lung Dis. 1998; 2: 541-546.
11) Streeton JA, Desem N, Jones SL: Sensitivity and specificity of a gamma interferon blood test for tuberculosis infection. Int J Tuberc Lung Dis. 1998; 2: 443-450.
2.結核菌検査
近年、微量の起炎菌からでもその微生物に特異的な遺伝子を即座に増やして検出する、いわゆる遺伝子診断、あるいはDNA診断の分野が開拓され、結核菌にも応用されるようになった。これによって従来の塗抹法、培養法とともに結核菌の検査は非常に多彩な様相を示してきた。
(1)塗抹検査1)2)
塗抹染色法は感度は培養法に劣るが、簡便かつ短時間のうちに判定ができ、治療により活性が低下あるいは死滅した菌でも検出可能である。塗抹法により排菌の有無や程度を知ることは治療効果を判定するばかりでなく、疫学的な感染力の判断にも有用である。
Ziehl-Neelsen法、Kinyoun法、蛍光法などが代表的な染色法である。蛍光法は発光した菌体を広い視野から短時間で鏡検できるため、感度の向上が期待される。したがって蛍光法を塗抹検査のスクリーニングとして位置付け、疑わしい検体はZiehl-Neelsen法で最終確認する方法が広く普及している。ただし、蛍光法の欠点として、非特異的な発光体を菌と誤認することや、高価な装置と光源の維持費を要することなどがある。
塗抹法の成績判定は視野中に存在する菌数により、0から10までの11段階のガフキー号数で表現する方法が慣用されている。しかし、標本中の菌数は採取部位や塗抹の厚薄などによっても変動するものであり、細かく分類してもあまり意味がない。諸外国では陰性、少数、中等数、多数といった大まかな分け方を用いているところが多い。
塗抹染色の所見としては単に菌数のみならず、菌の染色性、形態(桿菌状、球菌状、顆粒状など)、単在か集塊か、なども記録しておくことが望まれる。
(2)分離培養検査1)2)
分離培養検査は塗抹法よりも感度の高い菌の検出方法として、また菌種の判定や薬剤感受性のためにも欠かせない検査法である。培地の選択は重要な問題で、結核菌をいかに迅速に発育させて同定できるかは今後とも重要な課題である。培地の種類としては、卵ベースの培地(Lowenstein-Jensen培地、小川培地)、寒天ベースの培地(Middlebrook-Cohn 7H10、7H11)、液体培地(Sauton培地、Kirchner培地、Dubos培地、Middlebrook 7H9培地)がある。いずれにも一長一短があるが、わが国の現状では卵培地を主軸とし、必要に応じて液体培地や寒天培地を併せ用いている。
近年開発された迅速培養システムとしては、BACTEC 460 TB System(TM)、セプティチェックAFB(TM)3)、Mycobacteria Growth Indicator Tube(MGIT(TM))4)など5)6)液体培地を用いた方式がある。ただし、アメリカをはじめとした諸外国で導入されているBACTEC 460 TB System(TM)は、放射性同位元素を用いるためわが国では認可されていない。
(3)同定検査
エイズにみられるように抗酸菌感染症の病態の多様化に伴い適切な早期治療のために、迅速な同定手段の開発が望まれている。従来は、菌の生理学的、生化学的特性に基づいて行われていたが、最近は分子生物学的な方法が商品化され(DDH(TM)8)9)、AccuProbe(TM)7)など)、比較的容易に行えるようになった。しかし分離株の中には必ずしも定型的性状のパターンを示さず、同定不能あるいは誤同定をする場合もあるので注意が必要である。
(4)核酸増幅検査
前項のような核酸による同定法は最低でも10(5)〜10(6)個の菌数を要する。したがって十分な増殖期間が必要であり、臨床検体のように少数の抗酸菌しか含まない材料から菌を検出同定するのは困難である。そこで、抗酸菌に特異的な遺伝子の一部を人工的に増幅して検出する方法、いわゆる遺伝子診断あるいはDNA診断法が開発された。技術的にはDNAを増幅する方法(アンプリコア(TM)10)11)、LCR MTB(TM)12)と、RNAを増幅する方法(MTD(TM))13)14))の大きく2つに分けられ、それぞれに一長一短がある。これには短時間で結核菌を検出同定できる画期的な方法として、現在急速に普及している。
核酸増幅法による結核菌の検出に際しては、従来法との比較において常に偽陽性や偽陰性の問題が生じ得る。検査室側としては核酸増幅法の精度管理には細心の注意を払うとともに、検体を提出する側は常に臨床所見との対比において、適切な検体を提出するように心がけるべきである。現時点では核酸増幅法は結核症の初診や再発などの診断時に施行すべきであり、治療経過判定や結核症の疑いが低い症例には極力用いるべきではないと思われる15)16)。
(5)核酸を用いた疫学検査
ある菌株が他のものと同一株由来かどうかを判定する場合には、従来は生化学的性状や薬剤感受性パターンから菌株の同一性を推測していたが、これを遺伝子レベルで詳細に確認する方法が開発された。すなわち制限酵素断片長多型性(Restriction fragment length polymorphism、RFLP)分析である。この方法を用いることにより、結核の集団発生事例などにおける感染源の特定が可能となり、確実な証拠に基づく対応を、確信を持って進めることが可能になった17)。
(6)薬剤感受性検査
通常は薬剤を含有した小川培地に菌を接種して、3〜4週後にコロニーの有無で判定するが、従来の日本結核病学会で設定された耐性基準は、米国での方法(NCCLSによるproportion method)や液体培地を用いた時の耐性基準との間に不一致がみられたが、本学会は国際的な基準を勧告している。培養法による薬剤感受性検査には長期間を要するため、実際の臨床の場ではその結果を待たずに治療を開始することが常である。しかし、もし患者が耐性菌感染であれば無効な薬剤がこの期間中に投与されたことになり、臨床的にも経済的にも負担は大きい。また接種菌量のばらつきから、成績のばらつきも多い。
この検査を少しでも迅速に行うために、やはり分子生物学的な技術の応用が試みられている。近年、薬剤耐性と関連した遺伝子の変異が詳細に解明されるようになり、PCRなどで変異の有無を検出して、耐性菌を迅速に判定する方法が可能になりつつある18)〜32)。
(7)今後のあり方
@塗抹検査を自動化したり、記載方法を簡略化する。
A液体培地の積極的導入を図る。
B遺伝子診断の普及と、その適応検体や施行時期を明確化する。
C薬剤耐性遺伝子の解明と、その臨床応用に向けたデータの蓄積を行う。
(8)研究課題
@自動塗抹分析器の開発
A迅速培養技術の開発
B多菌種に対する核酸同定技術の開発
C感度と特異性の高い遺伝子診断法の開発
DRFLP分析の自動化
E耐性遺伝子分析の自動化[文 献]
1) 阿部千代治:抗酸菌の検出."抗酸菌の検査"阿部千代治著, 財団法人結核予防会, 東京(1993), 11-33.
2) 斎藤肇:検出法・分離培養法."抗酸菌検査法"臨床抗酸菌研究会編集, 医歯薬出版株式会社, 東京(1997), 7-23.
3) Abe C, Hosojima S, Fukasawa Y, et al.: Comparison of MB-Check, BACTEC, and egg-based media for recovery of mycobacteria. J Clin Microbiol. 1992; 30: 878-881.
4) Palaci M, Ueki SY, Sato DN, et al.: Evaluation of Mycobacteria Growth Indicator Tube for recovery and drug susceptibility testing of Mycobacterium tuberculosis isolates from respiratory specimens. J Clin Microbiol. 1996; 34: 762-764.
5) Thorpe TC, Wilson ML, Tumer JE, et al.: Bac T/Alert: an automated colorimetric microbial detection system. J Clin Microbiol. 1990; 28: 1608-1612.
6) Hom J : Redox systems as bacterial growth indicators. Biotest Bulletin. 1995; 5: 181-186.
7) AccuProbe(TM) Culture Identification Test. Gen-Probe Inc., San Diego (1991).
8) DDH マイコバクテリア'極東'マニュアル.極東製薬工業株式会社, 東京(1994).
9) 江崎孝行、堀寛、阿部千代治、他:細菌の新しい系統分類と同定方法.日本細菌学雑誌.1994; 49: 793-857.
10) アンプリコア(TM)マイコバクテリウ マニュアル. 日本ロシュ, 東京(1994).
11) 青木正和、片山透、山岸文雄、他:PCR 法を利用した抗酸菌 DNA 検出キット(アンプリコア(TM) マイコバクテリウム)による臨床検体からの抗酸菌迅速検出. 結核. 1994; 69: 593-605.
12) 古賀宏延、河野茂、朝野和典、他:Ligase Chain Reaction (LCR) 法を用いた結核菌群DNA 検出試薬の臨床的検討.感染症誌.1997; 71: 1246-1251.
13) DNA プローブ「中外」- MTDマニュアル.中外製薬株式会社, 東京(1996).
14) 青柳昭雄、豊田丈夫、大角光彦、他:核酸(rRNA) 増幅を応用した結核菌直接検査法(Gen-Probe ; MTD) の臨床的検討―小川培地と液体培地(MB チェック) との比較を中心として―.結核.1994; 69: 7-14.
15) 日本結核病学会予防・治療合同委員会:核酸増幅法による結核菌検査の臨床での利用について.結核.1995; 70: 711-712.
16) American Thoracic Society Workshop: Rapid diagnostic tests for tuberculosis. Am J Respir Crit Care Med. 1997; 155: 1804-1814.
17) Takahashi M, Kazumi Y, Fukasawa Y, et al. : Restriction fragment length polymorphism analysis of epidemiologically related Mycobacterium tuberculosis isolates. Microbiol Immunol. 1993; 37: 289-294.
18) Zhang Y, Heym B, Allen B, et al.: The catalase-peroxidase gene and isoniazid resistance of Mycobacterium tuberculosis. Nature. 1992; 358: 591-593.
19) Banerjee A, Dubnau E, Quemard A, et al.: inhA, a gene encoding a target for isoniazid and ethionamide in Mycobacterium tuberculosis. Science. 1994; 263: 227-230.
20) Telenti A, Imboden P, Marchesi F, et al.: Direct, automated detection of rifampin-resistant Mycobacterium tuberculosis by polymerase chain reaction and single-strand conformation polymorphism analysis. Antimicrob Agents Chemother. 1993; 37: 2054-2058.
21) White MB, Carvalho M, Derse D, et al.: Detecting single base substitutions as heteroduplex polymorphisms. Genomics. 1992; 12: 301-306.
22) 大野秀明、古賀宏延、河野茂、他:PCR法を用いたRifampicin耐性結核菌の迅速検出法に関する検討.結核.1994; 69: 773-778.
23) Ohno H, Koga H, Kohno S, et al.: Relationship between rifampin MICs for and rpoB mutations of Mycobacterium tuberculosis strains isolated in Japan. Antimicrob Agents Chemother. 1996; 40: 1053-1056.
24) Ohno H, Koga H, Kuroita T, et al.: Rapid prediction of rifampin susceptibility of Mycobacterium tuberculosis. Am J Respir Crit Care Med. 1997; 155: 2057-2063.
25) Meier A, Kirschner P, Bange FC, et al.: Genetic alterations in streptomycin-resistant Mycobacterium tuberculosis: Mapping of mutations conferring resistance. Antimicrob Agents Chemother. 1994; 38: 228-233.
26) 福田美穂、古賀宏延、大野秀明、他:結核菌のrpsL遺伝子内変異とストレプトマイシン感受性の検討.結核.1997; 72: 507-513.
27) Fukuda M, Koga H, Ohno H, et al.: Relationship between genetic alteration of the rpsL gene and streptomycin susceptibility of Mycobacterium tuberculosis in Japan. J Antimicrob Chemother. 1999; 43: 281-284.
28) Honore N, Marchal G, Cole ST.: Novel mutation in 16SrRNA associated with streptomycin dependence in Mycobacterium tuberculosis. Antimicrob Agents Chemother. 1995; 39: 769-770.
29) Meier A, Sander P, Schaper KJ, et al.: Correlation of molecular resistance mechanisms and phenotypic resistance levels in streptomycin-resistant Mycobacterium tuberculosis. Antimicrob Agents Chemother. 1996; 40: 2452-2454.
30) Cooksey RC, Morlock GP, McQueen A, et al.: Characterization of streptomycin resistance mechanisms among Mycobacterium tuberculosis isolates from patients in New York City. Antimicrob Agents Chemother. 1996; 40: 1186-1188.
31) Heym B, Honore N, Truffot-Pernot C, et al.: Implications of multidrug resistance for the future of short-course chemotherapy of tuberculosis: a molecular study. Lancet. 1994; 344: 293-298.
32) Morris S, Bai GH, Suffys P, et al.: Molecular mechanisms of multiple drug resistance in clinical isolates of Mycobacterium tuberculosis. J Infect Dis. 1995; 171: 954-960.
3.画像検査・内視鏡検査
(1)胸部X線検査、CT検査、MRI検査
肺結核症は多彩なX線所見を呈する疾患であり、他疾患との鑑別、活動性の有無の判定などが常に問題となる。伝統的に用いられてきたX線平面撮影に比して、最近普及が目覚ましいCT検査、とくに高分解能CT(HRCT)では、一層微細な構造・病変まで描出することができる。胸部MRIは、肺野腫瘤病変の鑑別、膿胸と胸膜腫瘍の鑑別、空洞壁の腫瘤の鑑別などに有用性がある。造影MRIはとくに肺癌と結核腫の鑑別に有用である。CR検査はその判定の即時性、画像処理の柔軟性に特色があり、今後の応用範囲の拡大が検討されている。
(2)気管支鏡検査
気管支鏡を用いた採痰、ブラッシング、TBLB、気管支肺胞洗浄液(BAL)による肺結核症の診断は、臨床的にも有用であることが従来より報告されている1)-4)。しかし、本法で菌陽性となった場合の扱いとして、以下の点に留意するよう日本結核病学会予防委員会は勧告している5)。つまり、気管支鏡が抗酸菌で汚染されている可能性の検討、検出菌が結核菌か非結核抗酸菌かの正確な同定、活動性結核の診断は他の臨床所見を加味して決定する、喀痰塗抹陽性でなければ感染源としての扱いはしない、などである。また、近年では胸膜疾患に対し、とくに癌性胸膜炎と結核性胸膜炎の鑑別に胸腔鏡や気管支鏡を用いた胸腔鏡下胸膜生検法が普及しつつある6)。
(3)今後のあり方
@各種画像検査方法の質的診断価値の評価を進める。
A本委員会声明「気管支内視鏡検査による排菌陽性例の扱いについて」の考え方の普及・徹底を図る。
(4)研究課題
@CTやMRIの解析能力の向上を図る。
A非侵襲的な内視鏡検査を開発する。[文 献]
1) Willcox PA, Potgieter PD, Bateman ED, et al.: Rapid diagnosis of sputum negative miliary tuberculosis using the flexible fiberoptic bronchoscope. Thorax. 1986; 41: 681-684.
2) Jimenez ML, Aspa J, Padilla B, et al.: Fiberoptic bronchoscopic diagnosis of pulmonary disease in 151 HIV-infected patients with pneumonitis. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1991; 10: 491-496.
3) Levy H: Comparison of Ballard catheter bronchoalveolar lavage with bronchoscopic bronchoalveolar lavage. Chest. 1994; 106: 1753-1756.
4) Vander Els NJ, Stover DE: Approach to the patient with pulmonary disease. Clin Chest Med. 1996; 17: 767-785.
5) 日本結核病学会予防委員会:気管支内視鏡検査による排菌例の扱いについて.結核.1994; 69: 535-536.
6) Emad A, Rezaian GR : Diagnostic value of closed percutaneous pleural biopsy vs pleuroscopy in suspected malignant pleural effusion or tuberculous pleurisy in a region with a high incidence of tuberculosis: a comparative, age-dependent study. Respir Med. 1998; 92: 488-492.
4.その他
(1)免疫学診断等
結核症の診断に患者血清中の抗体を種々の抗原を用いてELISAで測定する方法がいくつか開発されている。そのなかで日本で実用に近いのが、コード・ファクター画分(Tubercle bacilli glycolipids)を抗原として血清IgGを測定するもの(デタミナーTBGL(TM))1)、および抗酸菌由来のLipoarabinomannan を抗原とするもの(マイコドット(TM))2)などである。これらはそれだけでX線所見や菌所見を代替するほど特異度、感度が優れているわけではないが、それらを補完する上での有用性はあるものと考えられる。その他、結核性胸膜炎の診断にADA定量などが既に広く用いられているが、最近ではインターロイキン6、可溶性インターロイキン2レセプター、マトリックス・メタプロテアーゼの研究も行われている3)。
なお「1.ツベルクリン反応検査」の章で述べたように、結核感染の診断についてはPPDに代わる特異抗原4)、およびサイトカインを指標とする方法が開発されているが、同様の方法が結核症の診断のために開発される可能性もある。
(2)研究課題
@各種血清診断法の有用性に関する研究を進める。
A結核症の病態、臨床経過と免疫学的指標の関連を追求する。[文 献]
1) 和田雅子、阿部千代治、河野弘明、他:TBGLによる肺結核症の血清診断.日胸疾会誌.1997;35(1): 43-48.
2) マイコドット法テスト共同研究会:抗酸菌抗体検出法の臨床有用性に関する共同研究.結核.1997;72(11): 611-615.
3) 前倉亮治,横山彰仁,山下直宏:結核の診断と治療効果・予後の判定に有用視される免疫学的指標.結核.1998;73: 193.
4) Ulrichs T, Munk ME, Mollenkopf H et al: Differential T cell responses to Mycobacterium tuberculosis ESAT6 in tuberculosis patients and healthy donors. Eur J Immunol. 1998;28(12): 3949-58.V.治 療
1.結核症の治療
(1)化療方式
1) PZAを含む短期化学療法
肺結核の治療は、病巣内に菌量が多数認められる初期と、菌量が減少した後の維持期の2期に分けられる。役割を異にした3〜4剤を菌量の多い初期に併用し、早期に大量の菌を殺し菌陰性化をはかり、薬剤耐性菌を生じさせないようにすることが治療成功の鍵である。平成8年4月1日より肺結核に対する医療の基準が改正され1)、本邦においても世界で広く行われている初期2か月にPZAを含む4剤による6か月治療が、従来の9か月治療とともに標準治療に含まれるようになった。ただし、副作用、とくに肝機能障害については十分な注意を払う必要がある2)。
2) 治療期間
日本ではこれまで肺結核治療期間は一般に極めて長期であった。今後は上記標準治療が適用された場合には治療期間は治療方式の一部分として守られねばならない。しかし、症状が著しく重い場合、治療開始から4か月を経ても結核菌培養の結果が好転しない場合、糖尿病、塵肺症など結核の経過に悪影響を及ぼす疾患を合併する場合、また副腎皮質ステロイド剤もしくは免疫抑制薬を長期にわたり使用している場合、患者の病状、経過を考慮し適宜治療期間を延長することを考慮すべきである3)。
3) 再発
胸部X線写真上の悪化のみ、あるいは単回の喀痰核酸増幅法の陽性所見のみをもって再発と診断することは危険である。菌培養検査成績および患者の病状経過の総合的判断が必要である。
過去にINH、RFPを中心とした短期化学療法を受けて治癒した患者が再発した場合には、患者が以前と同じ薬剤の組み合わせを用いて化療を開始し、薬剤感受性検査結果が判明した後、それに応じて薬剤組み合わせの変更を図ることを原則とする。往年のINH、PAS、SMによる標準治療を受けた患者の再発の場合には、既使用薬剤に対する耐性がしばしばあることが報告されており4)、主要5剤を中心に未使用薬剤を選択すべきであるという報告がある5)。再治療の場合は患者から十分な病歴聴取を行い、使用した薬剤とその期間を明らかにすべきである。
4) 副作用
個々の抗結核薬において、軽度から重篤な段階までの副作用が知られている。標準治療を選択した場合、INHによる末梢神経炎、INH、RFP、PZAによる肝機能障害、発熱、発疹などのアレルギ−反応など頻度の高い副作用に対し注意を要する。しかし、激症肝炎、腎不全など不可逆な副作用の発現、各薬剤ごとに稀な副作用が認められることから、適宜適切な対応をすることが重要である。
INH、RFPによる副作用については、投与を中止した後、副作用の改善を待って減感作療法による再投与を試みるべきである。減感作療法の実際は、平成9年10月に日本結核病学会治療委員会によって、INH、RFPとも25mgから3日毎に増量する方式が試案として作成された6)。
5) 副腎皮質ステロイド剤の併用
副腎皮質ホルモン剤は、結核の治療においては従来、粟粒結核、結核性髄膜炎、結核性心嚢炎など、浮腫・癒着予防に対する治療として併用されてきた。しかし、重症あるいは急速進展型肺結核に対して抗結核薬との併用が有効であった症例も多いため、投与量、投与期間について一定の見解が必要である。
6) 治療の評価7)
治験とは別に、日常の治療実践が適切であるか評価を行うことは重要である。評価は以下のような2つの側面について行うのが実際的であろう。
@化学療法の効果:化療開始後2か月後の菌陰性化率、および再発率(治療終了後一定期間の間における再排菌率などでみる)。
Aコホ−ト分析:さらに実際的に患者の脱落防止なども評価の焦点に含めた評価方式である。一定期間内に治療を開始した患者の集団に対し、その集団の治療経過を追跡し、菌所見および治療期間の患者の動向を観察し評価する方法をコホ−ト分析という。WHOによって定められた基準は日本の現状にそぐわないため、現在改変された方式による評価が報告されている8)。
7) 直接監視下の治療(Directly Observed Therapy: DOT)
世界的に、肺結核治療における治療中断・脱落を予防する目的でDOTが行われている。日本では入院治療がひろく行われているので、外来でのDOTは普及していないが、入院治療拒否者などを中心に一部の地域でDOTが試みられており9)、この結果が良好であれば、日本でもDOTの施行を拡大すべきであろう。
(2)合併症を有する症例に対する治療
肺結核患者の高齢化、医原性免疫不全者の増加などにより、肺結核患者において合併症を有する患者は増加傾向にあると考えられるが、結核治療目的で療養所に転院し高度な医療技術を必要とする合併症の加療が制限される可能性がある。合併症についても適切に治療可能であるために、療養所の整備が必須であるとともに、一般病棟内の結核病室での隔離・治療が随時可能な施設を増やす必要があろう。
1) 免疫抑制宿主
宿主の細胞性免疫が低下し合併症を有する場合、治療終了後の再発率に大きく影響する。代表的な疾患として、糖尿病、担癌患者、HIV感染などがあげられるが、今後これらの疾患における適切な治療期間、再発率について、疾患ごとに検討する必要がある。
2) HIV感染合併結核
近年、HIV感染者に生じる日和見感染において肺結核発症が大きな問題となっている。HIV感染に対する治療の軸となっているプロテア−ゼ阻害剤がリファマイシン系薬剤で血中濃度を低下させることが知られており、リファンピシンの代わりにリファブチンを使用するなど慎重な対応を要する10)。日本では現在リファブチンの入手が困難な点が問題である。
(3)多剤耐性結核
1) 耐性結核菌の頻度
結核菌の薬剤耐性は自然に起こる突然変異から発現し、この突然変異は各薬剤ごとに一定の頻度で発生しているという考え方が主流である。耐性菌の頻度は、RFPで1/10(8)、INH、SMは1/10(6)とされており、肺結核治療時に抗結核薬を単独で、あるいは不十分な薬剤濃度で用いた場合(不規則内服など)、容易に耐性菌の増殖が生じ、薬剤耐性結核が生じる結果となる。抗結核薬の耐性判定薬剤濃度は平成9年9月に日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会によって国際基準に近くなるよう提案された11) が、現行の耐性判定薬剤濃度において判定した場合、未治療患者におけるINH、RFP、EB耐性頻度は各々1%前後、SMは約4%であると報告されている。
2) 多剤耐性菌とその対策
多剤耐性結核菌は、少なくともINH およびRFPに対して耐性の結核菌と定義されている。本邦でも多剤耐性菌による集団感染事件が報告され12)、今後も多発する可能性があることを踏まえ、厚生省は多剤耐性結核対策として各地域に拠点病院を設け、診療ネットワークを組む予定であり、安易な治療による多剤耐性結核の蔓延を防御する方針をとる計画が進行している。
3) 多剤耐性肺結核の治療
多剤耐性が判明した後、原則として、使用可能な薬剤感受性のある薬剤を数種類併用するが、併用薬剤の一つとしてニューキノロン薬も考慮すべきである。しかし、多剤耐性結核の治療については結核専門施設に速やかに相談するべきであろう。日本では多剤耐性菌に対する治療方式、治療期間は未決定であるが、WHOは1996年、INH、RFP両剤耐性菌結核に対する治療方式として、エチオナミド(TH)、オフロキサシン(OFLX)、エタンブトール(EB)、ピラジナミド(PZA)およびアミノグリコシド剤を用い、初期最低3カ月、可能であれば菌陰性化まで継続して用い、維持期としてEB、OFLX、他1剤を菌陰性化後少なくとも18カ月間用いることを推奨した13)。
4) 外科手術の適応
多剤耐性肺結核に対し積極的な治療として外科的切除を考慮するべきであり、今後、結核医療における外科治療の進歩が望まれる。
5) 慢性排菌者
慢性排菌者は長期の経過をたどり,ほとんどすべての抗結核薬に耐性もしくは副作用などのためこれらが使用不可能であり、そのため長期入院を余儀なくされている。慢性排菌に至る以前に薬剤感受性検査の結果から適切な化療を施行すると共に、積極的に外科治療を考慮すべきである。過去、多剤耐性菌患者による感染は生じにくいという報告があった14) が、現在集団発生事件の報告もあり、適切な対応への根拠の確認が必要である。
(2)今後のあり方
@初回治療例については標準治療方式を用い、不必要な治療期間延長を行わない。
A日常の治療成績の評価を適切に、常時行う。
B薬剤の副作用について理解を深め、不規則治療や治療の中断を防止する。
C薬剤感受性検査結果について十分注意を払い、多剤耐性例については速やかに専門医療機関に相談し、治療を行う。
D治療薬剤の確保:結核患者減少に伴い、不採算である抗結核薬の供給停止が問題となっている。CPMが供給停止となり、TH、CSもその危機に瀕した。多剤耐性菌治療の問題も考慮し、現行の薬剤を減らさないように対策を講じなければならない。
Eニューキノロン薬の評価:各ニュ−キノロン薬は結核菌に対し殺菌力を有し、標準治療を選択できない場合有用な薬剤であるが、一般の施設ではニュ−キノロン薬の薬剤感受性検査を行うことは困難であり、また、結核予防法による公費負担の対象とならない薬剤を長期間投与されることは患者負担が大きい。抗結核薬としての積極的な評価、承認が望まれる。
Fリファブチンの承認:HIV感染合併肺結核における治療において重要な位置を占めるため、リファブチンの認可、汎用化が望まれる。
(5)研究課題
@新薬の開発:現在10剤の抗結核薬が使用可能であるが、合併症、副作用、薬剤耐性結果から使用が制限される場合があり、交差耐性のない新薬の開発が望まれる。また、従来用いられてきた薬剤についても、剤形、投与ルートの開発により、より有効な治療が行えることが期待される。
A再治療、重症例、肺外結核の治療:現行では、これらの症例について標準治療方式と治療期間は未定であり、適正な見解が必要である。
BDOTの導入:治療継続が困難な症例に対しDOTを試み、本邦における効果を検討する必要がある。
C難治性結核に対する免疫療法:医療技術の進歩により、結核の免疫における各種サイトカインの役割が明らかとなり、治療への応用が期待されており、具体的な治療法の確立が望まれる。[文 献]
1) 結核医療の基準 厚生省告示 平成7年12月.
2) 青木正和:運用の実際. 結核医療の基準とその解説,第一版,厚生省保健医療局エイズ結核感染症課監修,財団法人結核予防会,東京,1997;67-75.
3) 日本結核病学会教育委員会:結核症の基礎知識,結核.1997;72:523-545.
4) 国立療養所化学療法共同研究会:INH/RFPを主軸とする化学療法の再排菌例の検討:国療化研第27次B研究報告,結核.1987;62:265-280.
5) 尾形英雄:再治療・薬剤耐性結核,結核医療の基準とその解説,第一版,厚生省保健医療局エイズ結核感染症課監修,財団法人結核予防会,東京.1997;92-102.
6) 日本結核病学会治療委員会:抗結核薬の減感作療法に関する提言,結核.1997;72:697-700.
7) 森亨:治療成績の評価,結核医療の基準とその解説,第一版,厚生省保健医療局エイズ結核感染症課監修,財団法人結核予防会,東京.1997;76-91.
8) 山下武子,小林典子,山内祐子,他:全国コホ−ト観察調査による患者管理の評価,資料と展望.1998;27:31-43.
9) 橋本雅美:新たな結核対策,公衆衛生.1999;63:175-180.
10) CDC: Prevention and treatment of tuberculosis among patients infected with human immunodeficiency virus: Principles of therapy and revised recommendations: MMWR. 1998; 47: 1-51.
11) 日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会:結核菌の薬剤感受性試験,特に試験濃度改変と比率法導入への提案.結核.1997;10 :597-598.
12) 尾形英雄,杉田博宜,小林典子,他:家内工場で発生した多剤耐性結核の集団感染,結核.1997;72:329.
13) WHO: Guidelines on the management of drug-resistant tuberculosis: WHO, Geneva.1996.
14) 岩崎龍郎:結核療養所従業員の1955-1960年間の結核発病率と耐性菌感染の頻度,日胸.1960;19:832-838.2.肺結核後遺症
(1)病態
肺結核後遺症とは、肺結核の治療後にこれと関連して種々の合併症を生じた状態で、呼吸機能障害とこれに続発する肺性心、および肺真菌症、非定型抗酸菌症がその主な内容である。全国の死亡統計でも毎年2000人以上が死亡し、とくに呼吸機能障害は在宅酸素療法の基礎疾患としても慢性肺気腫に次いで常に第2位を占めてきた1)2)。またこれは結核治療の歴史から人工気胸や外科療法(胸郭成形術や肺切除術)との関係が深い。
肺結核後遺症による主な呼吸機能障害は、拘束性換気障害で、%肺活量50以下のことも少なくない。しばしば閉塞性障害の合併がみられる。慢性閉塞性肺疾患と較べると、肺結核後遺症による呼吸不全は、その多くが20年以上と結核発病からの期間が長く、また高二酸化炭素血症を合併する率が高い3)4)。さらに肺結核後遺症では、慢性閉塞性肺疾患より肺高血圧症の比率は高く、同程度の低酸素血症ではより著しい肺高血圧を示す5)。一方結核の治癒後、非定型抗酸菌症の合併やアスペルギルスによる二次感染が起こることがある。また人工気胸術後の膿胸壁から悪性リンパ腫の発生がみられており注意すべき点である。
(2)治療と予後
1) 基本的理解
急性期の治療は、急性増悪の原因の治療と適切な酸素化、気道の浄化が基本である。慢性期の治療でもっとも重要なことは自己管理能力を高めることを目的とした医師、看護婦、理学療法士、栄養士、薬剤師など複数の職種の協力による、患者及び家族の教育である5)(包括的呼吸リハビリテーション)。
在宅での呼吸理学療法をどう継続させるかが今後の課題である。
気道感染の予防および早期治療は予後の点からも重要であり、肺炎球菌やインフルエンザの予防接種も勧められる。
2) 在宅酸素療法
在宅酸素療法は、生命予後の改善に役立ち、年齢、性、肺機能、動脈血ガス、過去の結核治療の種類が予後因子として重要である1)2)6)7)。さらに患者のQOLの向上には携帯酸素の進歩とその有効な活用が不可欠である8)。また在宅酸素療法患者は、酸素吸入による日常生活の制限、老齢および身体的機能の低下、介護者の老齢化、家族や友人の喪失体験などからうつ状態になりやすい。心理的なサポ−トおよび医療・福祉両面からのサポ−トが必要と思われる。訪問看護ステ−ション、保健所、地域の医師、地域の福祉担当者などとの緊密なネットワ−クを作ることが必要である。
3)非侵襲的人工呼吸
鼻マスク(あるいはフェースマスク)による非侵襲的な人工呼吸(NIPPV)が、呼吸不全の急性増悪期および慢性期の高度の二酸化炭素血症の治療法として注目され9)、今後急速な増加が期待される。
結核後遺症はNIPPVの良い適応疾患であり、在宅酸素療法患者の予後及びQOLの改善に役立つとの報告がある10)。NIPPVの適応の選定NIPPV導入手技の確立、医療スタッフ間の連携や統一した患者指導(イラストの豊富なNIPPVマニュアルの活用は有効)、在宅での追跡支援が重要で、今後精力的に追及されるべき研究分野である。なお在宅人工呼吸患者のQOL向上には、運動・呼吸訓練などの呼吸理学療法が不可欠であることはいうまでもない。
(3)今後のあり方
@結核による呼吸不全の障害を持った者の実態を常時把握する体制を作る。
A呼吸不全患者の入院、在宅の治療、訓練、管理の方式をマニュアル化して普及させる。
(4)研究課題
@呼吸機能障害の発生と進展の機序を明らかにし、その進展を緩やかにし、障害の発生を予防する方法を明らかにする。[文 献]
1) 合田晶、宮本顕二、川上義和、他:在宅酸素療法実施症例の(全国)調査結果について. 厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班平成7年度研究報告書.1996; P5-9.
2) 吉良枝郎、饗庭三代治、鈴木勉、他:在宅酸素実施症例(全国)の調査結果について. 厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班平成2年度研究報告書. 1991;P11-16.
3) 町田和子、広瀬隆士、鶴谷秀人、他:最近5年間の新発生呼吸不全例について−肺結核後遺症を活動性肺結核及び慢性肺気腫と比較して.結核. 1995; 70:278.
4) 毛利昌史、町田和子、川辺芳子、他:基礎疾患による在宅酸素症例の予後の比較. 日胸疾会. 1998;36(増):188.
5) 栗山喬之、安田純一:結核後遺症ー病態生理の立場から(循環).結核.1990;65:955-865.
6) 毛利昌史、町田和子、川辺芳子、他:肺結核後遺症による在宅酸素症例の検討−内科的治療群と外科的治療群の比較.結核.1996;71:597-601
7) 川上義和:肺結核後遺症における呼吸不全.結核.1997;72:519-522.
8) 町田和子、川辺芳子、毛利昌史、他:在宅酸素療法における携帯酸素の使用状況と問題点について−最近6年間の分析.厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班平成5年度研究報告書.1994;11-16.
9) 青山紀之、町田和子、坪井知正、他:長期間Pa(CO2)100mmHgを超えた慢性呼吸不全例のPa(CO2)の経過と急性増悪.臨床呼吸生理.1997;27:7-12.
10) 坪井知正、大井元晴、陳和夫、他:鼻マスク陽圧換気法を長期人工呼吸療法として導入した慢性呼吸不全41症例の検討.日胸疾会誌.1996;34:959-67.3.非定型抗酸菌症
(1)現況と研究の動向
最近のわが国の非定型抗酸菌症の頻度は、1980年代に比較して2倍以上の増加をみている。1992年で人口10万人当たり菌陽性肺結核の罹患率が15.0に対して本症は2.99と推定され、抗酸菌陽性患者の1/6ないし1/5は本症であり、呼吸器疾患診療上、一般医療施設でも無視できない存在になってきた1)。菌種別の内訳では約7割がMycobacterium avium complex(MAC)症、約2割がMycobacterium kansasii症、残りがその他の菌種となっている。従来本症の統計や医療は、診断当初は結核菌と鑑別できないため、大部分が結核予防法の中で区別されず扱われてきたが、関係者の努力により1996年1月からは「非定型抗酸菌陽性」として結核予防法の中で位置づけられ、混乱が解消した。
1990年以降の非定型抗酸菌症診療・研究の主な動向は、以下の3点に要約できる。
第1は遺伝子工学的手法で、非定型抗酸菌の同定や分類学的位置づけが正確に出来るようになっただけでなく、臨床検体から直接に検出できるようになったことである。わが国は、これら核酸増幅法を一般診療場面で最も早く導入した国の一つである。
第2に全世界的なHIV感染の蔓延は抗酸菌症の著しい増加を伴い、抗酸菌症制圧の課題が公衆衛生学的見地のみならず、医学的にも再びクローズアップされてきた。この中で、従来まれであった全身播種型非定型抗酸菌症や、非病原性と考えられてきた各種の非定型抗酸菌感染例が世界的には急増してきている。
第3にここ数十年変化のなかった非定型抗酸菌症薬物治療の分野にニューキノロンやニューマクロライドなど新たな薬物が参入し、さらに将来を期待される薬物の研究が行われていることである。
このような変化を受けて、米国胸部疾患学会は1990年に非定型抗酸菌症に関するガイドライン2)を初めて独立した文書として公表したが、これを1997年大幅に改定した3)。わが国でも1987年の「非定型抗酸菌症の治療に関する見解」4)を、この間の研究の進歩を踏まえて1998年10月に「非定型抗酸菌症の治療に関する見解-1998年」5)として公表した。
(2)今後のあり方
@特定施設からの情報の集計だけでは疫学的実態の把握が不十分と考えられので、より広範囲な疫学的調査体制を確立する。
Aリファブチンや各種のニューマクロライド、ニューキノロン系薬剤をわが国でも非定型抗酸菌症に使用できるようにする。
B日本としての新しい非定型抗酸菌症診断基準の作成、HIV感染の拡大に伴い、全身播種型非定型抗酸菌症などの肺外非定型抗酸菌症が増加する可能性があり、また菌の検出に関しても気管支鏡使用や核酸増幅法などが普及したことからこれらの所見を包含したものが必要である。
(3)研究課題
@感染経路の解明:環境中での非定型抗酸菌の棲息実態、国内の地理的分布、および人への感染経路の解明が重要である。
A発病および進展機序の解明:特に、中年女性の中葉舌区型非定型抗酸菌症の発病機序や、その進展遅速の機序、個体要因や菌側要因、その相互関係の研究が必要である。
B治療に関する研究:新しい抗菌薬の治験の実施、培地上と臨床上での感受性の差異の究明、外科療法に関する有効性の評価等。
C非定型抗酸菌の菌種は年ごとに新しいものが発見されており、今後も未知新菌種や稀少菌種の探索に努力を払うべきである。[文 献]
1) 坂谷光則:非定型抗酸菌症−疫学の現状.化学療法の領域.1994;10: 2257-2263.
2) American Thoracic Society: Diagnosis and treatment of disease caused by non-tuberculous mycobacteria. Am Rev Resp Dis.1990; 142: 940-953.
3) American Thoracic Society: Diagnosis and treatment of disease caused by non-tuberculous mycobacteria. Am Rev Resp Dis.1997; 156: S1-S25.
4) 日本結核病学会治療委員会:非定型抗酸菌症の治療に関する見解.結核.1987;62: 77-80.
5) 日本結核病学会非定型抗酸菌症対策委員会:非定型抗酸菌症の治療に関する見解-1998年.結核.1998;73: 599-605.4.結核病床のあり方
(1)近況と問題点
1) 結核病床数
結核病床は昭和30年には約24万床(利用率約90%)あったが、平成9年には約3万床(利用率約40%)となった。都道府県医療計画における結核の必要病床数全国合計は約2.6万床(平成9年3月)であり、これよりも既存病床数の合計(約3万床)が大きい。地域により違いはあるが全国的にみれば既存病床過剰である。これと並行して平均在院日数は昭和30年には383日であったが、平成9年には約112日となった。
平成3年5月に公衆衛生審議会は「結核患者収容施設のあり方について」と題する意見具申をし、「必要病床数は(中略)、今後の医療計画の再検討に当たっては結核入院患者数の実態を勘案して検討する必要がある」としている。
2) 結核患者の入院ベッド(集中型と分散型)
治療中の結核患者中に入院患者が占める割合は昭和36年約24%、平成8年約26%と、この間大きな変化はなかった。結核患者の高齢化(入院患者のなかで55歳以上の患者が占める割合は約75%、平成8年)が進むことに伴って結核入院患者の約7割に何等かの合併症が存在している。この状況により適した医療体制の整備が必要である。
平成3年5月に公衆衛生審議会から出された意見具申(上掲)では、患者が医療上の多様なニーズに即した入院治療が受けられるように、結核以外の疾患の専門治療とともに結核治療にも対応できる包括的医療体制が望まれるとした。具体的には、今後は複雑な、また高度な合併症を有する結核患者を一般病床においても入院させることができるような体制を整備することとし、まず感染防止上の諸要件を満たす施設をモデル的に導入することとした。平成4年12月に「結核患者収容モデル事業」実施施設の構造および設備に関する要件がだされた。その後の審議会でもこの方針は繰り返し確認されている。
平成10年7月、一般病床を急性期病床と慢性期病床とに区分するとした「21世紀に向けての入院医療の在り方に関する検討会」の報告が出された。この中の人員配置基準および構造設備基準の見直しにおいて、精神病床、結核病床については別途検討する必要があるとされた。これを受けて公衆衛生審議会で検討を重ね、結核入院患者を4種に類型化したが、その一つに「他の疾患や病態を伴った結核患者、(ア:一般的な合併症を伴う場合、イ:特殊な合併症を伴う場合)」を設け、これに対応すべき入院施設を「病室または病棟単位で結核病床を有する総合診療機能を有する医療機関」、および「他の領域の専門医療提供施設」などとした。しかし、医療法上の結核病床という種別は従来通りに維持し、一般病床と同様の類型化を適用する等の必要はないことが確認された。
上記の結核患者の類型化にもとづく入院治療の考え方が普及すれば、入院期間の短縮、患者の利便性への配慮、院内感染防止強化が期待できよう。しかしそれが不適切に拡大解釈され、結核患者が予期しない方向・程度に分散しないように注意すべきである。
3) 結核患者入院医療機関
平成3年9月に掲げられた2030年代の結核根絶の達成が困難であることが明らかになったことを受けて、平成10年7月には「緊急に取り組むべき結核対策について(提言)」がだされた。この中多剤耐性結核対策が採り上げられ、難治性多剤耐性結核への集学的医療を担う広域圏の拠点施設と、国立療養所を中心に都道府県ごとの拠点施設を整備すること、またすべての結核医療機関の連携による診療ネットワ−クを構築することが提言された。
(2)今後のあり方
@これまでと同様、今後も菌陽性肺結核患者を中心に結核患者には、感染防止、耐性化防止、確実な服薬確保、患者教育の視点から最小限の期間の入院治療が必要である。DOTが必要な患者がわが国にも存在する現実に鑑みて、かかる患者にはDOTが確実に行なわれるようにすべきである。
A入院治療のあり方は集中型を中心として分散型がそれに加わり、混合形態となるであろう。分散型は、医師の結核医療の研修、より適切な医療の提供、患者利便性の視点から拡大されるであろう。すなわち医育機関附属の総合病院が病室単位の分散型の結核病床を持つことは今後の結核診療の質の確保と向上のために重要である。また集中型結核病床も医師の結核医療の研修に、また必須化される初期研修のプログラムの一部として積極的に使用すべきである。このことが結核の再々興を抑制する基盤となると考える。しかしこの際、1)構造・設備の基準に合致した分散型結核病床の設置、2) そこに入院する症例の選択、3)そこで提供される結核医療の質の確保、4)そこで提供される合併症に対する医療の質の確保、に十分留意すべきである。分散型病床が拡大解釈されて不適切に運用されることがないようにすべきである。
B最近結核症の入院期間はかなりの速さで短くなりつつある。しかし、結核患者には合併症を有する患者、社会的弱者、難治性慢性排菌患者等など早期退院が困難なこともまれではない。したがって一般病床に用いる平均在院日数の規制は結核病床にはなじまない。
C集中型病床を有する施設には、現在でもしばしば遭遇する骨・関節結核、消化管結核に対する医療も提供できる程度の機能が付与されていることが望ましい。
D精神疾患患者・アルコ−ル依存症・重症心身障害児(者)・透析を必要とする患者・その他筋ジストロフィ−などの慢性難治疾患症例に結核が合併した場合、これらの疾患を治療している施設で結核医療を原則として提供できるように整備することが望ましい。この際情報提供のみならず医師派遣などに関連して、これら施設と結核の専門医療施設とのネットワ−クを事前に構築しておくことが必要である。W.予防対策
1.患者発見
わが国の肺結核患者の発見方法をみると、医療機関受診によるものが79%、定期検診が13%、定期外検診が2%である(1997年)。結核の低蔓延国、たとえばオランダでは(1995年)ハイリスク者や接触者の検診による患者発見が全体の25%を占めているのに対し、わが国は検診からの発見が非常に少ない。発見割合の大きい医療機関での「診断の遅れ」を防止することはもちろんであるが、患者・感染者を早期に、かつ効率よく発見するために、定期および定期外健康診断の対象や方法を見直す必要がある。
法的にみると、都道府県知事(その委任を受けて保健所長)が行う定期外検診のなかには、いわゆる業態者検診(結核予防法第5条1項)が含まれている。これは接客業者などいったん発病したら公衆に結核感染を拡大させる心配の大きい職種や集団を対象とした検診であるが、実施方法は定期検診と同様である。現在もこの検診の重要性は変わらないが、事業者等の責任において実施可能になっているので、今後は定期検診の項に含めることができよう。その他の定期外検診についても、患者の家族を始めとする接触者検診はもとより、その他の下記のようなハイリスク集団を対象とした検診も重要になると考えられるので、「接触者検診」のほかに「ハイリスク者検診」の項を新たに設けるべきである。
(1)定期健康診断(定期検診)
結核予防法第4条による定期検診は、学校長、施設の長、事業者、および市町村長を実施主体として行われている。このうち学校長による検診は1993年度に改正され、現在は小・中学校1年を対象にツ反応検査が実施され、感染の疑われる者(強陽性者など)に対して個別に精密検査を行う方法となった。
一方、16歳(高校1年)および19歳以上の者に対する定期検診は、現在も年1回の胸部X線検査を基本として実施されている。しかし、罹患率の低下も影響して患者発見率は低くなり、市町村長が行う検診(19歳以上)でも受診者千人対0.15人(0.015%)と、発見率は10年前のちょうど半分に低下した(1996年保健所運営報告)。事業者主体の定期検診では、対象者に高齢者が少ないこともあって患者発見率はさらに低く、受診者千人対0.07人であった。定期検診の効率を高めるためには、基本的に対象年齢の引き上げが必要である。
ただ、愛知県の教職員を発端患者とした集団感染対策の分析によれば1)、年1回の検診でも受診率がほぼ100%の公立学校の職員は、受診機会に恵まれない学習塾等の職員に比べて、登録時に菌陽性であっても排菌量の少ない早期の患者が明らかに多く、生徒等への二次感染も少なかった。教職員や医療従事者などは今後も重要なデンジャー集団であり、定期検診を徹底することで、周囲への感染拡大や集団感染を予防する効果が期待できると考えられる。
以上のことから、定期検診の患者発見効率を高めるためには、罹患率の高い中高齢者(40歳以上等)に重点を置いて実施すべきであり、一般住民の定期検診については、法的受診義務の対象年齢を引き上げることが必要である。ただし、若年者を巻き込んだ結核集団感染が増加しているので、16歳(高校1年)、および大学入学や就職時(採用時)の検診は継続するとともに、患者発生時の定期外検診の実施を徹底すべきである。また将来的には、年齢に関係なく、個人毎に結核発病のリスクを評価した上で、一定以上のリスクを有する者に対して選択的あるいは重点的に定期検診を勧める方法も検討すべきである。
一方、学校や医療機関における集団感染を防止するために、教職員や医療従事者などのデンジャー集団においては、対象年齢を引き上げることなく、従来どおり年1回の定期検診の受診を徹底すべきである。また、今後集団感染の増加が懸念される施設として老人福祉施設、および刑務所等の矯正施設がある。これら施設では、入所時のX線検査を徹底しその結果を保管するとともに、定期検診の実施について十分な監督をすべきである。
(2)接触者検診
結核患者の同居家族、友人、および親しい親族等の検診は一般に「家族検診」(法第5条4項)として扱われている。また、患者の発生に伴い学校や職場等で集団感染のおそれがある場合に行われる定期外検診(法第5条2項)も重要である。一般にこれら2つを含めて「接触者検診」と呼んでいる。
接触者検診の目的は、@感染源を捜すこと、A感染者を発見し化学予防により発病を防ぐこと、B発病した場合でも初期段階で発見すること、の3つである。@の目的では、初感染結核を含めた新登録者全員の接触者(家族等)が対象となる。AとBの目的では、患者の「感染危険度」や接触者の年齢等に応じて検診の対象、時期、および方法を十分に検討しなければならない。
接触者検診による患者発見率は非常に高い。家族検診の成績を例にすると、1996年の全国集計(地域保健事業報告)による患者発見率は0.55%(市町村長による定期の36倍)であった。これは菌陰性例の家族を含めた検診成績であるが、菌陽性肺結核患者の家族に限れば発見率は2〜3%(定期の100倍以上)に及ぶと推定される2)。
このように患者発見効率の高い接触者検診を、保健所等が漏れなく適切に実施できるようにするために、厚生省は1992年12月に「結核定期外健康診断ガイドライン」を示した。これは患者の感染危険度に応じた検診計画の立案とその実施に関する貴重な指針として活用されている。しかし、保健所再編等に伴う医療機関委託の増加、および最近の集団感染の特徴などを考慮して、一部改正すべき事項がみられる。たとえば最近は、中高齢者でも職場や施設で集団感染し発病するという事例が目立つ。感染危険度の高い患者の接触者には、「30歳以上」の者にもツ反応検査を行い、感染が疑われる者には化学予防を勧めるべく、基準の見直しを検討すべきである。
また、保健所から医療機関に委託する際の条件や方法を示し、検診の質を保証することが必要である。具体的には@委託先の選定条件を明確にする(ガイドラインの内容を含めた研修受講を条件とするなど)、A対象者の利便性や健康状態(慢性疾患の有無など)を考慮して委託先を選定する、B委託先に対する情報提供と検診方法に関する指示が円滑にできるようにするなどである。もちろん、集団感染対策のなかには、接触者検診の委託実施が困難な事例もしばしばあるので、保健所はツベルクリン反応検査やX線検査を自ら実施できるように一定以上の機能を確保すべきである。
さらに、結核の集団感染の発生場所が学校や事業所のほか、病院、福祉施設、矯正施設など多岐にわたってきたので、施設の種類別に課題を分析し、重点的かつ特徴的な対策を盛り込んだガイドラインの作成が必要である。
(3)ハイリスク者検診
患者の接触者以外のハイリスク集団として、結核罹患率が極めて高いにもかかわらず定期検診や医療機関受診の機会に恵まれない集団(大都市の特定地区など)、あるいは結核罹患率が非常に高い海外地域から来日する長期滞在者や定住者などがあげられる。今後はこれらの集団に対しても、結核蔓延のおそれがある地域に居住する者または居住していた者の定期外検診(法第5条3項)として、保健所長が積極的に対応すべきと思われる。また最近は、精神病院における結核集団感染が目立つにもかかわらず、長期入院患者の定期検診を病院に実施させるための法的根拠はない。精神病院の長期入院患者などもハイリスク者と考えられるので、保健所は精神病院の求めに応じて定期外検診ができるようにすべきである。
(4)今後のあり方
@定期検診の法的受診義務対象年齢を16歳に達する年度、および40歳以上の毎年とし、かつ高齢者に対して重点的な受診勧奨を行う。
A大学・専門学校などの入学時、新しく事業所に就職した時などに、健康診断のなかで胸部X線検査を実施することを奨励する。
B従来の業態者検診(飲食業者、理美容業者等)は事業者等の責任による定期検診に改正し、その徹底を図る。
C接客業、小規模事業所等、定期検診を受けにくい階層に対しては健康診断が受けられるよう行政上の配慮を行う。
D教職員、医療従事者などのデンジャー集団に対しては、年齢に関係なく年1回の定期検診の実施を義務とし、その実施状況について十分な監視と指導を行う。
E医療機関、介護保険関連の老人施設、および刑務所等の矯正施設における結核対策ガイドライン(仮称)を作成し、それに基づく入所時、定期、および定期外検診の徹底を指導して集団感染を防止する。
F「結核定期外健康診断ガイドライン」を改訂し、最近の結核をめぐる状況に適合したものにする。
G接触者検診については、中高齢者をまき込んだ集団感染の増加に対応して、ツ反応検査の対象年齢を引き上げる。
H接触者検診を保健所が医療機関に委託する際の条件を定め、検診の質を保証する。
I接触者以外のハイリスク集団(結核高蔓延地域など)に対しても、保健所が定期外検診を積極的に実施する。
(5)研究課題
@年齢で対象を規程するのではなく、個人の結核発病リスクを問診等で評価したうえで、X線検査の必要性や受診間隔を個別に提案し、選択的に受診してもらえるような定期検診の方法を開発する。
A接触者検診の質を保証するために、検診の質に関する点検・評価方法を開発する。
B接触者以外のハイリスク者に対する介入研究的な定期外検診を行う。[文 献]
1) 山本正彦:愛知県教員の定期外検診の結果を用いた定期検診の意義の検討.結核.1998;73(11):625-631.
2) 阿彦忠之:結核家族検診の現状と課題.結核.1990;65:739-746.2.予防接種
BCGは20世紀初頭に牛型結核菌から開発された生ワクチンであり、第二次大戦後多くの国々で集団接種が開始された。今日使用されているワクチンの中でも広く用いられ、全世界でのべ約30億人が接種を受けた実績のあるワクチンである1)。もともとのBCG株は、数種類の菌株を含んでいたらしく、当初の株から分与され、継代培養された異なる4種類の菌株(Pasteur, Copenhagen, Glaxo, Tokyo)が、今日世界で使用されているBCGの90%以上を占めている2)。
一方、BCGワクチンの使用に当っては長年議論があり、有効性、副作用の違い、結核蔓延状況の相違により世界の地域、国によりBCG政策は様々である。開発途上国では新生児期に積極的に接種されているが、わが国よりも結核蔓延状況が20-30年以上先をゆくヨ−ロッパや北米の国々では、選択的接種か、中止の方向である。最近、世界的な結核の再興とHIVと結核の合併、多剤耐性結核の集団発生の出現により、結核ワクチンへの関心が高まっておりBCGの再評価も行われている。また、WHOは1995年BCG接種に関する声明の中で、「BCG再接種の効果の根拠がないので再接種は一般には勧められない」としている1)。また、現在先進国でBCGの再接種を行っている国はわが国だけである。
わが国においては1951年に29歳以下の全国民が毎年ツ反応検査を受け、陰性(疑陽性)の者は繰り返してBCG接種を受けるよう義務づけられた。1967年からはそれまでの皮内法から管針を用いた経皮法に接種方法が変更され、1974年からは結核事情の好転などに基づいて、現行のような定期接種方式となり、さらに1994年には義務接種から勧奨による接種となった。現在、わが国のBCG接種体制は今後のあり方を巡って岐路にあるといえる。
(1)現行接種計画
1) 対象と接種率
現行の結核予防法では、BCG接種は、定期接種として、@4歳に達するまでに初回接種を、A小学1年、B中学1年で再接種を、それぞれツ反応を実施し、陰性ならば受けるよう勧奨されている。A、Bでの被接種者については、それぞれ小学2年、中学2年で技術評価のためツ反応を行い、陰性なら再度接種する。さらに、結核予防法5条による定期外健康診断でツ反応陰性の者にも定期外接種としてBCG接種がなされている。
1996年度の保健所運営報告によれば、乳幼児期のBCG接種率は、96.9%で、小学1年生の56.6%、中学1年生の31.0%がBCG接種を受けている。都道府県別の乳幼児期の接種率は地域的な格差が大きい。この格差の原因として重要なのは、ツ反応検査における「偽の陽性」を含めた技術の問題である。定期外の接種者数は約3000人とごくわずかである。
小児結核が都市部を中心にして未だに跡を絶たない現状であるが、小児結核患者におけるBCG接種率は低く、とりわけ乳幼児患者や結核性髄膜炎児ではBCG接種率が極めて低い3)。
2) 接種技術
1967年に採用された経皮接種法により局所の強い副反応は軽減したが、この方法の最大の問題点は接種時における管針の押圧の強さが一定しにくく、接種そのものが弱くなってしまいがちなことである。そのため、接種効果にばらつきが生じることがある。実際に一部の地域で行われた小中学校のツ反応成績の分析や幼児検診時の針痕数調査からBCG接種技術のばらつきが指摘されており、接種技術の改善が求められている。また、初回接種に対しては技術評価がなされておらず、BCGにより十分な免疫が獲得されているのか否かが不明であり、初回接種の技術評価体制の確立が必要である。
3) 副反応
現在用いられているBCGワクチンは、「最も安全性の高いワクチン」のひとつであると考えられている。わが国で使われているBCG株(Tokyo No.172)は諸外国で使用されているBCG株に比して毒力がはるかに弱く、さらに経皮法で接種されているので、骨炎や局所の潰瘍、膿瘍などの副作用の頻度は著しく低い4)。
しかし頻度が低いと言っても副反応は起こり得ることであり、通常BCG接種による副反応は、接種局所、所属リンパ節および全身的な反応に分けられる。
局所反応については、確実な技術で接種を受けた集団では初接種後半年ないし1年で平均16個程度の針痕がみられ、この針痕の個数は接種技術の評価指標となっている。実際にはこれよりかなり少ないことが多く、その場合は接種技術の改善が求められる。局所の遷延性の潰瘍、ケロイド、皮下膿瘍などもあるが、程度は軽く頻度も極めて低い(接種1年後のケロイド状瘢痕は幼児の0.3%、小学生の0.9%で大部分が直径1cm未満5))。
所属リンパ節炎は単純性腫大が大部分で、化膿性となることはまれである(単純性リンパ節炎0.7%、化膿性0.01%程度6))。化膿性リンパ節炎は、乳幼児を対象とした初回接種で観察されるが、再接種ではほとんどみられない。これらの大部分は経過を観察するのみでよく、外科的処置や抗結核薬投与の必要は極めて少ない7)。
わが国では、BCG副反応の中で骨髄炎、狼そうなどの皮膚変化がいずれも10例未満、間質性肺炎1例、致死性の播種性病変3例などと報告されている。しかし、副反応報告は全例報告されているとは言い難い。
諸外国の報告では、致死的副反応は100万人に1-5.1例程度で、その場合多くが免疫不全者に対する接種であったと言われている2)8)。1996年のフランスからの報告では、通常の免疫機能には異常を認めないが、BCGによる播種性病変を認めた患者が100万人に0.59人存在したとされている9)。わが国でも極めてまれであるが重篤な副反応報告もみられ、可能な限り副反応を漏らさず把握できるよう努めなければならない。
(2)BCG接種の意義
1) ワクチンの有効性
BCG接種の有効性を統計的に厳密に証明した英国医学研究協議会(BMRC)のフィ−ルド試験では中学生を対象にBCGは結核発病を約80%減少させ、効果は15年持続することが明らかにされた10)。しかし、現在までに世界で行われた主要なBCGの「前向き対照試験」や症例対照研究での効果検討は、BCGは極めて有効から無効まで幅広く分布した11)12)。
そこで、1994年米国ハ−バ−ド大学のColditzらはメタアナリシスを用いてBCGの再評価を行い、その結論13)によって「結核性髄膜炎や粟粒結核などの重症結核には高い有効性を認め、肺結核は50%発病率が低くなる」ということが現在世界のBCG評価のコンセンサスとなっている。
わが国における経皮法BCG接種の発病予防効果を検討した症例対照研究では、BCGの予防効果は全体で78%であり、また、5歳以下、初期肺結核症などにおいて高く、わが国の経皮法BCG接種は初期肺結核症をはじめとする乳幼児結核に対して優れた予防効果を有するといえる14)。しかし、経皮接種の技術上の理由から、確実な技術で接種されていない集団では予防効果が相当低いことも考えられ検討が必要である。
2) 諸外国の経験
これまで結核対策に取り入れていたBCG接種を近年になって変更した国がいくつかある。そのうちスウェ−デン15)、チェコスロバキア16)、西ドイツ17)などでは、接種中止後乳幼児の結核が明らかに増加した。
IUATLDは1994年先進国でBCG接種を中止するか否かを検討する場合の基準を発表している18)。この基準の一つの条件によればわが国はすでに、BCG接種を中止してよいことになるが、別の条件である「塗抹陽性肺結核罹患率」は今でもこの基準の2倍以上であり、直ちに中止することは困難と考えられる。
BCGの再接種は多くの国で行われている。しかし、再接種の有効性に関する前向き対照試験は行われたことがない。1995年WHOのBCGに関する声明では「再接種が追加的予防効果を与える明確な根拠がなく再接種を勧告しない」とし、さらに、「再接種者選択の指標にツ反応陰性が使用されているが、BCG接種後のツ反応陽転率と予防免疫の相関は悪く、再接種者の決定にツ反応は使用するべきでない」としている1)。また、1990年に再接種を廃止したフィンランドの経験からは、「結核低蔓延国では、BCG再接種の効果は小さいかゼロと思われ、BCG再接種は段階的に廃止されるべきである」と報告されている19)。このように、BCG再接種を見直す見解が表明される中で、わが国の再接種(小学1年と中学1年での定期接種、成人での任意接種)に関しても、現状を踏まえた科学的な検討が必要な時期にきているといえる。
3) わが国での試算
接種時期、接種技術などを考慮に入れて、わが国のBCG接種の効果を仮に50%と仮定し、この効果を0-19歳について考えると、接種が全く行われなければ、患者の発生は現在の2倍、患者数にして800人増と予測される。
(3)今後のBCG接種の方針
今後わが国では、BCG接種を廃止し、または時期を遅らせてツ反応によって結核感染を正確に診断し化学予防を行うという考えもありうる。しかし、すぐには感染の診断は容易でない。一方で、不適切な診断、治療、化学予防の投与漏れなどにより、小児結核、とりわけ髄膜炎の増加が予想される。さらに、結核が社会的弱者に偏在している現状を考えれば、中止の結果として患者の発生は社会的弱者に集中することが予想され、現状でのBCG廃止は小児へのリスクが大きいと考えられる。したがって、以下の点に考慮しながら、当分はBCG接種を継続すべきものと考える。
1) 初回接種
BCG接種によって期待される効果は、初接種年齢によって大きく影響される。最も効果を期待したい髄膜炎や粟粒結核を予防するためには乳児期早期に接種しなければならない。現行の接種体制では免疫不全者を除外するために、健康乳児では3か月以上で接種することになっている。当面は初回接種を生後3か月から乳児期早期に実施すべきである。
家族内に結核患者がいるなどの理由で感染の危険性が高い場合には、新生児への接種が必要なこともある。この時には、特に接種児が免疫不全状態にないことを症状だけでなく、精査にて確認しなければならない。
また、経皮接種では確実な技術で接種されていない集団では予防効果が相当低いことも考えられる。初回接種の技術評価を実施し、初回接種による免疫獲得が十分になされるよう努力すべきである。初回接種における早期接種と技術評価は重要な課題である。
2) 再接種
再接種の効果には、初接種の失敗の補いと初接種効果減弱の補強(有効期間の延長)が考えられるが、英国などの成績10)から初回接種の効果は15年以上持続することが示唆されており、有効性が残っているときに「追加接種」を行っても有効性を延長できるか明らかでない。
再接種の効果についての十分な観察成績はないが、再接種に関する予備的なモデル計算によれば20)、初接種を0歳にしておき、これに現行の再接種を追加しても、患者の発生は3−8%ほど少なくなるにすぎない。
小学生、中学生のBCG再接種については検討が必要な時期に来ていると考えられ、とりわけ、小学1年生でのBCG接種は中止を検討すべきである。その際には、初回接種の充実強化が必要である。
3) 定期外接種
所定の定期接種から漏れた者に対しては、定期外接種を活用して早期に高い接種率を得ることを目指すべきである。接種既往を点検し、未接種者に積極的に定期外接種を励行することが必要である。
医療従事者のように特別のリスクにさらされる集団には今後も定期外接種を活用すべきと言われている。しかしながら、成人への再接種の効果については研究が行われておらず、明確な学問的根拠を示して見解を述べることが困難で21)今後の検討が待たれる。
4) 再接種中止後の影響の推計
未だに都市部を中心に小児結核が少数であるがあとを絶たず、小児結核の発生動向に関してサ−ベイランスの充実が必要である。また、今後BCG再接種廃止に伴う小児結核患者増の懸念に対して小児結核サ−ベイランスの強化が求められる。
5) 副反応
副反応調査を強化し、現場に必要情報を還元することが必要である。
現状のデ−タを活用するため、現在の副反応情報を積極的に利用すべきである。また、現在までに学会誌等に報告された全副反応を把握する必要がある。さらに、新たなデ−タの収集策として、予防接種後健康被害状況調査の強化や任意の抽出地域での地域全数調査を取り入れ、副反応調査に当たりBCGによるAdverse Event Monitoring を考慮する。以上で得られたデ−タに関しては、「原則的なデ−タの公開性」を維持し、現場に必要情報を還元する体制を整備する。
6) 小学1年時のBCG再接種を廃止した場合の学校検診のあり方
小学1年時のツ反応検査は、BCG再接種対象者をツ反応陰性者として選択する目的以外に、結核感染者の発見から患者を発見する目的と乳幼児期のBCG接種の技術評価としての意義を持っている。
患者発見の観点から見ると、平成5年から8年にかけて小学1年時の学校検診における患者発見数は年間16名から22名であった。また、患者発見率は、在籍者比で1.3-1.5人/10万人、精密検査受診者であるX線撮影者比で0.12-0.20%であり、発見効率は低い。さらに、学校検診発見者の中には、過去の家族検診の漏れ者や化学予防の漏れ者も含まれているために、発見動機が純粋に学校検診だけである者はさらに少なくなると考えられる。また、乳児期の初回接種の技術評価が入学前に直接実施されれば、小学1年時のツ反応検査による間接的な技術評価は不要となる。以上から、小学1年時BCG再接種の廃止に連動してツ反応検査を省略することも可能になる。ただし、この場合には乳児期BCGの適正接種、感染小児を早期に発見するための対策の充実・強化が大前提とされなければならない。
7) 結核の関心を喚起する必要性
BCG再接種の廃止時に生じると予想される「BCG全体の後退、結核対策の後退」という結核への関心のさらなる低下に配慮して、医療者に対しての結核教育や初回接種体制の強化、国民への結核啓発の強化が求められる。
(4)今後のあり方
@BCG接種は確実な技術が必要とされるため十分な接種技術水準の維持が不可欠である。現在の接種体制を考慮すると、現状では集団接種方式が望ましいと考えられる。しかし、十分な接種技術の水準が維持されるものであれば個別接種も勧められる。
A初回接種は、生後3か月から乳児期早期に実施する。0歳児接種率の目標値(例えば90%)を設定し早期接種に努力する。1歳半もしくは3歳児健診でBCG歴を確認し、未接種者には接種を励行する。また、初回接種の早期接種成績を集積する。
B初回接種の技術評価を実施する。1歳半もしくは3歳児健診でBCG針痕数調査を実施する。また、任意の地域においてサンプリング調査を実施し、BCG接種者に対して翌年ツ反応による技術評価を実施し、ツ反応成績を分析する。そして、初回接種の技術評価成績を集積する。
C小学1年生の再接種を廃止し、中学1年生の再接種は当分の間継続する。
D上記Cによる接種を受けた者については、1年後にツ反応を行い技術評価を実施する。この検査でツ反応陰性者には再度接種を行う。
E小学入学時にBCG接種歴のない者、患者接触者、医療従事者に対して、定期外接種を実施する。
F小児結核患者の発生に関する指定地域におけるサ−ベイランスを強化する。
G副反応調査を強化し、現場に必要情報を還元する。
H結核の関心低下に対して結核の関心を喚起する方法を強化する。
(5)研究課題
@BCG接種を中止した諸外国の経験も参考にし、わが国におけるBCG接種の存廃を決定する条件に関する研究を強化する。
A小学1年時のBCG再接種を廃止した場合の学校検診のあり方を検討する。また、学校検診発見患者の背景調査を実施し、学校検診廃止時の影響の推定を行う。
B小児結核患者は全国一律の発生ではなく、都市部において偏在傾向が強まるものと考えられる。今後の小児結核対策を考える上で、相当数の発生が予想される地域により重点的な対応が可能か検討する。また、小児結核の動向に関連すると思われる塗抹陽性、肺結核罹患率、親の世代に当たる年齢の結核罹患率、乳幼児髄膜炎罹患率などの疫学指標を参考に発生予測をできるかなど検討する。
CBCG接種が特に必要なリスク集団の規定に関する研究を行う。
D成人への再接種の効果について検討する。
E副反応調査を強化する方法を研究する。
F結核蔓延状況を改善するためには現行のBCG凍結乾燥ワクチンよりも効果的なワクチンの開発が必要である。現在、DNA vaccination やsubunit vaccineなどさまざまな新しいワクチンがデザインされており今後の発展が大いに期待されるところである。文 献
1) WHO: WHO Statement on BCG revaccination for the prevention of tuberculosis, Bull WHO.1995; 73(6):805-810.
2) Tala E, Romanus V, Tala-Heikkila M: Bacille Calmette-Guerin vaccination in the 21st century. Eur Respir Mon.1997;4:327-353.
3) 高松勇、亀田誠、豊島協一郎、他:小児結核の現状と今後の対策.結核.1995;70:57-65.
4) 松島正視:BCG接種の問題点, 小児科Mook, 23, 金原出版, 1982,177.
5) 厚生省BCG接種定期化調査研究会:結核および呼吸器疾患文献の抄録速報, 1975;26:197.
6) 森亨、山田祐子、青木正和他:最近のBCG接種によるリンパ節腫大, 日本医事新報.1987; 3288:45-50.
7) 青木正和:BCG(特集・予防接種−異常反応と対策).アレルギ−の臨床.1985; 5:20-23.
8) Lotte A, Wasz-Hockert O, Poisson N et al: Second IUATLD study on complications induced by intradermal BCG-vaccination, Bull IUATLD.1988;63(2):47-59.
9) Casanova JL, Blanche S, Fischer A, et al.: Idiopathic Disseminated Bacillus Calmette-Guerin Infection: A French National Retrospective Study, Pediatrics.1996; 98(4): 774-778.
10) Hart PD, Sutherland I: BCG and vole bacillus vaccines in the prevention of tuberculosis in adolescence and early adult life. BMJ.1977; 2: 293-295.
11) Fine PE M: The BCG story: Lessons from the past and implications for the Future, Rev of Inf Dis 11:supplement. 1989;2:5353-5359
12) 森亨:BCG接種の効果の証明(総説).資料と展望.1992;2:1-13.
13) Colditz GA, Brewer TF, Berkey CS et al: Efficacy of BCG Vaccine in the Prevention of Tuberculosis. JAMA. 1994;271:698-702.
14) 高松勇,井上寿茂,豊島協一郎, 他:最近のBCG接種の効果をめぐって. 結核.1995;70:561-566.
15) Romanus V: Swedish experiences 12 years after the cessation of general BCG vaccination of newborns in 1975, Bull IUATLD.1988; 63:34-38.
16) Trnka L, Dankova D, Machova A et al: Project on discontinuation of BCG primo-vaccination in newborn in Czechoslovakia. Bull IUATLD.1990; 65:36-37.
17) Wasz-Hockert O, Genz H, Landmann H et al: The effects of systematic BCG vaccination of newborn on the incidence of post-primary tuberculosis meningitis in childhood. Bull IUATLD.1986; 63:(4):49-51.
18) IUATLD: Criteria for discontinuation of vaccination programme using BCG in countries with low prevalence of tuberculosis, IUATLD資料.1994
19) Tala MH, Tuominen JE, Tala EOJ: Bacillus Calmette-Guerin Revaccination Questionable with Low Tuberculosis Incidence.AM J RESPIR CRIT CARE MED. 1998;157:1324-1327.
20) 森亨:結核感染を巡る諸問題(2),結核.1988;63:39-48.
21) 青木正和:第8章 一般病院での結核の院内感染防止策-6-3)採用時ツベルクリン反応陰性者へのBCG接種.結核の院内感染-改訂版-, JATA BOOKS No.12, 結核予防会発行. 1998.
3.化学予防
結核既感染者に対する発病予防には化学予防が行われる。原則的には、胸部X線等で結核を発病していないことが確認され、ツ反応等で結核感染が証明され、発病のリスクの大きい者に対して行われる発病予防法である。経過中は定期的な服薬確認と副作用のチェック、また、有症状時や服薬後に胸部X線で発病の有無の確認が必要である。
(1)現行の基準と実施率
わが国では、現在化学予防は、結核感染が最近あったと思われる者を対象にして、INH(INH耐性時にRFP)を6か月間投与する方法で行われている。その対象は年齢を29歳までとし、感染に関する基準は、感染源との接触、BCG接種の既往などを考慮し、ツ反応によって定められている1)。1997年全国で6172人が化学予防を指示されている。また、この普及率は地域によりまちまちで、人口10万対率の最高は11.89、最低は1.33である。実際の化学予防の適応は上述の基準が存在するが、今日のわが国においては化学予防が必要な者に確実に実施されていると言い難い。実際に現行化学予防基準を機械的に小児結核患者に適応すると、BCG歴なし・接触歴あり群以外では小児結核患者のうち約40%−50%が見過ごされることとなると言われている8)10)。実際の化学予防の判断においては、各症例毎に発病のリスクを具体的に評価していく個別的で柔軟な判断が求められる。
この背景には、結核感染はBCG未接種者であればツ反応陽性によって示されるが、最近の結核感染危険率の低下につれて、ツ反応陽性者の中に占める真の陽性者(本来の結核感染者の反応)の比率が低下し、逆にfalse positive (未感染者の偽反応)の比率が著しく増大しおり、ツ反応陽性だけを根拠にして結核既感染とは判定できない状況になってきていることがあげられる。また、広範なBCG接種の普及によりツ反応による結核感染の診断が困難となったことなども考えられる。
30歳以上の成人に対しては、副作用と診断の信頼性への配慮から化学予防の対象外とされてきたが、現在の30歳代は結核未感染者が多数を占めるようになってきており、中年者集団で集団感染も散見されるようになってきたことを考えると、化学予防適応年齢の引き上げについての検討が必要な時期にきている。また、30歳以上の成人でも明らかな感染暴露や特別なリスクのある場合(珪肺、腎透析や副腎皮質ホルモン剤治療を受けている者、HIV陽性者など)などには化学予防の適応が存在する。
(2)化学予防の効果
予防投薬によるINHの有効性は大規模な対照試験では結核発病を約50-60%減少させると言われている2)-4)。また、米国結核根絶諮問委員会勧告では、「予防投薬によるINHは結核発病を54-88%減らす。この効果のばらつきは主に服薬の規則性による。東欧のX線有所見者に対する試験では全体の効果は75%であったが、規則的に服薬した者では93%であった。また、規則的に服薬したヒュ−ストンの小児および養護施設の陽転者では98%有効であった。」と述べており5)、服薬が規則的であれば、その予防効果はかなり期待できると考えられている。また、その効果の持続期間は15年以上と言われている。
現在結核予防法では認められていないがINH以外の抗結核剤による化学予防の有効性が報告されている。1992年のホンコンからの成績は、珪肺患者を対象として検討されており、RFP単独3カ月投与は、3カ月INH+RFP、INH単独6カ月と同等であったと報告している6)。1998年のCDC勧告では、HIV陽性患者を対象にした研究において2剤による2−3カ月の化学予防(たとえば2カ月RFP+PZA処方)の有効性が示されている7)。わが国においても、感染源が耐性菌患者であった場合、RFPによる化学予防や多剤併用による化学予防を考慮しなければならない場合がありうる。
(3)小児への適応の留意点
小児結核児の多くは初期肺結核症であり、この病型は慢性肺結核症よりツ反応は有意に小さく、結核児のツ反応を判定する上で配慮しなければならない点である8)。また、発病率が高く、いったん発病すれば重症化しやすいことを考えると積極的な化学予防の活用が求められる。そして、化学予防の実施にあったては、各症例毎に、ツ反応の大きさだけにとどまらず、感染機会、年齢、BCG接種状況を参考にし、発病の危険を具体的に評価していく個別的で柔軟な判断が必要である9)。
(4)学校検診におけるツ反応強陽性者の扱い
学校検診などでツ反応の強さ・大きさから感染を疑い化学予防を実施しようとするときには、単に発赤径の大きさだけで判断するのでなく、@家族・学校等での結核家族からの感染機会、Aツ反応発赤径の度数分布図、B過去のBCG接種歴、ツ反応歴を詳しく調査する必要がある。すなわち、感染機会があり感染しておれば発病リスクは高いと考えられる。また、ツ反応発赤径の度数分布図で当該者の発赤径が集団全体として強い反応の中に位置するようであれば、過去のBCG接種によって強いツ反応を示している集団の中に属している可能性があり、一方、当該者の発赤径がBCG接種後の度数分布の山から大きい側に離れておれば、その者が所属集団の中でツ反応が特に大きいことを示し、感染の可能性を示唆する所見である。さらに、前回のツ反応から大きく増強した者やBCG未接種のツ反応陽性者は、感染者である可能性が大きいと考えられる。学校検診での強陽性者を医療機関に紹介する際に、以上のような解析資料を同時に提供できるようにすべきである。
(5)今後のあり方
@現行化学予防適応基準の予後成績を集積し、現行基準の妥当性を検討する。
A結核発病リスク集団においては、発病リスクに応じた新たな化学予防基準を検討し、その予後成績を集積する。
B規則的な服薬を確保するための管理方法を研究する。
C化学予防対象年齢の引き上げを検討する。
(6)研究課題
@化学予防の短期化、多剤併用療法での化学予防を開発し、その症例経験を集積する。
A耐性菌による感染時の化学予防を検討する。
B結核発病リスク集団の選択基準を明らかにする。[文 献]
1) 厚生省保健医療局結核・感染症対策室監修;命令入所及び初感染結核通知.命令入所及び初感染結核の取り扱いとその解説.結核予防会発行.1989.
2) Ferebee SH: Controlled chemoprophylaxis trial in tuberculosis. A general review. Adv Tuberc Res.1970; 17: 28-106.
3) Ferebee SH, Mount FW: Tuberculosis morbidity in a controlled trial of the prophylactic use of isoniazid among household contacts, Am Rev Resp Dis.1962;85:490-521.
4) IUAT: Efficacy of various duration of isoniazid preventive therapy for tuberculosis: five years follow-up in the IUAT trial, Bull WHO.1982;60: 555-564.
5) Centers for Disease Control: Screening for tuberculosis and tuberculous infection in high risk populations and The use of preventive therapy for tuberculous infection in the United States:Recommendations of the Advisory Committee for Elimination of Tuberculosis,MMWR.1990; 39 (no.RR-8):1-12.
6) Hong Kong Chest Service/Tuberculosis Research Center, Madras/British Medical Research Council. A double-blind placebo-controlled clinical trial of three anti-tuberculosis chemoprophylaxis regimens in patients with silicosis INHong Kong. Am Rev Respir Dis.1992;145,36-41.
7) Center for Disease Control and Prevention: Prevention and Treatment of Tuberculosis Among Patients Infected with Human Immunodeficiency Virus: Principles of Therapy and Revised Recommendations. MMWR.1998;47 (no.RR-20):1-58.
8) 高松勇、亀田誠、豊島協一郎他:小児結核の現状と今後の対策:結核.1995;70:57-65.
9) 高松勇:小児結核:臨床画像.1998;14(10)28-37.
10) 雉本忠市、黒川博、川崎一輝他:小児結核患者のツベルクリン反応の大きさ:INH予防内服新基準に関連して:日本小児呼吸器疾患学会誌.1991;2 (1) 24-27.4.感染防止
結核の感染は、特殊な場合を除いて結核患者が咳等により飛散させる結核菌飛沫核を吸い込むことにより生じる空気感染である。空気感染であるが故に感染性患者と直接接する場合はもとより、密閉された環境となる交通機関内(船舶・航空機等)・サウナ・娯楽施設等や、空調を共有する遠隔の部屋にまで飛散して感染させ得る。最近結核既感染率が低下していることから、若者の間の結核集団感染事例が増加しており、またそれにまき込まれる者の年齢層も30歳代以上に及ぶこともまれでない1)。また、最近は医療機関2)3)や、老人福祉施設における感染4)も大きな問題となっている。
多剤耐性慢性持続排菌者は感染性が低いと考えられていた時期もあったが、ニューヨークを中心として多剤耐性結核の集団感染がみられ、わが国においても集団感染事件が発生していること、ひとたび感染すれば治療困難となることから、今後は多剤耐性患者からの感染問題は重要となろう。
結核患者の感染性の大きさを示す指標として喀痰中最大ガフキー号数と咳の期間(月単位)をかけた指数が「感染危険度指数」として広く用いられており、その指数値が10以上となる症例を「最重要」と区分している5)。塗抹陰性で培養陽性群や、塗抹陽性でもガフキー1号または2号程度は、感染源としての危険度に関してはかなり低くなる。
以上のような、結核の感染・発病様式と、感染危険の度合いやわが国の結核の現状を勘案して、環境上の感染防止(作業環境管理)、個人の感染防止(作業管理)という観点から日本の結核感染防止のあり方について検討する。
(1)環境上の感染防止(作業環境管理)
1)患者の早期発見と適切な治療
結核を早期に診断しかつ適切な治療を行うことが、結核の感染予防にとって最も大切なことである。
2)感染性患者の隔離
感染性患者は一時的に入院隔離が必要であるが、薬剤耐性がない場合は化学療法開始から2週間〜1か月で感染危険性が急速に低下する。多剤耐性慢性排菌患者については、今のところ陰性化するまで長期入院体制を強化せざるを得ない。
3)医療施設等における感染予防
医療施設における感染予防対策については本学会予防委員会が「結核の院内感染対策について」の声明を出しており6)、それに沿ったものになるようにつとめることがまず大切である。ただし、将来は結核病室・病棟の構造上のより厳格な改善、換気改善、採痰ブースの導入等改善されるべき問題も残されている2)。
老人福祉施設においても、将来の施設設計にあたり空調や換気についても集団感染予防について配慮すべき時期にきている。
4)交通機関や娯楽施設における感染予防
航空機内や、船舶内にての集団感染事例もみられていることから、WHOは「航空機における結核感染防止ガイドライン」を公表している7)。そのなかで、過去3カ月以内に航空機を利用した者のなかに感染性患者がいたという報告があった場合、離陸前の待機時間を含めて8時間以上のフライトについては、その患者と同乗した乗客、乗員を追跡して感染の可能性を知らせることなどを求めている。わが国においても、長時間の航空機・船舶・長距離バス等についての交通機関に対しての結核感染対策ガイドライン作成についても考慮する必要があろう。サウナなど諸種娯楽施設における管理についても何らかの配慮を要する。
(2)個人の感染防止(作業管理)
医療施設における作業管理が最も重要となるが、これについても本学会が出した声明6)に準じる。特に感染性患者との接触時には一般の医療用マスクは感染防止の効果はほとんどないことより、結核菌防御用に作製されたN95マスクの着用促進を徹底したい。感染性患者が一般の医療用マスクを着用したり、咳をするときに口をティッシュとかタオルで覆うことは感染予防に有用であることから患者への教育は大切である。
医療従事者は感染の危険性がある患者と濃厚に接する機会が多いので、ツ反応の二段階試験を行い、結果を記録しておき、接触時に感染を受けた可能性があるか否かの判断資料とすることは大変重要である。
特殊な感染経路として耳鼻科医院が源となった中耳結核の集団感染事例や、関節腔内注入療法に際しての結核菌の接種が感染原因と推定されている骨関節結核の多発例の事例もみられていることから、医療器具を他の患者に使用する場合には常に感染性について細心の注意をはらうことも大切である。
(3)今後のあり方
@結核の早期診断が感染予防にとって最も大切なことであり、医学教育や医師研修等の中で結核に関する啓発をより強化する。
A結核既感染率が著しく低下している今日、医療従事者への感染・発病は深刻な事態を迎える可能性があり、環境管理・作業管理の徹底は急務を要する。
B交通機関や娯楽施設等における感染予防についてのガイドラインの作成が望まれる。
(4)研究課題
@感染・発病させた事例をRFLP分析等の手法も取り入れて詳細に分析し、それぞれについての改善策を検討する。[文 献]
1) 青木正和:結核集団感染.JATAブックスNo.13, 結核予防会.1998;1-93.
2) 青木正和:結核の院内感染.JATAブックスNo.12改訂版, 結核予防会.1998;1-123.
3) 宍戸真司、森亨:わが国の院内感染予防対策の現状と評価.結核.1998;73:178.
4) 森亨:老人施設での結核予防.複十字.1998;11:2.
5) 厚生省保健医療局結核・感染症対策室:結核定期外健康診断ガイドラインとその解説.財団法人結核予防会.1995;1〜103.
6) 日本結核病学会予防委員会:結核の院内感染対策について. 結核.1998;73:95-100.
7) WHO Communicable Disease Cluster: Tuberculosis and Air Travel. Guidelines for prevention and control. WHO/TB/98.1998;256.
X.結核管理
1.発生動向調査
(1)結核蔓延の疫学指標
これまで結核蔓延状況の最も正確な指標は、結核感染の発生頻度を表わす結核感染危険率とされてきた。しかしながら、日本のようにBCG接種率が高い状況では、結核既感染率を推定することが困難で、したがって感染危険率の推定も事実上不可能である。このため結核菌感染とBCG接種によるアレルギーを弁別し、BCG既接種集団での結核既感染率を明らかにできるあらたな検査方法を開発する必要がある。これは近年免疫学の進歩によってその可能性が徐々に大きくなりつつある。
また感染危険率に代わる、あるいはそれを補完する疫学指標を開発することも今後の疫学研究に求められる重要な課題である。
(2)結核発生動向調査システム(旧サーベイランスシステム)
結核発生動向調査は数回のプログラムの改良を経て、結核罹患動向を科学的に適確かつ迅速に把握するシステムとしてほぼ体制が整備された。また、各自治体においても行政全体での情報化の進展に伴い、こうした情報機器への対応も整備され、一部にはシステムを積極的に活用する機運が高まっている。
しかしながら、現在のシステムでは、各保健所にある機器は基本的には入力専用端末であり、地域保健対策推進に十分に活用できる状況ではない。このため、発生動向調査システムを、地域保健対策の推進に積極的に活用できるよう改善を加えることが望ましい。特に、地域の実情に応じてアプリケーション、アドイン・システムを構築することが可能な柔軟なシステムへと改良すべきである。
ただし、個人情報保護及び蓄積データの保護に関する万全のセキュリティ・システムを構築する必要がある。
(3)結核菌検索システムの改善
結核診断が菌検査結果優位となり、治療成績の確認の上でも菌検査結果の把握が疫学的状況を把握するためにより必要となっている。また、結核菌検査は迅速検査、遺伝子分析等バイオテクノロジーの進歩に伴い、新たな方法が利用されている。特にRFLP分析は、結核の感染経路等の検索にきわめて有用であり、今後の結核対策の推進に大いに資すると考えられる。しかしながら、結核予防法における菌検査結果報告制度は、必ずしも医療機関の最近の実情に即したものとは言い難い。
そこで、最新の菌検査方法を導入した新たな菌検索システムを、結核予防法に基づく届出制度の改善も含めて検討すべきである。同時に、菌検査精度管理の促進を図ることが重要であり、特に保健所ごとの検査件数が減少しつつある現状をふまえ、地方衛生研究所における検査体制の強化を図るべきである。
(4)集団感染リスクの分析
近年、結核集団感染が急増し、特に保健医療福祉施設、高齢者施設における集団感染事例が注目を集めている。集団感染は、高齢既感染者と若年未感染者の共存という疫学的状況に加えて、さまざまな社会的要因が複合して発生させている。このため、集団感染リスクを疫学的、社会的、人為的要因を総合して分析することが求められている。しかしながら、これまでの結核予防法に基づく集団感染届出制度は、そうしたリスクを解明するためには、内容的にもまた、制度的にも十分とは言えない。
そこで、集団感染事例および定期外集団検診を必要とする事例の情報を制度的に収集分析するシステムを構築し、集団感染リスクの分析を行うべきである。
(5)結核対策の新たな評価指標の開発
最近、予防可能例、治療完了率等、結核対策を評価する新たな指標が開発されつつある。短期強化療法の定着、新たなリスクグループ、デンジャーグループの出現等の近年の結核罹患状況に即して、こうした指標のより詳細な改良も含めて結核対策を正確に効果的に評価する指標の開発をすべきである。平成8年には、活動性分類、登録管理基準も改訂されており、これもふまえて、新たな指標を構築すべきである。
(6)地域保健体制の整備
地域保健体制の改革に伴い、保健所では従来の検診業務等の直接的な対人保健サービスに加えて、調査研究等の広域的専門的な業務を通じて地域保健の全体的な推進を図る役割が課せられた。また、保健医療行政全般においても、Evidence-Based Policy Making(実証に基づいた政策決定)の概念が推奨され、科学的事実に基づいた施策の展開が求められている。
また、感染症新法においても、保健所が地域の感染症対策拠点として疫学的専門能力を持つ機関と位置づけられている。しかしながら、現状の保健所の体制は必ずしも十分とはいえず、研究機関等の支援が必要である。
このため、結核対策においても積極的に調査研究を行える保健所の体制を総合的に支援すべきである。
(7)研究・医療・行政機関の連携の推進
地域の結核対策を推進するための感染動向の調査分析にあたっては、地域の結核治療の拠点となる医療機関、結核または疫学研究機関、および行政機関、特に保健所の積極的な情報交換が必要である。このため、結核診査協議会、地域保健医療計画等を活用して、地域における関係機関の連携を推進し、調査分析体制の確立を図るべきである。
(8)今後のあり方
@結核感染動向予測調査システムの改良
A結核予防法に基づく菌検査結果届出制度の改善
B地域における総合的な動向予測体制の整備
(9)研究課題
@結核問題、結核対策を評価する新たな指標の開発
A疫学的状況を正確に評価できる菌検査報告システムの開発
B集団感染予防対策に資するリスクの分析
2.結核の集団発生と院内感染
(1)結核集団発生の状況
結核の集団発生は結核が減少し、感染危険率が0.1%程度になった時期に目立つという1)。わが国では1980年代より集団発生の報告が増え、従来の小、中学校における発生から高校、大学や若者の多い事業所、また医療機関内での発生へと変化し、最近では老人ホーム入所者の高齢者の集団発生も報告されている。
集団発生の背景として既感染率の世代間の格差があり、これまでは中高年の患者から若年者へ感染を及ぼすという構図があった。現在は40歳でも約9割が未感染者で、今後高齢者でも既感染率が年々減少していくため、集団感染がすべての年齢層で起こりうる状況になっている。
一方、結核に対する関心が薄れ、患者の受診の遅れや医師の診断の遅れがあり、感染性のある患者が未発見のまま放置され、感染を広げている状況がある。
(2)結核院内感染の状況と要因
結核の集団発生の中で院内感染は予防可能な要因が多く改善すべき課題も多い。医療従事者の中でも臨床検査技師、病理解剖従事者、看護婦では結核感染、発病の危険が高く、看護婦では一般女性に比べ約2倍の発病率と報告されている。また院内感染の多くは結核専門病院よりもむしろ一般病院や精神病院で起こりやすく、入院患者が感染源となっていることが多い2)。
院内感染の増加の要因として、上記の集団発生が起こる背景に加え、@医師の結核に対する認識不足により入院患者の結核診断が遅れる、A患者や検体の取り扱いに対する感染防止対策(作業管理)が不備である、B細菌検査室、気管支鏡検査等における空調設備など作業環境管理が不備である、C医療従事者の業務に応じた健康管理が不十分である、等が指摘されている。
また精神病院では長期入院の患者が多いにもかかわらず、症状出現時の内科的な健康管理が十分でなく、またX線撮影装置が未設置のため長期にわたり胸部検診が行われていないこともあり、患者の早期発見が困難な状況にある。
(3)院内感染対策
医療施設等のなかで結核患者が発生したときには「結核定期外健康診断ガイドライン」にそって保健所とともに定期外健康診断を確実に行うべきである。
集団発生を未然に防止するため、日頃から結核発病のリスクのある入院患者には十分に配慮し、管理を行うことが最大の予防策となる。各医療機関の感染症対策委員会では本学会予防委員会の声明3)をもとに施設の状況を点検し、感染リスクに応じた対策を立てなければならない。
老人施設や刑務所などの収容施設の入所者は結核ハイリスク集団であり、管理者は入所時の既往歴の調査、日常の健康管理、健康診断および事後措置を徹底し、入所者の結核の早期発見について常に留意しなければならない。
医療従事者、施設職員にはツ反応検査を含め定期検診の意義を理解させ、確実に実施することが必要である。
(4)今後のあり方
@療養型病床群、老人保健施設などの長期療養施設、精神病院の患者や入所者に対する定期検診の制度化を検討する。
A管理者は結核の職業感染防止の観点に立ち、職員の研修、健康管理、感染防止のための施設整備に努める。
B保健所は結核対策の専門機関として、今後増加が予想される広域的な集団発生に際しても調査および対策が行えるよう連携を強化する。
(5)研究課題
@結核菌DNAのRFLP分析を利用して、感染源、感染経路、感染拡大の要因など集団感染のメカニズムについてさらに研究を進める。
A高齢者の結核感染の状況、化学予防の適応について検討する。
B多剤耐性結核菌による集団感染対策について検討する。[文 献]
1. 青木正和:結核集団感染,JATAブックスNo.13,結核予防会.1998;1-93.
2. 青木正和:結核の院内感染,JATAブックスNo.12改訂版,結核予防会.1998;1-123.
3. 日本結核病学会予防委員会:結核の院内感染対策について.結核.1998;73: 95-100.3.保健所と結核診査協議会
(1)保健所の役割
保健所は結核患者の発生動向および治療に関する情報の把握、患者管理の実施、定期外検診の実施など地域における結核対策の中核的な拠点として以下のような役割を担っている。今後はこの機能が質的に低下することを防止し、さらに強化すべきである。
@結核に関する情報を集約し、地域の関係機関や住民に情報発信を行うこと
A結核診査協議会を通じて結核医療の基準の普及
B保健婦による保健活動の効果に着目した患者管理の徹底
C接触者検診を含む定期外検診の適切な時期、方法による実施
D都道府県型保健所にあっては管内市町村の結核対策の指導
E学校保健、産業保健との連携
F地域住民に対する結核予防に関する知識普および結核後遺症としての低肺機能患者のリハビリ指導
G地域の医療関係者に対する結核に関する研修会の開催
(2)結核診査協議会
結核診査協議会は、公費負担申請書の診査を通じて結核の診断・治療の精度を高く保つとともに、結核医療の基準の普及に努める必要がある。このため、意見書等を有効に活用して主治医との連絡を密にし、最新の治療情報を提供することが望まれる。
また、結核専門病院の協力を得て、地域の結核対策を推進する保健所のシンクタンク的役割を果たすなど、結核診査協議会の活性化が望まれる。
(3)今後のあり方
@都道府県ごとに1ないし数か所の結核対策における基幹的保健所を整備する。
A今後各都道府県ごとに整備される結核治療拠点病院と連携を図りつつ、管内の医療機関の結核治療に関する相談、指導を行う。
B衛生行政に従事する結核対策技術者全般の資質の向上を図るとともに、指導的役割を果たす結核専門技術者(医師、保健婦)を養成する。
C結核診査協議会の活性化を図るため、結核対策に関する助言を保健所に行うなど、その位置づけおよび機能を明確にするとともに、新たに果たすべき役割を検討し、法定化を図る。
4.外国人結核と国際協力
(1)外国人結核
在日外国人は数的には少ないが、結核罹患率が高く、治療完了率が低いことから結核対策上のハイリスク群の一つである1)。罹患率は全体としては日本人の2〜3倍であるが、出身国、滞在期間により水準は異なっている。入国後登録される患者のうち、30〜50%はすでに何らかの所見があり、入国後の早期に検診すれば診断に結びつく。日本語教育施設を始め、職場、地域での早期の検診が必要である。入国時は異常が無くても、その後発病することも考えられるので、ハイリスク群としてフォローアップが必要である。菌陽性率も含め発見時重症である割合が高く、発見が遅れている可能性が大きい2)。
外国人結核患者において治療完了率が低い理由は、治療中の帰国のためもあるが、脱落も多く、彼らに法的、経済的、社会的な障害が伴っていることが問題である。さらに日本における医療の不備も否定できない。
言語上の困難を理解した対応、結核に関する基礎知識、日本の結核対策に関する知識等の啓発も必要である。罹患率が日本より数倍低い西欧諸国では、新登録患者の半数近くを外国人が占めているが、日本においても今後外国人の相対的割合が増えることが予想され、疫学的状況、治療状況などの継続的情報の把握(サーベイランス)や分析が重要である2)。
(2)国際協力
世界の結核患者の95%以上は開発途上国で発生しており、その問題の大きさ、人口の流れ、特に途上国における保健組織の不備や経済力の限界などから、国際的な協力・支援無しに各国が自国の結核問題を解決することは困難になってきている3)。近年、旧ソ連諸国や東欧諸国でも、結核問題が悪化しているため、ヨーロッパ諸国間での国際協力が必要になっている4)。日本は経済的、技術的貢献を結核対策の分野においても発揮するなど、果たすべき国際協力への期待や重要性は増加するであろう5)。世界保健機関を始め、国際機関での貢献も期待される。
その内容は、対策分野の技術協力(短期・長期の人材派遣)、人材育成(国際研修)、国際結核情報管理(国際サーベイランス支援)、国際共同研究として先進国間での研究協力、情報交換、途上国での研究協力など研究を主体とした協力などがある。対策分野では、技術協力の現場経験に基づき、社会・経済的制約下における効果的対策の開発、そのためのOR(オペレーショナルリサーチ)、HIV流行地における疫学・対策研究など強化する必要がある5)6)。
(3)今後のあり方
@外国人結核情報のサーベイランスシステムを確立する。
A「外国人結核対策ガイドライン」を作成する。
B結核や日本の医療について、外国人向けの教育や啓発活動を行う。
C結核対策の国際協力に関する一般市民の関心を高めるよう啓発を行う。
D世界の結核問題に関する情報を常時収集普及する。
E国際協力に携われる人材の育成を行う。
F結核対策に関して先進国間および開発途上国との国際共同研究を促進する。[文 献]
1) 厚生省保健医療局結核感染症課・結核研究所:平成8年度在日外国人結核実態調査報告.資料と展望.1998;27:47-63.
2) 石川信克:外国人結核の背景と対策.結核.1995;70(12):691-703.
3) Global Tuberculosis Programme/WHO:Global tuberculosis control WHO report 1998.
4) Rieder H.L., Zellweger J-P., Raviglione MC, et al.: Tuberculosis Control in Europe and International Migration. Eur Respi J. 1994; 7:1545- 1553.
5)シンポジウムW.結核対策分野での国際協力−世界の結核戦略と日本の役割(座長:石川信克).結核.1994;69(1):31-53.
6) 青木正和:DOTS戦略の生成と発展.資料と展望.1997;22:1-10VI.教育と普及
1.結核教育
平成9年度の結核発生動向調査年報集計結果(概況)によれば、結核の新登録患者数、全国罹患率いずれも前年に比べて増加している。ほぼ40年ぶりのことであり、今後こうした傾向が続くことが憂慮される。今日においても結核の重要性は変わることはない。受診や診断の遅れがないように、結核を再認識し、学部教育や臨床研修で結核が軽視されることなく取り上げられ、教育内容のいっそうの充実が望まれる。
(1)医科系大学での結核教育の現状
日本結核病学会では、1986年の総会シンポジウムで「結核の教育は如何にあるべきか」が取り上げられている1)。さらに1997年の総会ラウンドテーブルディスカッションでは、「医学部と医療現場における結核の"教育"をめぐって」が論じられている2)。1997年の調査によれば、全国80の医育機関のうち、結核病床ありとしたのは22施設(28%)、なしとしたのが58施設(72%)であった。最初から結核病床をもたない大学は半数の40施設で、途中で廃止された大学は18施設であった。1986年の調査結果と比較すると、結核教育が行われる施設の比率が減少してきており、その数も減ってきている。その傾向は外科系(外科、整形外科、泌尿器科)で著しい。
(2)医科系大学における日本結核病学会会員数
1998年の日本結核病学会事務局資料によれば、医科系大学所属の会員数は、基礎と臨床いずれにおいてもそれぞれの領域の会員数の20%台である。この比率が高いか低いかは議論の分かれるところであるが、80の医科系大学で臨床に携わる日本結核病学会会員が1人もいないのが6校(8%)、1名が13校(16%)、2名が15校(19%)であり、結核教育に十分な教育体制がとられていない医科系大学が少なからず存在することがうかがえる。
(3)結核病床の有無による教育の実態
結核病床をもつ大学病院では、結核病床をもたない大学病院に比べて、当然のことではあるが充実した結核の臨床教育が行われている。呼吸器疾患の鑑別診断で結核は重要な疾患である。臨床実習で結核症例を実際に受け持つことの教育効果は大きく、将来臨床医として結核を見落とすことを防ぐことにもなろう。本来の疾患を大学病院で治療すべきところを、結核が合併しているために療養所に入院しなければならない症例が散見される。こうしたことからも、大学病院に結核病床をもつことが望まれる。
(4)結核の卒後臨床研修
外来で結核と気がつかないまま診断の遅れがみられることや、入院時には鑑別診断で結核とは考えられなかったが入院後に排菌が明らかになることや、他疾患で治療中に結核が悪化して排菌が認められるようになることは臨床の場でときにあろう。こうした場合、結核病床のある病院で研修した経験をもつ医師は、鑑別診断上の結核の重要性、あるいは結核を発症しやすい状況などに対し十分な認識を有しており、診断の遅れなども少ないと考えられる。
結核病床をもたない大学病院でも、卒後研修期間に結核病床を有する病院で、結核を研修するカリキュラムを組み込むことが可能である。こうした配慮は、医育機関における結核研修の機会が減っている現状を考えると、考慮すべき課題である。
(5)他の医療従事者への教育
医師の教育と同様、あるいはそれ以上に看護婦、保健婦、検査技師等の職種に対する結核教育の実状は、教育施設間の差が大きく、また全般的に貧弱である。また結核研究所における保健所保健婦を主たる対象とした結核対策の実務研修を例外として、これらの職種に対する卒業後の結核に関する教育の機会も散発的なものしかない。こうした状況のなかで本学会総会で看護婦・保健婦の部会がもたれるようになったことは、看護界に対する今後の影響力という点で注目に値する。このような動きにならって、今後ともこれらの関連職種、その教育施設に対して効果的な働きかけをますます強める必要がある。
(6)結核教育資料の充実
日本結核病学会教育委員会は1981年「結核症の基礎知識」を作成し、1988年に改訂するとともに「結核教育用スライド集」の作製を行い、医学生ならびに医療関係職種に対する結核症の教育を目的として関係各方面に提供してきた。結核症をめぐる学問の進歩と環境の変化に対応するため、新たに1997年に改訂が行われた3)。最新の成果が盛り込まれているので、活用されることを望むものである。
(7)今後のあり方
@大学、看護婦養成機関などにおける結核教育のいっそうの充実が望まれる。
A結核の教育・研修には結核病床が不可欠であり、すべての医科系大学と研修の中核となる総合病院に結核病床を確保する努力が必要である。[文 献]
1) シンポジウムT.結核の教育は如何にあるべきか(座長:寺松孝).結核1986;61:515―534.
2) ラウンドテーブルディスカッション―医学部と医療現場における結核の"教育"をめぐって(司会:山本正彦、浅川三男).結核.1998;73:17―35.
3) 日本結核病学会教育委員会編:結核症の基礎知識.結核 1997;72:523―545.2.普及啓発
(1) 普及啓発の必要性
結核が患者個人および周囲の人々に与える心理的、社会的な影響は時代とともに変化している。その中で結核や結核患者に対して必要以上に畏れず、しかも決して侮らずに、偏見を持たないようにして、その問題に最も適切な対応が行われるようにすることが、結核に関する社会教育の最も重要な目標である。
(2) 今後のあり方
上記のような普及啓発のために以下のような活動がそれぞれの関連機関で行われるよう、本学会は協力と支援を行うことが必要である。
@結核予防婦人会等一般住民団体への支援を行う。
A一般住民、事業所等のための結核に関する啓発を目的とした教育媒体の開発、配布を行う。
B民間機関による結核対策の国際協力の推進に協力する。
Cメディアへの働きかけを強める。
D関連医療保健職能団体との連携を進める。Z.まとめと提言
先に本学会は1991年に「1990年代の結核対策と研究の展望」を発表した。これは実際には90年代を越えて今後の結核対策・研究を展望したものである。さらに公衆衛生審議会結核予防部会が1998年7月に「当面の緊急課題」を提言し、厚生省はこれを受けて具体的な方策を打ち出している。
今般、本学会はこれらに加えてさらに中長期的な結核対策・研究の課題を検討した。1.緊急に行うべき結核対策
1996年以降のわが国における結核罹患率の逆転上昇は、しばらく前から起っていた高齢者世代からの感染伝播が顕在化した結果とみるべきである。この状況が続けば、罹患率の上昇が今後もさらに持続することになり、対欧米格差の早期の解消もおぼつかない。この事態をできるだけ早く脱出すべく、ここ数年はとくに対策努力が強化されることが必要であり、さらにその後のより順調な低下を目指して合理的な対策の維持が望まれる。
このような観点から、各章で論じられた多くの課題から緊急に行うべきものを以下に要約して掲げる。
@中高齢者に対する化学予防を含めた包括的な発病防止策を普及する。
A病院をはじめ施設内で起こる院内感染に対して体系的な予防措置をとる。
B結核予防法で補助される医療内容の一層の適正化を推進する。
C結核入院施設の病床数およびその機能について指針を策定し、合理的な配置と運営を促進する。
D小規模事業所の従業員に対する健康診断実施を推進する。
E「定期外健康診断ガイドライン」を改訂し、その適正な実施を確保する。
F結核発生動向調査の精度を向上させる。
G保健所における結核対策業務が質的に低下しないよう配慮する。
H医学教育の場で結核が適切に扱われるようにする。
I結核の基礎研究、管理的研究に対する政府補助金を確保する。
J日本の結核対策および結核分野での国際協力に関する普及啓発活動を効果的に行う。2.今後推進すべき研究課題
結核対策を支え、推進するための研究は、基礎的研究および応用的研究の両分野にわたり多くの緊急の課題を持っている。1980年代以降、欧米では結核研究の再興がみられ、顕著な成果が挙げられたが、日本では比較的平静に、いわば不活発に経過している。今後は研究それ自体の活性化とならんで研究者の確保も大きな課題であり、これについては上記1.で述べた結核対策の推進と密接に関連するものである。
以上のような観点から、今後の結核研究の重要課題について要約する。
(1)診断
@新しい検査、診断の技術に関する体系的な技術評価を行う。
A広く用いられている核酸増幅法による結核菌検査について精度管理を導入する。
BPPDを用いる皮膚反応に代わる結核感染診断の方法を開発する。
C新しい免疫学的な結核の診断技術を開発し技術評価を行う。
(2)治療
@PZAを用いた治療法を早期に普及させる。
A治療試験の国際的な共同研究に積極的に参加する。
BHIV感染結核の予防、早期診断、治療の研究を行う。
C多剤耐性結核治療のための新しい化学療法、免疫療法の開発を行う。
D結核性慢性肺機能障害者の包括的な医療・ケア体制を確立する。
E分散型結核病床での結核診療の支援体制を確立する。
(3)予防
@小学校1年生、中学校1年生へのBCG再接種を廃止することの影響について研究する。
A乳幼児期におけるBCG接種の技術評価の方法を確立する。
BBCG接種の効果を見るための適切なパラメーターを確立する
C化学予防の適応基準を再検討する。
Dより短期間で効果のある化学予防の方式を開発する。
(4)健康診断
@定期検診の対象年齢の下限を40歳にすることの是非を検討する。
A包括的なハイリスク集団検診の体系について検討する。
(5)教育・研究体制
@医育機関での結核教育に用いる教育媒体の開発と普及を行う。
A結核に関する普及啓発活動を活発にするために学会、政府、民間機関が協力して努力する。
日本結核病学会予防委員会 委員長 志村 昭光 委 員 立野太刀雄、 阿彦 忠之、 志村 昭光、
前田 秀雄、 土屋 俊晶、 下方 薫 、
亀田 和彦、 宍戸 真司、 津田 富康 臨時委員 森 亨 、 山岸 文雄
石川 信克、 犬塚 君雄、 川城 丈夫、
倉島 篤行、 古賀 宏延、 佐々木 結花、
鈴木 公典、 高松 勇 、 仲宗根 正、
町田 和子、 山下 武子(出典:結核.Vol.74, No.8:623-652. 1999)
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