医療関係者の結核予防対策について
平成5年9月
日本結核病学会予防委員会

  
 近年, 医療関係者の結核感染・発病のリスクが一般住民のそれよりも高いことが知られるようになってきた。これは若年者の 中の未感染者の役割が増大したこととあいまって, 結核の診断が遅れがちになっていること, 重症で発病する結核患者が一向に 減らないこと, そして恐らくはBCG接種による免疫が不十分な者の割合が多くなっていることなどがその背景にあるものと考え られる。
 このように医療関係者は結核に感染し発病する危険が大きい一方, 他に感染を及ぼす恐れの大きい職種であることからも, その 結核予防に関しては特別の措置が講ぜられるべきである。当委員会は関連する現状を分析した結果, 今後の予防対策の指針を示す こととした。

1.対策の現状
 ここで対象とする「医療関係者」には医療に携わるすべての職種を含む。
 医療関係者には他の職種と区別される結核予防のための特別な法的な規制はなく, 結核予防法に定められた以外の結核予防対策の 実施は管理者の裁量にゆだねられている。その結果, 医療関係者の入学時・採用時ならびに定期健康診断の実状は内容的にかなり不 十分な施設の多いことが懸念される。
 また医療機関で結核患者が発生した場合, 患者と濃密な接触があり感染の危険度が大きい職員に対しては当然なんらかの措置が 必要であるが, 定期外健康診断などの実施は十分なものとはいい難い。

2.勧   告
 (1) 対策実施の義務と監督責任について
1.医療機関の管理者は, 結核予防法及び労働安全衛生法などに基づく各種の健康診断の受診機会を確保し職員などの安全衛生 管理の徹底を図らなければならない。
 2.医療関係者養成施設(看護学校など)の管理者は,結核未感染者の増加に鑑み医療機関などでの実習前にツベルクリン反応 検査及びBCG接種などの必要な措置を講じなければならない。
 3.医療機関においては「結核感染防止委員会」(仮称)またはこれに相当する組織を設置し, 結核感染の未然の防止と患者発生 時の組織的な対応にあたることが望ましい。
 4.保健所長は医療機関において結核患者が発生した際には, 「結核定期外健康診断ガイドライン」に基づき適切な措置を講じ なければならない。
 (2) 定期健康診断・予防接種
 医療機関などにあっては法令に基づく健康診断の確実な実施はもとより, 結核の感染ならびに発病の防止の効果を一層確かなもの にする方策を講ずべきである。
 @医療関係者養成施設(看護学校など)
 1.入学時に結核の既往歴ならびに過去における結核の定期及び定期外健康診断と予防接種の成績を把握する。
 2.入学時の健康診断にはツベルクリン反応検査を実施し, その結果が陰性及び結核未感染と考えられる者にはBCG接種を行い 翌年再度ツベルクリン反応検査を行う。
 3.入学時ならびに定期健康診断に際しては, 年齢(19歳未満の者を含む)及びツベルクリン反応検査の成績にかかわらず胸部 エックス線検査を実施する。
 A医療機関
 1.採用時に結核の既往歴ならびに過去における結核の定期及び定期外健康診断と予防接種の成績を把握する。
 2.雇入時の健康診断に際し30歳未満の者にはツベルクリン反応検査を実施し, その結果が陰性及び疑陽性の場合は概ね2週間 後に再度ツベルクリン反応検査を行い, 再び陰性及び結核未感染と考えられる者にはBCG接種をする。このときBCG接種を受けた 者には1年後にツベルクリン反応検査を実施する。
 雇入時ならびに定期健康診断に際しては, 法令の定めにより全員に胸部エックス線検査を実施する。
 (3) 定期外健康診断
 医療関係者が結核を発病した場合, または受診中の患者が結核と診断され職員への感染の危険度が大きい場合は, 管理者は所轄 保健所へ通報するとともに院内に設置した結核感染防止委員会で検討に付する。
 委員会は感染源の確認, 未発見患者の追求, 被感染者の発見, 関連した情報の収集, 今後の対策などについて検討するが感染 源の人権とプライバシーに十分な配慮を要する。
 これらは保健所が「結核定期外健康診断ガイドライン」に基づいて行う一連の措置への積極的な協力の一環として行う。
 (4) 化学予防
 1.30歳未満の者であって, 入学時または採用時の胸部エックス線検査で陳旧性結核の所見を認めかつ治療歴もしくは化学予防 歴のない場合, 及びツベルクリン反応検査の発赤径が40mm以上あり発病の危険が大きいと考えられる場合には必要により化学予防 を行う。
 2.医療機関での患者発生に際しての定期外健康診断で結核感染の疑いがある者には年齢にかかわらず化学予防を実施することが 望ましい。
 (5) 流行監視
 1.結核感染防止委員会は, 当該施設関係者の入学時, 雇入時及び定期健康診断の受診状況及び結果を毎年精査し院内感染の 有無を判定する。
 2.院内に結核感染を認めた場合は直ちに所轄保健所へ通報し, 関係者に対し必要な措置を行わなければならない。

3.その他
 (1) 医療機関内感染防止対策マニュアルの作成
 医療関係者の結核感染及び結核発病の未然防止と集団感染防止の観点から, 「感染防止対策マニュアル」の作成を本委員会において も検討する。
 (2) 結核菌検査などに関する感染防止
 結核菌や結核菌を含む検体を扱う職員の感染防止については, 設備・操作の面に関して日本細菌学会及び日本病理学会の安全基準 などを遵守する。
 (3) 医療関係者に対する啓発
 都道府県は医師会などの協力を得て, 結核対策特別促進事業などの活用を図ることにより, 医療関係者に対する例えば次のような 研修会などを実施する。
 1.医師に対する結核講演会の計画的な開催
 地区医師会単位の講演会, 二次医療圏単位の講演会, 県下全域の講演会
 2.医療関係職種に対する実務的研修会の計画的な開催
 検査技師の結核菌検査手法, 看護婦・保健婦・衛生管理者などの結核関連研修
 以上


日本結核病学会予防委員会
委員長 志村 昭光
委  員 荒川 正昭  五十里 明  石橋 凡雄  大島 駿作
鎌田   達  久世 彰彦  佐藤   博   森    亨*  柳川   洋
(*印:前委員長)
前委員 永井 明彦  本宮 雅吉

(出典:結核.Vol.68, No.11: 731-733. 1993)

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