日本結核病学会治療委員会 はじめに
結核医療の最も主要な薬剤であるイソニアジド(INH)やリファンピシン(RFP)が、発熱、発疹などの副作用のため使用中止に至ることは、治療上大きな損失でありこの対策が望まれている。このような症例に対して考えられることは、代替え薬剤の使用または減感作療法であるが、前者に関しては現在医療保健上使用できる有効な他剤がなく、後者の減感作療法についても一定の施行基準がない。そこで、日本結核病学会治療委員会では抗結核薬の減感作療法に関するアンケート調査を行い、その結果を参考にして減感作療法のガイドライン(試案)を作成したので報告する。
対象と方法
1)第1次アンケート調査
a)対象:結核医療に従事している全国国立療養所の医師を対象とした。
b)アンケート調査の内容:@1993年の1年間に経験したINH,RFPの副作用の有無、
A減感作療法の経験の有無、
B減感作療法の効果、
C減感作療法に適すると思われる副作用、
D減感作療法の初回投与量、
E増量の間隔、
F増量の幅、などをアンケート調査した。2)第2次アンケート調査
a)対象:減感作療法の経験例を持つ上記医師を対象とした。
b)アンケート調査の内容:経験例での実際の減感作の方法を調査した。成績
1、第1次アンケート調査成績
100名の医師から、アンケート調査の回答を得た。1)1993年の1年間にINHあるいはRFPの副作用を経験したことがあるか?
a)INH:経験したことがあると答えた医師は64名(64%)で、経験しなかったと答えたものは35名(35%)であった。(不明1名)。
b)RFP:82名(82%)が経験し、18名(18%)は経験しなかったと返答した。2)過去に減感作療法を行ったことがあるか?
a)INH:「あり」は49名(49%)で、「なし」は48名(48%)、「不明」は3名であった。
b)RFP:同様に、「あり」は69名(69%)で、「なし」は30名(30%)。「不明」は1名であった。3)減感作療法の効果は?
a)INH:「あった」と答えたものは49名中39名(80%)、「なかった」は4名(8%)、「あったこともあるし、なかった 場合もある」は3名(6%)であった。(「不明」3名)。
b)RFP:「あった」は60名(87%)、「なかった」は5名(7%)、「両者」は4名(6%)。「不明」はなしであった。4)どのような副作用に対して減感作療法を行うか?(滅感作療法の適応は?)
薬疹が最も多く67名(67%)で、次いで発熱、肝機能障害がともに61名(61%)であった。5)減感作療法の初回投与量(initial dose)は?
a)INH:1mgから100mgまでいろいろであったが、100mgとするものが最も多く、次いで50mg、10mgであった。
b)RFP:同様に幅が広くいろいろであったが、150mgが最も多く、次いで50mg、25mgであった。6)増量の間隔は?
a)INH:3日毎に増量すると答えたものが最も多く、次いで7日毎であった。
b)RFP:7日が最も多く、次いで3日であった。7)増量の幅は?
a)lNH:100mgずつ増量と、倍量ずつ増量がほぼ同数であった。
b)RFP:150mgずつ増量と倍量増加がほぼ同数であった。以上のアンケート調査の結果から、半数またはそれ以上の医師が減感作療法を経験し、かなり有用であったことが明らかになったが、逆に実際の施行方法には一定の基準がないことも示された。
そこで、第2次調査として、実際の施行例についてアンケート調査した。
図1 INHの減感作の実際例 図2 RFPの減感作の実際例 ![]()
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2.第2次アンケート調査成績
その結果を図1、図2に示した。
INH:発熱(F)に対して6例、発疹(Ex)に対して4例、両者(F、Ex)に対して2例。失敗中止(−−−線で示す)1例の計13例である(図1)。失敗中止例以外はいずれも成功例であるが、初期投与量も増量幅、期間もいろいろであることが分かる。第1次アンケート調査で最も多く答えられた初期投与量100mgは、INH1錠が100mgであるので、1錠、2錠、3錠と増量する方法であろうと思われるが、実際の施行例では初期投与量100mgは13例中4例のみで、その他はより少量から減感作が開始されていた。
RFP:発熱(F)8例、発疹(Ex)5例、両者(F、Ex)3例、失敗中止2例(いずれもEx例で、−−−線で示す)、計18例である(図2)。初期投与量、増量幅、期間などはINHの場合より比較的均一であったが、それでもなお減感作の方法に幅のあることが明らかであった。
減感作療法の試案
表 INH,RFPに対する
減感作療法の試案![]()
これらの成績を参考として、INH,RFPの両薬剤に対する減感作療法のガイドライン(試案)を作成してみた(表)。
対象とする副作用は発熱と発疹であり、アンケート調査でみられた肝機能障害は除外した。その理由は、肝機能障害が必ずしもアレルギー性機序のみによるのではなく、いわゆる薬剤の toxic effects によることもあり、その場合には減感作療法の適応にはならないと考えたからである。
実際の方法は、初期投与量、増量の幅、増量の間隔などがなるべく単純で使用しやすいように、また減感作が2週間程度で終了することを条件に作成した。
まず副作用(発熱 and/or 発疹)が出現した場合には、速やかに当該薬剤を中止し、必要に応じて副作用に対する適正な治療を行う。同時に、可能な限りリンパ球刺激試験(DLST)や白血球遊走阻止試験(LMIT)を行い、原因薬剤を同定する。その結果、あるいは臨床状況を勘案して、原因と考えられる薬剤について副作用が改善した後、下記に示すような方法によって減感作療法を施行する。
a)INH:表、図1に示すように、25mgより開始し、50mg,100mg,200mg、300mgと増量するが、200mgまでは各々3日間分1で内服し、13日目で常用量の300mgとする。常用量を400mgとする場合には、300mgを3日間内服し、16日目で400mgとする。
b)RFP:同様に25mgで開始し、50mg、100mg、200mg、300mg、450mgと増量する。300mgまでは各々3日間分1で内服し、16日目で常用量の450mgとする(表、図2)。
上記の方法は、実際に行われた減感作療法を参考に、人為的に作成したものであり、今後の症例の集積によって改善される可能性もある。また、上記の方法によっても同様な副作用が出現し、不成功に終わる場合もある。
なお、減感作によってショック、溶血性貧血、間質性肺炎、腎不全、紫斑などが出現した場合には、以後、当該薬剤の使用は中止する。
(アンケート調査に御協力戴いた、緒核病床を有する全国国立療養所の諸先生に深謝致します。)
文献
1)青木正和訳:国の結核対策計画(NTP)での成人と小児の結核治療のガイドライン.(WHO/TUB/91.161)呼吸器疾患・結核.資料と展望、No.7、1993.
2)青柳昭雄:抗結核薬の副作用と対策.呼吸器疾患・結核.資料と展望.No.7、1993.
3)藤野忠彦:抗結核薬の副作用とその対処.今月の治療.1997;5:629-635.
日本結核病学会治療委員会
委員長 近藤 有好 委 員 岸 不盡彌、渡辺 彰、 松宮 恒夫
和田 雅子、荻原 正雄、亀田 和彦
谷 淳吉、中富 昌夫、佐藤 紘二
来生 哲、 柏木 秀雄、高嶋 哲也
鎌田 達、 古賀 宏延、青柳 昭雄
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